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事情聴取

 ハイデルンの街は新興の街らしく雑多な様相を見せ、賑やかな雰囲気から街全体が心なしか浮かれているようにみえた。

それは住んでいる人の気質にも影響するのか、あちこちから売り子の声や客引きの声が聞こえ。

馬車の通る音などがが混じり、街を華やかなものに感じさせていた。


「賑やかだね。祭りでもあるのかな?」


「収穫期でもないし違うんじゃないかしら?

 ここのお祭りは確か春と秋の2回ね。秋のお祭りはこの前終わったところだったはずよ」


この国のお祭りはだいたいどの村も年2回が多い。

春に秋の豊穣を願う『祈願祭』と、秋の実りを神に感謝する『豊穣祭』だ。

どちらかと言えば秋の祭りの方が賑やかにするところが多い。



 俺の村、クリーク村でも同じく年2回のお祭りがあった。

規模としては街に比べると小さなものだろうが、行商人がやってきて珍しい品を売っていたり、母ちゃんたちが集まって御馳走を作ってくれ、それを皆で集まって食べたりした。


俺はその日常とは違う雰囲気と、いつも遊ぶだけの友達と一緒に飯を食えると言うだけで楽しかったものだ。

酔っぱらった大人たちの笑い声とたまにあるケンカの声すらも、非日常を感じさせるスパイスとなっていた。


そういや師匠が来てからはより賑やかになったな。

最初は村の祭りに馴染もうと、軽い気持ちで作った『花火』の魔法。

いつしか、村の祭りのメインイベントになっていたな。

近くの村から見に来る人がいるくらい噂になっちゃってたし。


おっと、つい村の事を思い出しちゃったか。



「祭りじゃないならこれが普段通りということか。

 ルナは来たことがあるんだろ?どこか美味しい料理を売ってる店とか知ってる?

 あとで行ってみようよ」


「私が来たのはかなり前ね。

 あの時はお爺様もいたし、ほとんど出歩くことが無かったからお店なんか知らないわよ。

 でも、いいわね。あとで探しに行きましょ!」


「ファースト、お嬢。デートの約束で浮かれているところ悪いんだけど、

 今日、明日は出かけるのは難しいんじゃないかな?」


ルクスさんが浮かれている俺たちに向かって口をはさんできた。


「お嬢はたぶん領主館だろ?ハイデルン伯爵にご挨拶。

 そんで、俺らはむさい騎士たちに囲まれて地竜の話をするんだ。

 デートなんかしている暇なんてないと思うぞ」


「デ、デートなんかじゃないわよ!

 そうよ。私は伯爵と話をしなきゃいけないのよ。

 貴族のレディとして働かなきゃね!」


ニタニタしながら、慌てるルナの姿をみているルクスさん。

特別修行のお返しのつもりだろうか?


「ルナ。しっかりな」


「わかったわ。みんなあとで領主館に来るんでしょ?

 そしたらハイデルンのおじ様に紹介するわね」


あ、そっか。そうなるのか。

一応、俺たちは招待されたことになるのか。

いきなり領主様とか緊張するな。



ルナとダーレスさんはルイベルさんが馬車を用意していたので、それに乗って行ってしまった。

俺とルクスさん、ドルガンさん、キキョウさんはそのまま徒歩で騎士隊の宿舎に向かう。

宿舎まではトーマスさんとジェリクさんが案内してくれた。


「トーマス隊長、ジェリク隊長。お帰りなさい」


ジェリクさんが返す。


「ただいま戻りました。

 ルイベルは領主館に客人を案内しに行きました。

 こちらの方たちがベルファス近郊の地竜を倒した方々です」


おー、と歓声が上がり。まだ年若い騎士たちに羨望の眼差しを向けられる。


「いろいろ聞きたいと思うが、少し我慢してくれ。

 先に隊長室で事情を聞いておきたいのでな」


「はい、わかりました」


トーマスさんの一声でピリッとした。なかなか規律がいいんだな。

他の者を押しのけてでも話を聞こうとするような人はいないし、強者への憧れもあるみたいだ。

さすがはハイデルン騎士団。

最近は冒険者のようなちょっと乱暴な人ばかり見ていたせいか、ものすごく礼儀のいい集団に見える。


「では、お客人たちはこちらへ。

 あちらの部屋が隊長室になります。少しお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


ジェリクさんが奥の部屋へ案内してくれる。


「いいぜ。みんな行こうか。

 聞かせてやろうぜ、俺たちの武勇伝を。」


ルクスさんが隊員たちをチラッと見て煽るように言う。

役者だなこの人は。

無頼を気取ってルナや俺が目立たないようにしてくれているのか。

いや、単に面白がってるだけかな?


