師の言葉
「次は、ソウゼンとヨウジロウじゃ」
師匠の声が仕合が終わったことを知らせる。
俺が痛みで動けないでいると、ずるずると他の門弟たちに引きずられて下げられ、稽古場の隅まで片付けられた。
もうちょっと丁寧に扱ってくれない??
一応怪我人なんですけど。
「さすがです。ルー様。
初めての仕合であそこまで動けるとは!」
ランドさんは優しい、主への気遣いというやつだな
「でも負けちゃったし。慰めはいいよ」
無様だった。あっさり負けちまったな。
もうちょっとうまくやれるかと思っていたんだけどな。
「何を言っているのですか、あなたはまだ5歳なのですよ。
相手は女性とはいえ10ほど年が離れているではありませんか。
そんな卑屈な態度は相手に失礼になりますよ!」
「そうですよ。
5歳の子供に本気でかかっていった私の立場も考えてください。
私が勝てたのは単に膂力の差だと思います」
レーネさんがこちらに歩いてきてそう言ってくれた。
膂力の差って・・・。そんなことは無いと思うが・・・
そうか、俺は悔しいのか。それで卑屈の虫が出てきたんだな。
中身がおっさんだから女の子に負けて悔しいのか?
たった1回の仕合で何を言ってるんだ?
ムキー!だったら子供らしくやってやる!
「おい、お前!
レーネとか言ったか。次は負けねえからな。覚えとけよ!」
「いいわ、いつでもかかってらっしゃい。まだまだあなたには負けないわよ」
レーネさんはふふっと笑って去っていった。
そうこうしているうちにも次々と仕合は進む。
この道場?のモットーと言うか師匠の教える技の質みたいなもんで、
ムキムキの男がガチンガチンと剣をぶつけるような事が無いから、自然と一撃必殺をいかに早く出して相手に当てるかという戦いが多く。1つ1つの対戦が早い。
あ、ランドさんも仕合をしたよ。
相手は20歳くらいの細身の剣士の人だった。
ランドさんは手堅く相手の動きをいなし、胴への一撃で1本を取った。
ランドさん。あんなに強かったっけ。
そうだよなお爺様からもう少しで一本なんだものな。
俺との訓練の時は本気出してなかったのかな?
「ランドさん。俺と訓練する時いつも手抜いてたの?」
ランドさんに聞いてみる。
「いえ、そんなことはありませんよ。
たしかに最初のころはそうだったかもしれませんが、最近は本気でやってます」
おかしいな。なんでなんだろ?自分が強いのかよくわからなくなってきた。
初めての仕合は俺にとって非常に勉強になった。
あとで聞いたがレーネさんは同世代の中では飛びぬけて強いらしく。
5歳の子供にいいようにあしらわれていた(周りからはそう見えていた)のでちょっと落ち込んでいたそうだ。
それから俺は剣術漬けの日々を過ごすことになる。
でも師匠はトーセンに本拠があるというので、そんなに長くはいられないという事だった。
それから半年が過ぎた。
もうすぐ師匠がトーセンに帰ってしまうというある日の事だった
「坊主。儂はもうすぐトーセンに帰るが、おぬしはどうする?
この屋敷の人間もほとんどトーセンに行く。
ここに残っても修業は続けられるかもしれんが、相手がいまい」
そうなのである。レーネさんも他のみんなもトーセンに行ってしまうのだ。
俺はそもそも最初の目的が護身だ。
子供が力を持つには危ないから力の使い方、隠し方を学ぶためにここに来た。
剣の道を極めるとか、最強になろうとかそういう事ではなかった。
でも、俺は始めてみてのめり込んだ。
それこそ祖父母が呆れるくらいに。
俺としてはついて行きたい。
でも、トーセンは遠い。
行くと言ってしまうと祖父母が泣いて引き留めるだろう。
もしかしたら二度と会えなくなるかもしれないのだから。
この世界はそういう世界だ。
いつでも会いたいときに会える訳ではないし、急に命を落とすこともある。
前にいた世界と同じ感覚で決めてしまうと後悔することがたくさんある。
「儂らは4日後に出発する予定じゃ。それまでに決めておくがよい
なに、急に一人増えたからと言って大して変わるまい」
可かと笑い、師匠は師匠は俺に猶予をくれた。
そんなわけないでしょ。
かなりの長旅になる。途中で補給はできるとはいえそんな簡単なもんじゃない。
それに俺は貴族の子弟で、しかも名門といわれるフルスエンデ家の長子だ。
何かあったら、お爺様との関係はもちろん、国からもその責任を問われることになるだろう。
「ありがたいお話ですが、私は残ることにします」
そう決めた。
「そうか、ではこれでお別れかもしれんのう。
お前さんはジジイに似て頑固で、せっかちで、声はうるさいし、屁もくさい。
女にだらしなくはないが。
死にたがりじゃ。
これが一番ダメなところじゃ、それだけは許せん」
それ、完全にお爺様への愚痴ですよね?
「受け身で生きるな。
見ているものは見させられているのかもしれん。
聞いているものは聞かせられているのかもしれん。
触っているものは触らされているだけかもしれん。
力とは何か?それを考える続けることをせよ」
「はい、ありがとうございます」
日々の鍛錬については今の鍛錬を継続すること。新しい剣技については次会うことができたらという事だった。まだ子供の体には無理な技らしい。
「師匠もお元気でお過ごしください」
「励め。ルーデルハイン」
そうして俺の修業は終わった。
それぞれの後書きにその話にまつわる設定などをちょこちょこと書いていっています。
あとでまとめて設定資料にするつもりではありますが、気になる方は見返していただければ幸いです。
ブックマークありがとうございます。
見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。
更新の励みとなっております。
今後ともよろしくお願いします。