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ハイデルンへ

「ファースト。疲れてない?」


「ん?大丈夫だよ。まだまだ行けるさ・・・」


「嘘よ!だってフラフラじゃない!ちょっと休んでもいいのよ。

 ダーレス!ファーストが死んじゃうからちょっと休憩しましょ!」


ベルファスの街を出てからかれこれ3日。さすがに歩き通しとは思わなかった。


冒険者舐めてました。

こんなに俺って体力なかったかな?

まだ自分がルーキーなのだという事を実感させられた。


「そうだな。少し休むか。

 おい、ドルガン。ルクス。ちょっと休むぞ。メシの支度だ」




俺以外の人が手際よく動いて支度を始める。

お嬢様だから体力がないと思っていたルナも、元気に食事の準備を始めていた。

俺は地面にへたり込んでその姿を眺めているだけだった。


こんなのが2か月も続くのか?

いや、この人たちが異常なのでは?


「ファーストは情けない。お荷物になってる」


キキョウさんが干し肉か何かを食べながら俺を見下ろす。


「すいません。

 皆さんすごいですね。これでも体力はある方だと思ってたんだけど、全然でした」


「ファーストも師匠のところで鍛えたらこれくらい大丈夫になる」


「はは、そうだといいですね。

 その師匠さんの訓練って相当厳しいんですか?」


「最初は吐く。次の日も吐く。10日くらい経って吐かなくなる。

 ひたすら剣を振る。ひたすら型をする。

 でも大丈夫、死ぬ前に止めてくれる。神職もいるから安心」


全然大丈夫じゃないじゃん。

死ぬ前までやらされるってことだろ?

皆それに耐えたってことだ。そりゃ体力あるわな。




「もうすぐ、食事できるわよ。

 ファーストもそんなとこでへたりこんでないで、こっちに来なさい」


ルナさんはますますオカンっぽくなってきています。

たぶん情けない奴だと思われてるんだろな。



皆で食事を始めてこれからの事を話し始める。


「ダーレス。このまま歩いてトーセンまで行くのか?

 俺たちはいいけどファーストには無理じゃないか?」


ルクスさんが俺を気遣って言ってくれた。


「そうだな。

 地竜をぶっ殺せるから、もっと体力あるんだと思ったが、歩きじゃ無理っぽいな。

 まったく、ちぐはぐな奴だな」


「すいません。ご迷惑をおかけしまして」


あれ?俺が謝ってるけど。

そもそも俺って無理やり連れてこられてるんだよな?

なんか釈然としないが、現状迷惑をかけているのは間違いない。


そもそも何で歩くんだ?

ルナっていいとこのお嬢さんだよな?

普通、馬車とかで移動するんじゃないの?



「ここからだとトーセンまで出ている便に乗ろうと思ったら、ハイデルンに寄るしかないか。

 ここから南に5日ってとこだな。

 どうだファースト休み休みで行くから、そこまでは頑張ってくれ」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


5日か、それくらいなら頑張れるか。



「えー、馬車に乗るの?歩きの方が絶対楽しいのに」


ルナさん、あなたでしたか。

徒歩の旅を希望したのは。


「ルナ。ごめん。

 今回は馬車に乗せて貰っていいかな。

 ちょっとトーセンまでは歩くの無理っぽい」


「もう!しょうがないわね。いいわよ」


「お嬢がファーストにどんどん甘くなってる。

 俺が行きに同じこと言ったら蹴とばしてきたくせに」


「当り前じゃない!ファーストは強いけどまだルーキーなのよ。

 あなたはお爺様のところで訓練もしたじゃない。

 そんな事ばっかり言ってると、強化訓練に頼んで入れてもらうわよ!」


「ばばばば。バカなこと言うな。

 あんなのに入れられたらマジで死んじまうだろうが!」


「大丈夫よ!レーネ叔母様が楽勝って言ってたもん」


「あのな、お嬢。

 あんな人類最強系の人の話をまともに聞くな。

 体の作りが違うんだよ。

 現にあの人、年取らないんじゃないかってくらい見た目は若いじゃないか」


「ルクス。レーネ様の歳のことは口にしてはダメ。

 どこで聞いているかわからない。

 巻き添え食らって死にたくない」


キキョウさんが体をぶるっと震わせて警戒した。

それを見たルクスさんが、やっちまったといった表情であたりをキョロキョロしている。


何者なんだそのレーネさんって人は?

そんなに怖い人なの?この二人がここまでビビるなんて。



「あの、そのレーネさんて人が師匠なんですか?」


「違うわよ。レーネさんは私の叔母にあたる人で、師範代よ。

 たぶんお爺様と同じくらい強いわ」


「へー、女性でそこまで鍛えてる人は珍しいね。俺の地元じゃいなかったな。

 ルナもそうだけど才能ある人は違うな。うらやましいよ」


「違うわよ。レーネさんはいつも『私は才能がない』って言ってるもん」


「へ、そうなのか?聞いた感じだと、めちゃくちゃ強そうなんだけど、

 ルクスさんもキキョウさんも怯えてるじゃないか」


「強いのはめちゃくちゃ強いわ。

 でもね、昔20年くらい前って言ってたかな。

 その時、本当の天才に会ったって言ってた。

 仕合をして負けはしなかったけど、ギリギリだったって」


「でも勝ったんだろ?」


「相手は5歳だったんだって。

 叔母様はその時はもう成人していたと思うわ。

 詳しい年齢教えてくれないから、分かんないけど」


「5歳!まだ子供じゃないか?

