仕合
「ほれっ?これくらいまだ何ともないじゃろ?」
次の日、師匠(コジロウ様)の家に行った俺は、剣術の鍛錬を始めた。
鍛錬と言っても基本的な素振りや型をしている。
というかそれしかさせて貰えていない。
6時間みっちりとだ。
3時間素振りで3時間型をやる。
それを毎日3週間もやらされている。
よく俺も切れないでやっているな。
ランドさんも同じようにやらされていて一緒にズタボロになるまで剣を振らされている。
何より付き合ってくれてるランドさんに悪い。
ここでやめたら師匠にバカにされそうだし。
お爺様とのこともあるので、必死に我慢してやってるってわけだ。くそ!
腕が上がらなくなってきた俺をニコニコ笑いながら煽ってくる師匠。
基礎が大事なのはわかるけど、これだけってどうなの?
こんなので強くなるのか?
剣術は奥深い。
師匠曰く、
「人を殺すのは簡単じゃ。
剣先だけでも相手の首や心臓など急所に当てれば、それだけであとは逃げとけば相手は死ぬ。
しかし魔物は違う。
手足やそれこそ首をはねても向かってくるやつもいる。
そんなやつらを相手にするには人間相手の剣技など役には立たん」
たしかにそうだろう。
この世界には信じられんくらい大きな魔物もいるという。
そんなの相手に普通の剣技じゃたちうちできないだろう。
「お前の爺さんのジルベルトはまさしく英雄じゃ。
その魔物たちを叩き伏せることができるんじゃからな。
それに比べたら儂の技は小手先の技のようなもんだ。
とにかく早く動いてとにかく早く切る。
それだけじゃ。簡単じゃろ?」
なるほど、そうかもしれん。
でも中には魔物には人型のものいるし、基本は普通の生物のように出血多量で死んだりする。
相性というやつなのかな?
俺が教えて貰っているのは叩き伏せるというより切り刻む感じのやつか。
で、この鍛錬の意味は何でしょうか?
そろそろ立っていることも辛くなってきた。
「ふむ、だいぶ様になってきたというくらいか。
そろそろ次の鍛錬でもやってみるか?」
「はい!お願いします!」
よっしゃ。これでこの苦行ともおさらばできるぞ。
ふらふらになりながらランドさんとハイタッチして笑いあう。
「明日からはもう3時間早く来い。素振りと型はいつも通りじゃ。そのあとで術利を教えてやろう」
その場で突っ伏す俺とランドさん・・・。
勘弁してくれ・・・・。
次の日、いつもより3時間早く屋敷を出た俺たちは師匠の家へと向かう。
まだ薄暗い中、これから9時間も修行をするとなると気が重くなる。
昼は一応食べさせてもらえるが、これじゃ一日師匠の家に入りびたりじゃないか。
いったいどうなってしまうんだろう。
文句を言うであろうお爺様は師匠が来た3日後には遠征に出て行ってしまった。
3か月ほどかかるというので、帰ってくるのはあと2か月は先だということだ。
いや、別に言いつけて何とかしてもらおうとかそういう訳ではないんだが、
ちょっと口を利いてもらうとか、一言言ってもらうとか。
ダメか・・・逆効果な未来しか見えない
やっと本格的な訓練になるのか。
いつもの鍛錬のあと、他の門下生相手に打ち合いをして、型で覚えた技を絡めつつ相手から一本を取る。
という感じみたいだ。
うん、実に剣の訓練みたいでいいじゃないか。
もちろん木刀でね。いや木刀でも当たったら骨折ぐらいしますがな。
「では、はじめようかの。
坊主。お前からじゃ。
相手はそうじゃな。レーネ。おぬしがやってくれんか」
「はい、わかりました。しかしコジロウ様。相手はまだ子供のようですがよいのですか?」
おっと、俺からか相手は女性みたいだな。
そうですよー。俺はまだ子供ですよ。どうぞお手柔らかにお願いしますね~。
「よい、そやつをただの子供と思うな。隙を突いたとはいえ儂に瞬歩を使わせたやつじゃ。気を付けてかからねばおぬしでもやられるぞ」
おいおい、師匠煽ってんじゃねえぞ。
って、あの時見せた動きが瞬歩?
あれ?初めから使っていたんじゃなないのか?
そうか、あのゾッとした瞬間が瞬歩でそれ以外は師匠はただ早く動いていただけだったのか。
「師匠に瞬歩を?!そうですか。わかりましたただの子供ではないのですね」
きゃー、本気出してくる気満々ですよこのこの女性まじですか。
こりゃ気合入れないとダメですな。
よっしゃいっちょいいとこ見せますか。
「ルー様。頑張ってください」
呑気に声かけてくるランドさんを尻目に俺はレーネさんと向き合い正眼の構えをとる。
レーネさんの気合が乗っているのがわかる。
鈍感系を気取っている俺でさえわかるくらいの気合の入れようだ。
「ふっ!」
「くっ・・・!」
一瞬の気合の走りと共に、レーネさんが飛び込んできた!
やばい。切られる。
そんな感覚が脳裏よよぎる。
だが、俺の体は反射的に剣をレーネさんの剣に合わせるように出していた。
ここで毎日剣を振って型をやっていた成果だろうか。
何とか初撃はいなすことができたようだ。
しかし流れるように次の剣筋が俺の腕を狙うように動く。
見えてはいるが全く間に合うタイミングじゃない!
まずい今度こそ切られる!なんとかしなきゃ。
その瞬間俺は反射で瞬歩を使うことができたようだ。
レーネさんから大きく後ろへ下がり遠ざかり、距離を取る。
やっべえ、いきなりだが起こりなしでよく使えたもんだ。
師匠の瞬歩を寸前で思い描いていたからできたようなもんだな。
次にもう一度やれって言われても無理だなこれ。
「ほう。一段昇っとるわいこやつ」
師匠のボヤキっぽい声が耳に入る。
レーネさんは一撃で決めるつもりだったようで、俺に連撃を避けられたのに驚いたようだ。
この屋敷で訓練している人の動きはこの3週間ずっと見ていた。
シミュレーションまではしていないが、なんとなくクセっぽいものは見ていて知っている。
だから知っている。
レーネさんはもっと速いという事を。
くる!?
回避行動を取れ!俺の体。
後ろ?横?ダメだ向こうの方が速い!
考えるより体の方が先に動いた。
俺は前に踏み込み剣を盾にするように斜めに持ちレーネさんへ押しやる。
木刀だからできることだな。真剣だったら手が切れるかも。
賭けには買ったようで、レーネさんの木刀が俺の剣でずれ俺の頭の横をかすめた。
しかしレーネさん。速いとは知っていたが、これほどとは。
しかしそこまでだった。
そこから反撃しようにも俺は剣を両手で横に持っていて持ち直して切ろうにも
レーネさんん方が速いに決まっている。
レーネさんはそのまますかさず、剣を切り返し
俺の胴めがけて一撃を加えるのだった。
木刀じゃなかったらまさしく死んでいたな。