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コジロウ

そういったわけで、剣の先生を探すこととなった。


普通、貴族の男子は7歳頃になったらその家の剣術指導の先生から指南を受け始めるものらしい。

うちは警護に就いている私兵はいるが、そういった剣術指南の人はいない。

うちの家は子供がお母様一人だったので、剣術指導が必要とかそういったことは無かったらしい。

ま、屋敷の主のお爺様が騎士団長だからそういった人はいらないか。

警護の人よりお爺様の方が強いみたいだし。

それと警護の人とは普段、俺は顔を合わすことはあまりない。



で、例のコジロウ師という人だが、かつては国の剣術師範も務めていた凄い人らしい。

若い頃は冒険者として名を馳せていたという事だが、どこかの領主の娘に見初められて落ち着いたという事だ。

長男がいる家の娘の婿だったので特に家を継ぐようなことは無かったらしいが。


元々冒険者としていくつもの伝説を作るような人物だったのだが、

婿に入った後に国を挙げての大規模な魔物の討伐に参加し、名を上げ更に英名が轟くようになった。

うちのお爺様とも何度か勲功を競い合ったという。


前線を退いてからは国の指南役。

今は臨時とはいえ騎士団の指南役もしている。

立志伝中の人ということだ。

たしかお爺様の本にも出てきてたんじゃないだろうか?

まだ存命中なので簡単な紹介程度だったが。



「コジロウという。よろしく頼む」

そんなすごい人が5歳の子供の家庭教師みたいなことやってくれるなんて、俺も無理だと思っていた。

だが予想に反して引き受けてくれたらしい。

ランドさんもびっくりしていたし、お婆様はとても喜んでした。

お爺様は口では喜んでいたが、思うところがあるのか少し苦笑いをしていた。


コジロウ師は見た感じお爺様より10歳以上年上に見えた。

若く見ても60歳くらいかな?

背丈は小柄で着流しのような服を着て髪は後ろでまとめていた。

腰に刀?のようなものを差し、剣士というか浪人のような恰好をしていた。

時代劇に出てくるような格好だ。

もちろん高位貴族の身内だという事で質は上等っぽい。

偉い人なのでお付きの人が一人だけだが着いてきていた。


そのコジロウ師を家族とランドさんでお出迎えする。


この人はもしかして転生者なのかな?

この世界で初めて見る風貌の人だし。

どことなく日本人に見えないこともない。

名前もコジロウだし。

もしかしたら転生ではなく江戸時代とかから転移とかしてきたのかな?

そんな事を考えながらこれから先生になるコジロウ師を眺めていた。


「よ、よろしくお願いします。ルーデルハインと言います」

「よく来てくださったコジロウ殿。てっきり断られると思っていたのだが」

「あなた、失礼ですわよ。さ、お入りになってください」

では、失礼する。とコジロウ師。


玄関で話し込むわけにもいかないので応接にお通しする。


「あ、あの、よろしくお願いします」

「稽古は今日からでよろしいかな?

 ジルベルトどのの孫という事で少々厳しくさせてもらうつもりだが、問題ないだろうか?」


せっかちな爺さんだな。

いきなりのことで祖父母も面食らってるぞ。


お爺様がたまらず話し出す。

「コジロウ殿、ご無沙汰しております。

 ご壮健そうで何よりです。

 急なことなのに引き受けて頂いて感謝いたす。

 ルーデルハインはちょっと変わっている子でな、

 そこら辺の説明をっさせて頂こうと思うのだが。実はこの子は・・・」

「奥方も元気になられたようでよかった。

 娘さんのことは無念でありましたな。

 この子のことは私が面倒を見させてもらおう」

言葉をわざわざ遮るように話し出され、お爺様は苦虫を噛み潰したような顔をしている。


「ありがとうございますコジロウ様。

 ルーデルハインのことお願いいたします」


「では、さっそく今の腕を見させてもらおうか。場所は庭でよろしいかな?」

「ええい、儂の話を聞かんかい。このくされじじいが」

お爺様がたまらず食ってかかった。


「お前の話など聞かずとも腕を見ればだいたいのことはわかるじゃろ。

 まったく、孫ができたとここ何年も浮かれたお前さんの話ばかり聞かされておったところに、

 この話をランドが持ってきた時の儂の気持ちを考えろ!

 魔物とやりあいながらお前と武を競っていたのが恥ずかしくなるわ!

 このジジバカゴリラが!」

「なんじゃと!お前こそ勝手に隠居などしよって。

 まだまだ戦えるだろう!

 そういや孫がたくさんいるそうじゃねえか!

 お前こそジジバカだろうがニタニタして孫を抱いているって聞いてるぞ。

 この猿剣士が!」

「なんじゃと!?」

「なんじゃ!」


「お二人ともおやめください!」

凛としたその声と共に柏手の音が部屋に響き渡る・・・・

すごいな。

動作一つでこの二人の動きを止めるなんて。

このお付きの人も凄腕なのかな?


「ふん。今日はこれくらいにしとくか。

 行くぞ坊主。適当に武器でも持って庭に出てこい」

コジロウ様はちらりとお爺様の方を見たが、それ以上は何も言わずお付きの人を連れて出て行ってしまった。

これって俺について来いってことだよな?


