教会
さて、無事犯罪者となった私ことルーデルハインです。
皆さんお元気にされていますでしょうか?
看守さんに聞いたらこの監獄に連れてこられた中では史上最年少という栄誉を得てしまったようです。
いや、いらんけど。
この監獄は通常の拘置所みたいなところとは違い、凶悪な犯罪者を収容する。
そのため何かあってもいいように王都外に建設されている。
あの後、お爺様の命令で騎士団の人から頭に魔法が使用不可になる魔法具の冠錠を付けられた。
そして手を後ろ手に縛られ、いつの間にかやってきた馬車に乗せられてしまった。
馬車には知らない騎士の人が乗ってきた。
ランドさんが自分が乗ると言っていたのだが、ランドさんは今は騎士ではない。
それはできないと突っぱねられていた。
そして馬車に揺られること2時間余り、ここに到着したというわけだ。
まだ7歳ということで、鉄格子のある部屋に入れられたが、頭の冠錠以外は拘束されることは無くなった。
はぁ、これからどうなるんだろ。
やっぱ死刑になるのかなぁ。
また死ぬのか。痛かったり苦しいのは嫌だなぁ。
まだ現実感があまりないのか、そんなことを考えたりしてぼーっと過ごしていた。
3日が経った。
特に進展はなし。非常に暇です。
取り調べはもちろんありましたよ。
担当の人はたぶん神職の人だと思う。それも貴族の。
でも特に言うことないんだよな。
「君は魔法が使えることを隠していた、なぜかね?」
「騎士団に入りたかったからです」
「ふむ、騎士団に入りたい。ということは王には敬意を払っているのかね?」
「はい、お爺様とも騎士になって王と国を守ることを夢見て暮らしていました」
「そうか、ではなぜ魔法をその王城に向けて撃ったのかね?」
「使ったことのない魔法でしたので、そこまで威力があるとは知りませんでした。申し訳ありません」
「新しい魔法だったようだが、どこでその魔法を覚えたのかね?」
「頭の中にその魔法がぼんやりと浮かんできました。それをそのまま再現しました」
「ということは、その魔法は君が開発したとうことになります」
「今まで使われたことが無いのであればそうかもしれませんね」
毎度こんな感じだ、別に嘘は言っていない。
本当のことも言っていないけど。
レーザーなんて言ってもわけわかんないだろうしね。
だいたいこんな感じで尋問と言うか、話が1日一回はある。
たぶん貴族で子供だから気を使われていたんだろう。
さらに3日経った。
取り調べ担当の人は毎日来てくれるので、だいぶ打ち解けてきた。
俺の置かれている状況も少しだけど教えてくれるようになった。
どうやらお爺様が貴族の地位を捨て、領地も返納するから俺を許してほしいと嘆願してくれているらしい。本当に申し訳ない。
こんな俺のことなど放っておいてくれと言いたいが、言える状況でもない。
お爺様とお婆様にただひたすら感謝と謝罪の祈りをする日々である。
あと、意外なところからも援護射撃があるようだ。
教会である。
教会は俺が使ったレーザーの魔法を神の裁きの光だと王に進言し、その魔法を使える人間を処罰するのは神に対する冒涜ではないかと、論を繰り出しているらしい。
中には俺のことを神の使徒ではないかと言っている人もいるらしい
もちろん俺は神の使徒なんかではない。
子供で反省もしている。教育をし直して国のために働かせるべきだという意見もあると聞いた。
教会の思惑としては、強力な魔法を使える神職がいることはそのまま教会の力になるという理屈なのだろう。
本来ならば即刻、刑が執行されるはずの俺がこうして長々と留め置かれているのはそういった理由からであった。
そういやこの人も神職なんだよな。
ということは俺の使った魔法について何か思うところでもあるのだろうか?
「私が使った魔法なのですが、どう思われました?」
「そうだね。単純に恐ろしいと思った。魔法というものはこれまでそんなに戦いには向いていないと思われていた。
しかし君の使用した魔法は違う。
明らかにこれまでの魔法とは威力も早さも異なっている。
教会の上層部が躍起になるのも仕方ないと思う」
「そうですか。ではこの魔法を取引材料として使えるのではという事でしょうか?」
「逆だ。国の上層部はそんなものが教会の手に渡れば恐ろしいことになると思っている」
さっさと君の存在ごと、魔法を消してしまいたいと思っているだろう」
「軍に入るとか?貴族と神職を兼業している人もいると聞きましたが」
「一度、王城を攻撃したような人間をか?それこそありえんだろう」
ダメだ、手詰まりっぽい。
大人しく拘束は受けたけど、ずっとこのままでい続けるのも嫌なので、神の力を国の為に使うので許してくれというのも難しいらしい。
さらに3日経った
「どうやら君は出られるようになるみたいだ」
「え、そうなんですか?よかった久しぶりによい話を聞けた気がします」
「ただ、たとえ出られたとしても一生、国と教会による飼い殺しになるだろう。
その冠錠もしばらくは付けたままになる。教会の更生システムを受け。
国のために魔物との戦いにその力を使う。それが今後の君の人生だ」
「仕方ないと思います。生きていればまだ救いはあるかもしれませんから」
どうやら国が折れてきたらしい。
無罪放免とはいかないようではあるが、ここから出られるかもしれないという事であった。
つまらない人生を送ることになりそうだが、それでも死ぬよりはましであろう。
しかしなぜ急に国が折れだしたのか、理由は教えて貰っていない。
なにか裏で動いているのであろうか?
