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分解

さて、今日は魔法具の分解をするぞ。


起き抜けにごそごそと倉庫部屋を漁りだす俺、朝から何やってんでしょうね。


「あの、ルー様。何をしてらっしゃるのでしょうか?

 ベッドにいらっしゃらないと思ったら、倉庫部屋でごそごそと音が聞こえますし。

 せめてお顔を洗われてからなさってはどうですか?」


この人はスーリさん。メイドだ。

別に俺付きのというわけではないが、朝はこの人が起こしに来ることが多い。

起こしに来た俺がいないから、ここまで探しに来たのだろう。


探しに来たのはいいが、この部屋の主である俺が倉庫にある荷物を階段状にし、天井に手が届くように積み上げているのを見てちょっと引いているのであろう。


「この部屋の明かりの魔法具をねって、よいしょ。

 取り外そうと、っこらしょ。

 してんだよっと。 取れた!」


ふー取れた。取れた。思いのほか簡単に取れるんだな。


「あー、ダメですよルー様。

 壊しちゃダメじゃないですか! 旦那様に怒られますよ!」


想定通り。スーリさんはお爺様の名前を出して俺の行動を止めに来た。


「君が言わなきゃわからないし、怒られない。 そして、君にはこれをあげよう」


照明の魔法具を持ちながら地上に降り立つ俺。

魔法具を脇に置いて、流れるような動作で俺はスーリさんに袋を一つ渡す。


スーリさんは袋と俺を交互に見て、それから袋の中身を確認する。

中身は砂糖菓子だ。甘い甘い砂糖菓子。

こんな事もあろうかと用意していたのだ。


スーリさんは甘いお菓子が大好きである。

それはそれは、とてもとても大好きなのである。



「ルー様はずるいです。こんなもので私を買収できると思ってるんですか?」


「いらないの?じゃ、返して。

新しくできた店の試作品らしいけど。お婆様に貰ったのを取っておいたんだ」


3日前に出入りの商人がお婆様と俺に置いていったやつだ。

お婆様は自分の分も俺に渡してくれたのでその分を取っておいたのだ。

俺の分はもう食べたので無い。


その時のスーリさんの表情を見てこれは使えるかもって思ったんだよね。

めちゃくちゃ欲しそうにしてたんだもの。


この国では甘いものは高価なものになる。

庶民が買えないこともないが、高級店の上品なお菓子はまだまだ憧れの品である。

そんな高級店の新作スイーツが今、スーリさんの手の中に!

どうするスーリさん?



「いらないんでしょ。早く返してよ。朝ごはんの前に食べちゃうから」


「だ、だめですー。朝ご飯が食べられなくなります。

 なので、これはスーリが預かっておきますー」


「いや。じゃあ、あとで食べるから返してよ。それ。

 お婆さまに貰ったものなんだから。大事よ。それ」


「言いません・・・・」


「え、なんて?」


「だから、言い付けませんから。返しません! これはスーリのです!」


落ちたな。ニヤっ。




無事スーリさんの買収もできたので、顔を洗って朝の食事をとるために食堂に向かう。


「おはようございます。お爺様。お婆様」


「おはよう。ルーデルハイン。」


「うむ、おはよう。」


普通の貴族は朝の食事は一緒に取らないもんなんだそうだ。

俺はなんだか味気ないので、とれるときは一緒に食事をしましょうと二人にお願いしていた。

その方が情報共有もできるし。なによりおいしいからね。


「私は婦人会があるので今日は留守にいたします。 ルーは今日はどうするのかしら?」


「はい、今日はスーリと遊ぼうと思います」


しっかり巻き込んでおかなきゃね。


「そうなのね。お仕事の邪魔をしてはダメよ。

 スーリさん今日はルーをお願いしますね。本ばかり読んでいるようでしたら。

 散歩をするようにお願いしますね」


「はい、かしこまりました」


スーリさんが給仕をしてくれながら応える。

一瞬ジトっと俺の方を見たがスルーだ、スルー。


「ルーデルハイン。昨日のことはすまんが諦めてくれ。

 アデリナとも話したが、やはり難しいのだ」


「わかっております。お爺様。

 もうわがままは言いませんので、大丈夫です」


「そうか、ならいいのだが。

 儂も今日は夕方まで会議あるので留守は任せたぞ」


「はい、わかりました」



食事のあとお爺様とお婆様を見送る


「では。行ってくる」


「私も行ってまいります。あとはよろしくお願いしますね」


お爺様とお婆様は、執事とメイド長に後を頼んで出かけて行った。



「おっし、スーリ。部屋に集合だ。俺の助手は任せた」


「ルー様。何をなさるおつもりです?

