魔法具
ミルデラン王国
大陸の北側に位置しているその国は、北と東に海があり、西と南は山脈で他国と隔てられている。
人口は推定5,000万~7,000万人。
神話の時代からいくつもの集合分裂を繰り返し、現在は水の神であるアピトを奉る教会に支持されたミルデラン王家が王権を持つ。
約800年の歴史があり、初代のナミマ・ミルデランがアピトより信託を受け、周辺諸国を統合して誕生した。
初期は王が教皇も兼ねていたが、時代が降るにつれ王弟など王家の継承上位者が教皇を代任するようになり、いつしか王と教皇は二分されていった。
当初、王の権威は教会を通じて国全体に及んでいたが、教会の力が強くなるとその限りでは無くなっていってしまった。
実情は封建制の元で貴族領主達の連合国家に近いものとなり、そこに教会勢力の影響が複雑に入り組み、王の権威はかなり落ちてきていると言える。
フルスエンデ家は初代王ナミマが信託を受けた頃からの仲間で、王の剣として各地をまとめるのに多大な功績を上げたことで貴族に列せられた。
領地は王都から近く、公爵家などの王家に近い管理地を除くと一番近い領地を長年治めている。
幾人もの騎士団長を排出する名門で、魔物の討伐や他国との戦争でも功績を上げたが、侯爵への昇爵はついぞ叶っていない。
そこには初代王の遺言のためだとか武の名門に侯爵位を与えるのを歴代の王が怖がったなどいくつもの憶測を呼んでいる。
7歳になった。
俺は名門フルスエンデ家の当主として恥ずかしくないように。
ニートをしている。
だって毎日の稽古なんて無理に決まっているじゃん。
最初はほら、毎日やってたよ。
朝日が昇る前に起きて、庭とか出て剣振って型やってってね。
でも、飽きたんです。
一人で毎日毎日同じことやるなんて無理だと思いません? ね?
ランドさん?
ああ、ランドさんね。
あの人は師匠の屋敷での修行が終わったころからお爺様の仕事が忙しくなってきて、お爺様について毎日仕事してますよ。
魔物の動きがなぜか活発になってきたという事で、お爺様は大忙し。
それを見かねたランドさんは、俺が修行である程度の力をつけたと安心して、お爺様の仕事を手伝い始めた。
騎士団にいたころより忙しいんじゃないのか?
あの人は有能だからねえ。あっちこっちに引っ張りだこみたい。
今はたまに顔を見るくらいかなぁ。
一人になった俺は誰の目も無いと緩む性格なので、家にこもってお婆様に新しい本をねだってそれを読んで、メシ食って寝て、起きて本読んで、メシ食って寝ての繰り返し。
そりゃね。そこらの7歳と比べたら優秀だと思いますよ。
読んでいる本も冒険ものに飽きて、政治経済とか、それこそ最初に切った魔法の本なんかも読み直したりしてますから。
剣はまあ10日に1回。
ごめん嘘ついた。30日に1回くらいは触ってます。
字面の通り触ってる程度だけど。
ま、そこらの7歳には負けんだろうから。別にいいんじゃないすか?
そんな感じでのんびりと日々を過ごしている俺です。
来年から貴族の子弟が通う学校に通わされるみたいなので、その試験勉強などをちょこちょこと始めておりました。
ある日のこと。
きっかけは些細なことでした。
「ルー様。そろそろ日も落ちてきて暗くなってまいりました。
部屋の明かりを点けてもよろしいでしょうか?」
メイドさんが薄暗くなってきた部屋の明かりの点灯許可を聞いてきた。
たぶん、いきなり点けると本を読んでいる俺がびっくりするだろうから聞いてくれたんだと思う。
ちなみにこの屋敷の人には俺のことをルー様と呼ぶようにお願いした。
ルーデルハインって長いし堅苦しい感じがするからね。
呼び方ひとつでも相手との距離感が変わるのを俺は前世で学んでいたから。
もちろん無理やり呼ばせているわけではない。
そういうのが嫌な人もいるからね。
執事の人やメイド長さんはルーデルハイン様って呼んでいるし。
立場や場所によって使い分けて貰ってるって感じ。
「もうそんな時間ですか。すっかり読みふけってしまいましたね。お願いします」
「ルー様は本が本当にお好きですね。最近は剣術よりもそちらにご興味が移られたみたいで」
「うーん。ただ飽き性なだけなんだけどね」
「アデリナ様はルー様が怪我をされる心配がないと、安心しておいでですよ」
「そうですか。それならいいか」
メイドさんが明かりを点けてくれる。
「そういや、この明かりってどういう原理で点いているんだろう?知ってます?」
「すいません。原理まではわからないです。申し訳ありません」
そうだよね。メイドさんに聞くような事じゃないか。
「誰か詳しい人はいないかなぁ?