「ルーデルハイン!あいつは腕はいいが、性格がクソだ。気をつけろ。

 剣技以外の会話はしなくていいからな。

 あと、あいつの弱みになりそうなものを見つけたら儂に教えるんだ。

 わかったな!」


「あなた!これから教えを請うルーデルハインに何を言っているのですか。

 ルーデルハイン。二人は仲は悪いように見えますが、

 戦場では背中を預けて戦ったこともある友人なのですよ。

 最近はお互いに身分を得てしまったものですから、すれ違うこともあるようですが」


なるほど。お互いに偉くなってしまったことでギクシャクしちゃったってことか。

二人とも素直じゃなさそうだし、遠慮が疎遠になって誤解になったってことね。

オーケイ理解できたよ。


「ふんっ!さっさと行ってこいルーデルハイン。ランドもついて行け」

お爺様は黙って座り込んでそっぽを向いてしまった。子どもか。


「さ、行ってきなさい。無理はしないようにね」

「はい、お婆様。ありがとうございます」




「来たか・・。早速だがお前の腕を見せてもらおうか。

 そうだな今日は初日だし、儂とかけっこでもしようか。

 まずは儂が鬼をする。

 そのあとはお前じゃ。いいな。

 時間は今から1時間でいいか。

 では、いくぞ!」


そういうとコジロウ様は音とともに消えてしまった。

と思ったら、後ろから肩を叩かれた。


「さ、これで交代じゃ。次は捕まえてみせい。いくぞ!」

え、なに?どうなってんの?


コジロウ様がひとつ息をつくと、ふわっと風が来たと思ったらもうそこにはいない。

そして10メートルほど先のグラウンドでのんびり欠伸をしている。


「どうじゃ?はよ追いついてみせい。

 お前は天才なんじゃろ?

 ジルベルトならこれくらいわけもなくやるぞ」

ぐぬぬ、この爺さんお爺様へのうっ憤を俺で晴らそうとしているのか。

なんて爺さんだ。


でも動きは本当にすごい。

俺の瞬歩は予備動作が必要なのに、コジロウ様はいつ起こりがあるのか全く分からなかった。


でも、俺のことを何もできない子供と思って舐めてる感じがする。

ちょっとびっくりさせてやりたいな。


「すごいですね。まったく見えませんでした」

と言いながら、俺は足に力を入れ少しだけ前傾姿勢を取って準備をする。


今だ!コジロウ様がやれやれといった感じで、屋敷を気にするように視線を切った瞬間に瞬歩を起こす。

よっし!意表をつけたぞ。これでタッチできるはずだ。


その瞬間!ぞわっと一瞬だけだが背中に悪寒が走った感じがした。

俺の手はコジロウ様に触れることなく、空を切った。

はっとして振り向くとコジロウ様は元の俺がいた位置に立っていた。


「ほほー、やるではないか。ジルベルトめ、面白い子に育てたようだな。

 だが、まだまだ技を知っとるだけの子供だな。まぁ、当たり前か。

 しかしあいつの強さの理とは程遠いな。

 それで儂か。

 なるほどなあいつも孫のためには儂に頭を下げようというわけじゃ。

 って下げとらんな。あいつは」


屋敷を見ながら独りごちるコジロウ様。

まじか、視線を屋敷に向けながら俺の瞬歩を避けたの?

化物かよこの爺さん


「どうした?もう終わりか?」

「くっそ!まだだよ爺さん!絶対捕まえてやる!」

「ほーう。それがお前の素か。そうそう。子供は正直に気持ちを吐き出した方がいいぞ」


そこからきっちり1時間。

俺は爺さんに一度も触れることすらできなかった。

それこそランドさんと鍛えたフェイントやら。

猫騙しや死んだふりもしたがダメだった。

「くっそー!なんだよ爺さん。無茶苦茶じゃねえか!」

「当り前じゃ。これでも国の指南役なんじゃから。

 おっと今は違うか。

 じゃが、そんな立場の者が5歳の子供に後れを取るわけがなかろうに」


そっかそうだよな。

ランドさんも弱いわけじゃないけど、お爺様といい勝負ができたって言ってたし。

そのランドさんといい勝負ができる俺だったら、結構いけると思ったんだけどなぁ。

剣技もなんか知らんが使えたし、俺ってチートじゃないかと思ったんだがそうでもなかったか。

悔しいなぁ。


「どうする坊主?明日もやるか?」

「はい!お願いします!」

「いいじゃろう。元気そうでなによりじゃ。

 明日はうちに来い。

 ここはジルベルトがうるさくてかなわん」


こうしてコジロウ先生との初日は終わったのだった。

強キャラの爺さんっていいですよね。

ジルベルトさんとも因縁浅からぬ感じですし、

そのうちコジロウとジルベルトの共闘シーンなど書いてみたいものです。


それぞれの後書きにその話にまつわる設定などをちょこちょこと書いていっています。

あとでまとめて設定資料にするつもりではありますが、気になる方は見返していただければ幸いです。


ブックマークありがとうございます。

見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。

更新の励みとなっております。

今後ともよろしくお願いします。


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