 危ないことはだめですよ。私が叱られます。

 それに午前中は仕事がありますので、無理ですよ」


「じゃあ、それが終わってからでいいや。

 時間ができたら呼びに来てよ。それまで準備しておくからさ」


「むー。なんだか嫌な予感がしますが。わかりました。

 エッチなことはだめですからね!まだルー様には早いです」


何を言ってるんだこいつは。俺はもうとうに精神年齢は50を超えているんだぞ。

・・・まだ全然いけるじゃないか!

って違う。まだ7歳だ俺は。危ない危ない。


「バカ言ってないで仕事に行くんだろ。早くしないとメイド長に怒られるぞ」


「はーい。では行ってまいります」


とてとてと走りながら向かうもんだから。ほら、すぐに怒られてるじゃないか。

何やってるんだあいつは。



俺はその間に準備だな。


部屋に戻って先ほど取り外した照明の魔法具を机に持ってくる。


うーん、いきなり分解とかしたら危ないんだろうか?

魔石なんていう謎エネルギーだし。いきなり爆発とかしないだろうか?

とりあえず外側だけ外してみるか。


ふむ、なるほど。外側は特に問題なしと。

このアンプっぽいところと電球っぽいところ以外は特に変なところはないな。


電球(めんどうなので電球とアンプと呼ぶ)の中にフィラメントらしきものがあって

アンプの中に入り込んでいるのか。まんま電灯だなこれ。


やっぱこのアンプの中を割ってみないとわからないな。

しかし、これどこが開くんだ?

繋ぎ目はあるのだが、ことから外れるようにもなってないし、電球なら捻ったら外れるんだが、回りそうもないし。



助手のスーリさんには道具をお願いしようと思って巻き込んだ。

ドライバーとかペンチとか似たような道具があるのは知っているのだが、俺にはどこにあるか見当もつかない。そういったものは家の管理や掃除をしている人しか知らないだろうと思って取ってきてもらおうと思ったのだ。


やっぱりスーリさんが来るまで待ってるしかないか。




昼の軽い食事をとって、俺がうたたねをし始めた頃スーリさんがやっと来た。


「お待たせしました。ルー様。スーリが来ましたよ」


「お、そうか。んじゃやろうか」


「やろうかって何をするんです?まだ何も聞いていないんですけど」


「いや、この照明の魔法具を分解しようと思ってね」


「ダ、ダメですよルー様。怒られますよ。魔法具は触ってはいけないものって言われてるんですから。高いし壊したら大変ですよ!」


「いや、これはもともと壊れていたんだ。

 壊れたものが着いているのが気に入らないから外そうとしたら、

 なぜかバラバラになってしまったんだ。

 そういうことなんだよスーリさん」


「なーんだそうだったんですね・・・・・。って騙されるわけないじゃないですか。

 ダメなものはダメなんです。私が怒られる未来しか見えないですー」


「じゃあ返してもらおうか、袋に入ったものを!

 おそらく昼食のあとにみんなに隠れてこっそり食べていたんだろう。

 それで遅くなったんではないのかね?君は!」


「みんなに「私はお菓子で買収されました」ということをバラされたくなければ、

 そういうことにしておくんだ。いいかね。スーリ君」


「うう、ひどい人ですルー様は。

 こやってスーリもいつか手籠めにされてしまうんですね」


「人聞きの悪いことを言うな!「も」ってなんだ「も」って。

 俺が誰をいつ手籠めにしたんだよ」


「いや、そこはノリかと思いまして。

 いいですよ。壊れて捨てたって事にしとけばいいんですね。

 たまにありますし。別に大丈夫なんじゃないですか?

 分解しても神職さん以外には何の意味もないって聞いたこともありますし」


なんだよ。びびって損したじゃん。あるのかよそんな事っていうぐらいには。

お菓子返せよ。お菓子。


「じゃあ、分解するからなんか道具出してよスーリえもん」


「なんですか、そのえもんって言うのは?