 その歳で剣術?しかも仕合でその人といい勝負をしてた?」


「そうよ、だから天才なのよ」


世の中には凄い人がいるんだな。

そんな化け物みたいな人と5歳で渡り合える人がいるなんて。

うちの師匠もすごいけど、剣術は才能なかったって言ってたもんな。


どんな人なんだろう?

たぶん今頃S級とかになって世界中を飛び回ってるんだろな。

冒険してたらいつか会えるかな?





それから進路を南に変更して再び歩き出す。


自分の力のなさを実感し受け入れると、これまでより歩くのが楽になった気がした。


それだけ力んでたってことか。

だったら、俺はまだ強くなれる。いろんな意味で強くなれる。

なぜだかわからないが、そう信じることができた。


仲間って大事なんだな。

言葉をかけて貰えるだけでこれだけ変わるんだ。

心の持ち方ひとつで体まで変わるんだ。


そういや師匠には仲間って言える人がいるんだろうか?

そうだな、俺はあの人に仲間として扱ってもらえる日が来るように頑張ろうかな。





ハイデルンまではこれまでの行程が嘘のように順調に進み。

そろそろ街が見えてくるころまで来ていた。


「これだったらトーセンまで行けたんじゃない?」


「いや、ルクス。無理はやめておこう。

 ここで引き返すのは時間の無駄になる。

 ハイデルンで予定通り馬車に乗り、一気にトーセンまで向かう」


「了解。

 で、ハイデルンではどうすんだ?

 一応、挨拶に行った方がいいんじゃないのか?」


「それなんだがな。

 面倒ごとは避るべきだと思って、連絡はしていなかったはずなんだが。

 ほら、見てみろ。

 こちらが来るのは既に知られていたようだ」


街の方を見ると、ハイデルンの街を守る大きな門の前に、騎士らしき服装をした人が3名いる。

こちらを直立不動で待ち構えているようだ。


「あれはルイベルか?他の二人はトーマスとジェリクか。

 ハイデルンの誇る守護騎士が揃ってお出迎えか。

 これは無視して馬車に乗るわけにはいかないようだな」





ハイデルンはハイデルン伯爵が治める城壁都市だ。

以前はフルスエンデ領とともに、王都の守りの要として存在していた。


しかし、20年前に起きた王都襲撃事件でフルエンデ家は改易。


それによりハイデルンの守護都市としての地位は増し、多くの騎士を保有する騎士団を独自に結成せざるを得なくなった。


そのための維持費が必要になり、自然とハイデルン領への援助の規模も大きくなっていった。

ハイデルン伯爵はその援助を騎士団だけでなく交易路の整備にも使い、領の経済を発展させた。

その結果、今やハイデルンは王都に次ぐ大都市へとなっていた。


ハイデルン騎士団は王都の騎士団に次ぐ規模を持つ。

五つの隊に分かれており、その筆頭である隊長は守護騎士と呼ばれているのだそうだ。

その守護騎士5名のうちの3名が門で立っているのだ。



街に入ろうとしている人たちは何事かと噂をしながらも、目を付けられないように足早に守備兵の検問の列に並び、街の中からも何が起こるのかと興味深げに人々が遠くから覗いている。




「よく来られました。ダーレス殿、お待ちしておりましたぞ」


「えらい大層に出迎えてくれて。恐縮ものだな。

 この街に寄ることにしたのは、つい5日ほど前に決めたことなんだが。

 どうして分かった?」


「この街に向かう商人や冒険者一行の情報は、漏れなく我らに入ることになっている。

 王都を守る要として、不審者などを見逃さぬようにな。

 その網にたまたまそなたらの情報が混ざっていただけだ」


「どうだかな。

 どうせギルドから例の地竜の情報でも聞きつけて、俺らの足取りでも追ってたんじゃないのか?」


そうか、ギルドは国の機関と言ってたっけ。

エーリッヒさんから国に情報があがって、この周辺の捜査と俺たちの足取りを探っていたというわけか。


「まぁそう言うなダーレス。

 別にお前さんらをどうにかしようってわけじゃない。

 噂の姫君と地竜を倒した英雄たちに何かあっては困るというだけだ」


リーダー格の人が悪びれなく言って笑った。


「で、俺たちはここから馬車に乗って、トーセンまで帰るつもりだったんだが。

 どうせすぐには行かせてもらえないんだろ?」


「うむ、申し訳ないが少し話を聞かせて貰えないだろうか?

 わが主も姫に久しぶりに会えると喜んでおられる。

 コジロウ様の近況でも聞かせて貰えないだろうか?」


「どうせ断れないんだろ?」


ダーレスさんは呆れたように肩をすくめて返事をする。


「そういうことだそうだ。しばらくここで過ごすことになる。

 宿くらいは手配してくれてるだろうから、休憩と思ってしばらく厄介になるしかないみたいだ」


こうして俺たちはハイデルンの街でしばし休息をとることになったのだった。


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