初めての依頼
「ふあぁ……よく寝た」
窓の外はまだ薄暗い。いよいよ今日から冒険者としての初仕事だ。自然と気合が入る。
農家の子なんで早起きは日常だった。まだ薄暗いです。
さて顔でも洗ってきますか。
「おはようございます」
宿屋のおじさんと顔を合わせたので挨拶する。
「やあ、おはよう。早いね。どうだいよく寝れたかい?」
「はい、おかげさまで。井戸は裏でしたっけ?」
「ああ、そうだよ。早く顔洗っといで。
朝ごはん用意するから、しっかり食べて稼いできな。
初日だから気合入れていきなよ!」
どうやら食事はもうできてるみたいだ。
大変だな宿の仕事も朝早くから。仕込みとかもあるだろうし。
裏の井戸の冷たい水で顔を洗ってから食堂の席に着く。
どうやら一番乗りだったようだ。
昨日の夜と同じ固めのパンとシチューをおなかに入れる。
そうか、朝は夜と同じメニューになるのか。
そりゃそうだな。毎日違うもん準備してるわけないよな。
食事を終えて部屋に戻り外出の準備をして玄関に向かう。
「行ってらっしゃい。絶対に無事で戻ってきてくれよ!」
「はは、大丈夫ですって。初日から危険な依頼なんて選びませんよ。ちゃんとまた晩飯食べに戻ってきますから」
「いやー、若い子はいきなり討伐だーとか言って、帰ってこない子もいるから。
やっぱり心配になってね」
そうなのか。自分はそれなりにビビりだから大丈夫だ。うん。
人のいいおやじさんに見送られて街に出る。
冒険者ギルドまでは歩いて10分ほど。
ちらほらと歩いている人もいるが皆せわしなく動いている。
朝のこの感じは好きだな。なんか街が動き出す感じがする。
ギルドはちょうど開いたところみたいで急いで中に入る。
開き待ちをしていた人がいたのか、もうすでに張り出してあった依頼票の所々がなくなっていた。
ボードには似通った等級のものがまとめて壁に貼ってある。
なるほどギルドの奥の方に行くにしたがって等級が上がるのか。
まぁ、俺は一番入口の方の壁なんだけどね。
さて、今日は何をするかな?
無難に草抜きと薬草集めかな?
あ、犬の散歩とか迷い猫の捜索とかもあるのか。
いろいろ見て悩んでいると、あちこちから手が伸びてきて次々と依頼票を取っていく。
考えている場合じゃないな。
「ぼーっとしてんじゃねーよ!邪魔だ、おっさん!」
お、おっさん!? いやいや、俺はまだ15歳だぞ!? どこが“おっさん”なんだ……!
まさかなと思いつつ声の方を振り返ってみると。
そこには10歳くらいの子供がいた。
「ほら、どけよおっさん。依頼票が見えねーだろ」
そりゃ10歳くらいから見たら15歳はおっさんになるのか。
ちょっとショックだ。
とか思いつつ子供に場所を譲る。
なんで子供がここにいるんだ?
「街中の仕事なら登録さえしときゃ子供でも受けられるんだよ。
覚えとけよおっさん。
おし、今日はこれにするか!
じゃーな。お先におっさん!」
呆然としているうちに子供は依頼票をもって行ってしまった。
なんだったんだあれは。
はっ!そんな場合じゃない。
依頼だ依頼。そうこうしてうるちにだいぶ減ってしまってる。
なんとか残っている中で、稼げそうなものを金額だけ見て取ってカウンターに持っていく。
「おはようございます。これをお願いします」
カウンターのお姉さんに依頼票を渡す。
「おはようございますファーストさん。かしこまりました」
さすが受付嬢さんだ。俺の名前を覚えておいてくれてるんだ。すごいな。
「ふふ、昨日ダーレスさんたちといろいろありましたからね。覚えてしまいました」
なるほど。
印象に残っちゃったわけか。悪い意味で。
ま、いいか覚えてもらえたのはいいことだ。
「ファーストさんこちら討伐の依頼になりますが、大丈夫ですか?