 うーんそうですねえ。堅そうですから挟んでバキっといっちゃいますか?」


大丈夫かそれ?爆発とかしない?大胆過ぎないこの人?


「ちょっと道具探してきますんで、待っててくださいね」


とてとてとスーリさんはまた走って行ってしまった。

ほら、遠くで怒られてる声が聞こえる。

学習しないなぁあの人は。




スーリさんはどこからか大きなペンチのようなものを借りてきてくれた。


「さ、これで挟んでバキーっといっちゃってください」


「大丈夫?爆発とかしない?」


「大丈夫でしょう。たぶん」


適当だなぁ。ま、でもそれ以外に方法なさそうだし、いっちょやってみますか。


アンプをビッグペンチの先に挟んで力を入れる。


「堅った。びくともしないぞこれ。スーリさんも手伝ってよ。

 えーっと、スーリさん。その黒いところを挟んで柄の部分を縦にしておいて。

 そこを踏むからさ。手を挟まないように気を付けてね。

 そうそう。そんな感じ。

 いくよっ

 ふんっ、ふんっ、割れろっ、割れろって!」


その時バキっと音がしてアンプの部分が割れる音がした。

魔法具は爆発することもなかった。よかった。


さて、中はどうなっているのかな?


「んー見たところ魔石っぽいのにコードが繋がっていて、もう一個の魔石とくっついて、

 よく見たら魔石が8個も入っているぞ。その中の魔石は結構大きいな」


そりゃ高いはずだわ、こんだけたくさん魔石を使ってたら。


「この魔石って使い捨てなのかな?壊れた魔法具の魔石ってどうしてるの?」


「まだ新しいものは神職さんが回収することもあるみたいですけど、

 何も言ってきませんからたぶん使い捨てじゃないでしょうか?

 普通にゴミに出していると思いますよ」


「ふーん、そうなんだね」


魔石って何ごみなんだろ?この世界のこの時代にその概念があるかどうかはわかんないけど、いずれ問題になりそうだな。

魔石の不法投棄とか魔物の死体の処理とか。

ま、そこら辺は俺は関係ないだろう。なにせフルスエンデ家は武で生きてきたんだから。



そんな事をつらつら考えながら、アンプの中に指を入れて魔石をころころと転がして遊んでいた。


「痛っ!」

突然指の先に痛みが走り、俺は手を引っ込める。


「ルー様。どうされました?怪我しました?見せてください。血は出ていませんか?」


引っ込めた指を見ると、目の焦点が合っていないのか、右手の人差し指がブレて見えている。

指先が無くなっているということは無かったが、なんか奇妙な違和感がある。

感覚としてはジンジンとしているが、少しずつ治まっている。

ただ指先がブレて見えるのだ。

自分のものでないように。いや自分の指ではないと主張するように。


なんだこれ?どうなってんだ?


「よかった怪我はしていないみたいですね。でも危ないですからもう指を入れたりしたらダメですよ!」


「スーリさん、これおかしくなってない?なんかブレているように見えるんだけど」


「私には普通に見えますね?心配でしたらお医者様か神職様を呼びましょうか?」


「あ、うーん。今はいいかな。気のせいかもしれないし。痛みは引いてきているから」


「そうですか、また痛み出したり腫れたりしたら言ってくださいね」


指先の感覚を確かめながら、アンプの割れたところから中を覗き込む。

よく見たら魔石を繋げているコードのところに小さな魔法陣があるな。

あれが制御回路の役割でもしているのだろうか?


ん??魔石の数が足りない気がするぞ。

さっき見た時は8個あったはずなのに、今は6個しかない。どこかに落ちたのか?

周囲をくるくる見回してみたがどこにも落ちているような事は無かった。

アンプの中に残っているかと思って確認してみたはやっぱり6個だ。


あれ?数え間違えたかな?アンプの中は俺しか見ていないのでスーリさんに聞いても仕方ないしな。


「では、ルー様。おかたずけの時間ですよ。

 もう満足されたでしょ。特になにも無かったですし。面白いもんではなかったですね。

 でもこうやって子供って大きくなっていくんですね。

 お姉ちゃん感動です」


誰がお姉ちゃんだ誰が。


魔石の数は気にはなるが、たしかに見てわかるような何かがあったわけでもなかったから面白いかどうかと言われると面白いもんでもなかったな。



今日のところはこれでかたずけておきますか。


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