魔石から魔力?を引っ張って何かに変換しているとは思うんだけど、ちょっと気になっちゃって」
「そうですねぇ。こういった道具は教会の神職の方が作られているのではないでしょうか?」
また神職か。
魔法やそこらに関わるものは全て教会が管理し独占している。
たぶん実際に作っているのは教会にいる神職じゃなくて、魔法は使えるけど教会で上を目指せるような魔力のそこまで強くない、神職とは名ばかりの下請けに出していると思う。
そして、それを買い上げて実際に販売しているのが教会なんだろう。
貴族の屋敷や公共の施設くらいにしか付いていないみたいだけど、それでも膨大な量になる。
独占しているってことは教会はめちゃくちゃ儲けているんだろうな。
もちろん、そういったものの技術的資料は秘密なので、一般に売り出されている本には載っているはずもない。
これは、教えてくれって言っても教えてくれそうにないな。
わからないことは知りたい。
教えてくれないものはもっと知りたい。
ダメだと言われると無理を通したくなる。
そして俺は名門貴族でしかも子供だ。
なんとか社会見学的な形でこっそり見ることができるんではないだろうか?
そう決めた俺は急いで駆けだす。
善は急げだ!
善ではないが、決して。
「お婆様。と、お爺様!お願いがあります!」
「ルーデルハインよ、お前、俺をついでに呼ばなかったか?」
「そんな事はありません!大好きなお爺様!」
「そうか。ならいいんだ。なんだいルーデルハイン。お爺様にお願いでもあるのか?
また本でも欲しいのか?」
よっし今日もチョロいなお爺様は。
「いえ、いつも本をありがとうございます。
今日は違ったお願いでして。
家の明かりがあるじゃないですか、あれの原理が知りたいのです。
お爺様のお知り合いで工房など見せて貰えるところはありませんか?」
「魔法具か・・・・。
すまんなルーデルハイン。それは難しいな」
「教会の管理だからでしょうか?」
「わかっているのなら、話は早い。
そうだ、教会の秘事に関わることになるからだ。
そこは触れてはいかんのだ、特に貴族の我らはな」
「それは庶民であれば関わってもよいということでしょうか?」
「答えはそうであり、そうでないともいえる。
実際、製造は教会ではなく街の魔法具工房で作られている。
そこに出入りしているのは工房で働く神職と手伝いなどの庶民になる。
これはわかるな?」
「はい、そうなるでしょうね。教会で作っているとは思えませんから」
「そうだ、管理はもちろん教会が行っているし、守秘義務も厳しい。
そこに貴族が関わる場合はなんだ?」
「製法を盗み、自分の工房で作らせる。ですか?
流通させなくても自分の屋敷で使う用にとか。
それくらいは隠れてやっていそうな貴族もいそうですね
あと目端の利きそうな商人もやっているかもしれません」
「それがいかんのだ。それが公になると教会が牙をむく。
この国において教会の力を敵にまわすわけにはいかん。
実際、お前の言う通り隠れて製造して自宅で使っていた貴族は取り潰され。
製造にかかわった神職は異端とされ極刑となった」
「あなた、あまり子供に怖いことを言わないでくださいな」
お婆様が身震いしてお爺様を諫めていた。
おっそろしいな。
昔聞いた密造酒の比じゃないじゃないか。
うーむ、そうなると自分で考えるしかないのか。
でも俺は魔法は使えないし。どうしようか。
よっし、こうなったら分解するしかないな。
あまり使っていない部屋にある倉庫の明かりなら無くなっても特に問題ないだろ。
「わかりました。無理を言って申し訳ありません。
それでは今日は休むことにします。
おやすみなさい!」
「お、おう。そうか。お前にしてはやけに物分かりがいいな。
ま、いい。お前も来年には学校に行くんだ。
今のうちにもっと遊んでおけ」
そこは勉強しろじゃないんだ。お爺様。
ま、俺は趣味で読書しまくっているから、大丈夫だと思われてるのかな。
今日はもう遅い、明日になったら分解してみるか。
部屋に戻った俺はさっさと寝ることにしたのだった。
それぞれの後書きにその話にまつわる設定などをちょこちょこと書いていっています。
あとでまとめて設定資料にするつもりではありますが、気になる方は見返していただければ幸いです。
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