たしかにラビットなのでそこまで危険はないと思いますが。
探すのがそれなりに難しいのですが」
「あ、そうな・・そうですよね。大丈夫です。
農家の子なんでラビットを狩ったことももちろんありますので大丈夫です」
あちゃー。討伐系だったか。
最初は軽いのにしたかったんだけどな。
ま、しょうがない。
ラビットなら田舎でも狩ったことあるし大丈夫だろ。
大人付きでだけど。
「そうですか、ではお気をつけて行ってください。討伐部位はわかりますか?」
「あ、はい。耳ですよね。」
「いえ、魔石をお願いします」
「あー魔石ですか。わかりました。ほかの部位は?」
「そちらは買い取りになりますので、できるだけお持ち帰りください。
お肉です。耳は食べられないのでいりません」
「わかりました」
いや、全然わかってないじゃん。
お姉さんもこいつ大丈夫か?みたいな顔してるし。
だってしょうがないじゃない。
田舎じゃ魔石なんて使い道ないもん。
たまにイロスおじさんが買い取るというか勝手に持って帰ってたぞ。
あれ、そこそこ金になるんだな。
イロスおじさんめ、うまいことやってたな。
まぁそこも含めての親父殿との仲なんだろう。
けっこう便宜図っててくれてたみたいだしな。
「では行ってきます。
「はい、お気をつけて~」
ギルドを出ようとしたときダーレスさん一行が入ってくるのが見えた。
わりとゆっくりめなんだね。
「おう坊主。早いな、今日からか?頑張れよ」
「あ、ダーレスさんおはようございます。
昨日はありがとうございました。
すいません。お礼も言わずに。申し訳ありません。」
「いや、お礼はこいつに言ってやってくれよ。昨日もあれから気にしてたんだぜ」
「もう!別に気にしてないってば!」
「ああ、それでもありがとう。剣、大事に使わせてもらうよ」
「……で、あんた。まさか依頼なんて受けちゃったんじゃないでしょうね?」
こいつ人の話聞かないのか?
いや表情から見ると照れてるだけか。
こうしてみるとやっぱかわいいんだよな。うるさいけど。
「受けたよ。ラビットの討伐」
「はーーーー、あんた死ぬ気なの?」
「いやいや、ラビットぐらい余裕だろ。
どうせ農地辺りで軽く3匹狩るだけじゃないか」
「……あんた、ラビットでも死ぬわよ!本気で!」
「いやいや、それはないよ」
ダーレスさんがジェスチャーで聞いてやってくれと言わんばかりでうしろで踊っていた。
「坊主、俺たちは昨日仕事から帰ってきたとこで2~3日休むつもりなんだわ」
「そうよ!ちょうどいいから、一緒に行ってあげるわ。感謝しなさい!」
まじか……この子と一日一緒に行動するのか。黙ってればかわいいんだけどな、黙ってれば。
チラリとみるとダーレスさんがまたもや片手で拝むしぐさをしていた。
仕方ない。
ショートソードも貰っちゃったし一日くらい付き合うか。
それなりにやれるところを見せたら納得するだろうし。
するのか?いやしないかも。
えーい。剣をもらっちゃった弱みだ付き合うか。
「わかったよ。オネガイシマス」
「ありがたく思いなさい。
あ、私は先輩だから討伐はもちろんあなたがするのよ。報酬もいらないから!」
フフンと薄い胸を張って偉そうに見下げてくる。
何しに来るんだこいつ。
こうして、俺の初めての冒険は一人ではなく、妙に騒がしい仲間と共に始まることになった。
果たしてこれが吉と出るのか、凶と出るのか……それは、まだ分からない。
ギルドは国(街)の役所機関の一部ですから、基本的には塩対応です。
魔石など買い取り業務もしてますので、だいたいが処理場も併設していることになります。
処分場や焼却場も備え付けていることがりますので、建物以外の敷地が裏にあります。
訓練場など体を動かしたり魔法も使える場所もあることからかなり大きな敷地を有することになります。
門に近いのは処理したゴミを捨てやすいというのと、冒険者は基本武力を持ってますので守備兵の詰める兵舎の近くでないと危ないので入り口近くにあります。
ちなみに街中で剣などを持つのは届け出さえしていれば問題ありません。
店に入れるかどうかはその店個々の判断になります。
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