「さて、やっと落ち着いて話ができる。

 隊員たちに聞かせていい話かどうか分からないから、飲み物も出さないで申し訳ない。

 早速だが聞かせて貰えないだろうか?」


部屋に入るなりトーマスさんが話し出す。

ジェリクさんが扉の横に立ち、外で聞き耳を立てている人がいないか警戒しているようだ。


「で、何から話せばいいんだ、トーマス?」


「コジロウ様のところで修行させて頂いて以来だなルクス

 いきなり連れ込んで悪かったと思っている。」


そうか、この人もトーセンで修業したことがあるのか。

それでみんなとは顔見知りなんだ。


「で、まず。その子は誰だ?トーセンで見た覚えはない。

 我々の情報網には、地竜を倒した時にそこにいたと名前が出てきただけだ。

 なのにいきなりお前たちに同行している。

 これまで、怪しいやつどころか、それ以外のやつもお前やキキョウが追い払っていたはずだが?」


ここはルクスさんに任せた方がいいかな?

俺はチラッとルクスさんを見て目で『お願いします』と合図をする。


「こいつはファースト。

 聞いてるんだろ?地竜が一刀両断で倒されていたのは。

 それをやったのがこいつさ」


「ばかな。あれはダーレスではないのか?

 ドルガンかとも思ったが剣筋が違う。ドルガンならもっと潰れているはずだ。

 お前も剣よりは弓だろう。

 ならばダーレスとしか考えられん」


「なら、それでいいんじゃないか?

 こいつも事情があって、あまり言いふらしてほしくないみたいだし。

 そうしておいてくれた方がこちらは助かる。

 お前たちの顔を立てて、一応俺たちが知っている事実は話した」


「ドルガン、ルクスの言っていることは本当か? お前たちもその場にいたんだろ?」


ドルガンさんはいつものように目を瞑ってうんうん頷いているだけ。


キキョウさんはモゴモゴと何かを食べている。

どこから食べ物を出したんだろう。どれだけ持ってるんだこの人?


「キキョウはどうだ?ルクスの言ってることは本当なのか?」


「トーマスがルクスのいう事を信じない理由がわからない。

 私たちは目で見たことしか言ってない。

 信じる信じないはあなたたちの自由だけど」


「そうか。

 ファースト君、君が地竜を倒したとこいつらが言うのならそうなんだろう。

 こいつらが共に行動するのを決めたのだから、ルナ様に危害を加えるような人間ではないというのもわかる。

 これ以上は他領の内政に関わることになるかもしれんので言わないが、一つだけ聞かせてくれ」


「なんでしょうか?」


「アフリマンと言う名に聞き覚えは?」


「ありません。初めて聞きました」


「そうか。わかった、ありがとう」


「それがお前たちが追っているやつらなのか?」


「そうか、お前たちはベルファスのギルドマスターとも知り合いだったな。

 ならある程度は知っていてもおかしくはないのか」


「トーマス。俺たちが聞いているのは、大型の魔物を召喚するようなやばい奴らがいるってことだけだ。

 あと国がそれを隠したがってるっていうこととな」


「エーリッヒめ。余計なことまで言いやがって。それは違う。捜査上必要なことだ」


「俺たちにとっっちゃ同じことだよ。国民に被害が出てからじゃ遅いんだよ。

 まぁお前に言っても仕方ないか。

 で、そのアフリマンってのがそいつらの親玉かなんかなのか?」


「わからない。首魁かもしれんし、奴らの信奉する神の名かもしれん」


「なんだ、手がかりはそれだけかよ」


「お前たちはそいつらとすれ違ったんだろ?その時のことを思い出せるだけ話してくれ」


「わかったよ。そうだな、どこから話すか・・・」




一通り事情聴取を終えて俺たちは解放された。

部屋から出て外に出るまでに隊員たちから、地竜のことや倒した時のことなど根掘り葉掘りいろんな人から聞かれるという事があった。


ルクスさんが名調子で上手いこと語っていたので大丈夫だろう。

ちなみにルクスさんの話しの中で地竜を倒したのはルクスさんとダーレスさんになっていた。


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