そして、それから10日後俺は釈放となった。
「これが娑婆の空気か。やっぱうめえな」
「何を言っているんだ君は?空気など、どこで吸っても同じだろう。
わけのわからない言動はやめておくんだな。
君は自分が危険分子であるという事を自覚した方がいい」
一度言ってみたかっただけなんです。
出来心なんです。そんな目で見ないで下さい。
さて、迎えは来るのかな?お勤めご苦労様です的な。
家族とか家の人とかいないのかな?
きょろきょろと周りを探すがそれらしき人は誰も見つからない。
「君に迎えが来ることは無い。法律上君は既にフルスエンデ家からは外されている。
君はただの神職見習いの孤児として、これから生きていくこととなる。
君は、君の親族および関係者と会うことは禁じられている」
そっか、そうなるのか。けっこうショックだな。
もうお爺様やお婆様、ランドさんたちとは会えないのか。
ものすごく迷惑をかけたし、たぶん俺のためにいろいろ動いてくれたはずだから、お礼くらいは言いたかったな。
何より元気な姿を見せてやりたかった。
収容所から馬車に乗って人目につかないように街の中に入る。
そのまま馬車は教会近くまで行き、そこで下ろされた。
教会は王都でも中心部あたりにあり、フルスエンデ家からは少し離れた場所にある。
俺も何回か足を運んだことはあるので、場所だけは知っていた。
「さて名乗っておこう。
私の名はジェキル・バーグマン。
これから君の神職としての師という事になる。
好きなように呼んでくれて構わないが、人前では一応礼儀をわきまえてくれ」
尋問担当の人、ジェキルさんっていうのか。
この人がそのまま俺の身元引受人になってくれるようだ。
「では、先生と呼ぶことにします。
先生、よろしくお願いいたします」
「よろしい。では私の宿舎に向かおう。
私は教会で一室を頂いている。
君は私の部屋に空いている倉庫があるので、そこで暮らしてもらう」
俺の返事も聞かずに、振り返って歩き出した。
まるで俺のことなどいないものかのように、ずんずんと進んでいく先生。
気難しい人のようだけど、この人が俺の生命線か。
機嫌を損ねないようにしないとな。
教会の入り口で守衛の人に止められた。
「バーグマン様、ご苦労様です。 そちらの少年が例の?」
「ああ、そうだ。これから私の部屋で暮らすことになった。
何か用を申し付けることもあると思うので、覚えておいてくれ」
「わ、わかりました。
あの。一人で出歩かせるんでしょうか?」
めっちゃ警戒されてますね。そりゃそうですよね。
こちとら重犯罪者だ。心配にもなりますよね。
「そうだが、なにか不都合でも?
教皇猊下には許可を頂いている。問題はないはずだが」
「いえ、そうですか。わかりました・・・」
この人わりと偉い人なんだな。教皇に会うことができるなんてそんな簡単じゃ無いと思う。
話は終わったとばかりに、ずんずん進んでいく先生。
慌てて遅れそうになるのを、小走りで追いかける。
何も言わずに進んでいく歩みの早い先生を、遅れないようについて行く。
そのうち開けた場所に出て、ここで待つように先生に指示された。
先生は誰かを呼びに行ったようで、ひとりぽつんと何もない部屋で待たされる俺。
知らない場所で一人で待つのはとても不安だ。
たぶん5分も経っていないだろうが、俺は1時間ほどにも思えた。
先生が誰かを案内して連れてきた。
「ルーデルハイン。そこで片膝をつきなさい。
決して顔を上げて話さないように」
「はい、先生」
「おお、彼がそうか」
先生が連れてきた人が話を始める。よっぽど偉い人なんだろうな。
顔見ちゃダメってどんだけなんだ?
「はい、猊下。彼がルーデルハイン。
先日の(裁きの光)を放った少年です」
やっぱり教皇様でしたか。
この国で王様と並ぶ権勢を持つ人。
この人の機嫌次第で俺は死んでいたのだろう。
教皇様が話をされる。
「ルーデルハイン。
先日の魔法はそなたが生みだしたと聞きました。
王との約束で、あの魔法は封印することになりましたが、
そなたには神の力の代行者として期待をしております。
ジェキルのいう事をよく聞き。
神の意志を実現するために力を使ってください」
「は、この度は命を救って頂きありがとうございます。
神のため猊下のために働かせて頂きます」
「ほっほっほ。なんとも頼もしいではないか。
ルーデルハイン。
お主の命は、儂だけではない多くの人々の尽力と犠牲で繋がっていることを覚えておくのだぞ。
それだけは忘れるでない」
「はい、肝に銘じておきます」
「ではジェキルよ、後は頼む。くれぐれもよろしく頼むぞ」
「はっ!承知仕りました」
足音が遠のいていく。教皇様は行ってしまわれたようだ。
「ルーデルハイン。もういいぞ。では、部屋に行こう」
先生はスタスタとまた歩き出してしまう。
慌ててついて行く俺。
こうして俺の新しい生活が始まったのであった。