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お爺様

「なんと!あの壁はルーが壊したというのか?

 まだあいつは5歳だぞ。

 変な冗談はよさんか。お前らしくもない」


ジルベルト・フルスエンデは長年連れ添った自分の妻の言葉を冗談だと思っていた。

(アデリナも明るくなったという事だろう。こんな冗談も言えるようになったのだから。

 娘が亡くなってから、ふさぎ込んでしまうことが多かったからな。

 これもルーがいてくれたこそだ。ありがたいことだ。)


「冗談ではありませんよあなた、ランドから何もお聞きになっておりませんの?」

「たしかに5歳にしては見込みがあるとは聞いている。

 ランドの動きにもついてこれているというから、うれしくは思っていたのだが・・・。

 しかしだな。壁を破るというのは、俄かには信じられん。

 あの子のどこにそんな力がるというのだ。

 まだ体も小さく、腕も脚も細いではないか」

儂の孫だから将来は力もつくかもししれんが、それでもまだ早い。


「剣技を使ったそうですよ。

 なんでもしゃばんくらーとかいう技だそうで」

「なんだその珍妙な名は。

 いかにも子供が考えた名前ではないか。」

少なくともアデリナ自身はそう思っているという事か。

万が一という事もあるか?


アデリナの話が本当なら、思っているより事態は深刻かもしれん。

早すぎた過ぎた力というものは身を滅ぼしやすい。

力を持つのはそれだけで脅威になりうるからな。敵からも・・・味方からも。

ましてやルーはまだ幼い。

身を守る術を与えておいてもいいかもしれない。

確認だけはしておくか。


「ルーはどうしている?起きているなら話を聞いてみよう。ランドと一緒に呼んでくれんか」

メイドの一人にルーとランドを呼んできてもらう。



今日は帰るのが遅くなったのだが家に帰って壁が壊れているのを見て唖然とした。

何があったのかと聞いても、屋敷の連中はみな申し訳なさそうに「アデリナ様より口止めされております」と言う。

儂はこの屋敷の主だというのにだぞ。

それだけアデリナが家をまとめてくれているという事でうれしくはあるのだが・・・。




「お爺様ルーデルハインです。ランドと一緒に参りました」

ん?少し違和感を感じたがルーの声で間違いない。

「来たか。入ってくれ」


メイドが扉を開け、ルーが入ってきた。

ランドもそれに従うようについて入ってくる。

ランドのやつ、普段はルーより先に入ってくるというのに今日は主に従うような様子ではないか。

それだけで何かあったというのはわかった。


「お爺様、お呼びにということで参りました。本日は屋敷の壁を壊してしまい申し訳ありません」

驚いた。

儂の孫はこんな話し方をしておったか?

新人の騎士よりよっぽど立派に話しているではないか。


急に不安になってきた。儂の孫がどこかに行ってしまうような。

「ルーよどうしたんじゃ?

 儂のことが嫌いになったのか?怒っておらんぞ。

 おお、こっちに来て爺の膝に乗らんか?

 おう、そうだ菓子をやろう。王にも献上されておるよい菓子があるのだ。

 おい、誰か菓子を持って来てくれ!」


「いえ、お爺様。本日はもう遅いので、菓子は大丈夫でございます。お気持ちだけ頂いておきます」


頭を鈍器で殴られたようにショックを受けた。

座っていなかったら、その場で倒れていたかもしれん。


その様子を見て心配に思ったのかルーデルハインが口を開く。

「申し訳ございませんお爺様。これまで私は自分を偽っておりました。

 この話し方が本来というか、子供の話し方が偽った自分というか、

 ランドやお婆様が言うには考え方が既に大人と同じということでして、

 その・・・お爺様やお婆様に嫌われるのが嫌というかなんというか・・・」


ああ、この子はまさしくルーデルハインだ。

一瞬別人になったかとも思ったが儂の孫のルーで間違いない。

今も儂を傷つけまいと言葉を選んで話をしてくれている。

目の前のこやつは間違いなく優しいルーデルハインで間違いない。


赤子の頃から聡い子というのはわかってはいたが、そうだったのだな。

それに気づいてやれなかった儂らにも非はあるのだろう。

この子にいらぬ気を使わせてしまっていたという事だ。

儂らに心配させたくないというこの子の気持ちを無駄にするわけにはいかんな。


「そうか、少々驚いたがそういうことなら仕方あるまい」

儂は気を持ち直して言う。

「何が少々ですか、泣きそうな顔して強がって。あなたは昔からそうですわね」

アデリナよ、ここはすっと流すところじゃないのか・・?

いや、妻なりの優しさというやつだな。


そう言って茶化すことで儂もルーも救われる。

本当にできた妻だ。ありがたい。



「ごほん。ルーデルハインよ。これからは普通に話してくれ。

 儂らは家族なのだから遠慮などするな。

 何があってもお前は儂らの孫だ」

「はいお爺様。ありがとうございます」


「で、壁の方なんだが。剣技で壊したというのは本当か?」

儂にとっては孫の話し方でもう十分驚いたので、壁の方はこの子ならやりかねんと思ってきてしまっている。

この調子だと剣技以外にもなにかしら秘密がありそうだしな。


「はい、本で見た勇者の技を試してみたらできてしまいました」

ルーデルハインが申し訳なさそうに言う。

いいんじゃよ壁の一つや二つくらい男の子ならよくあることだ。いや、ないか。


「本と言うとあれか、儂の部屋から持って行った伝記や武技の本か。

 あれはランドに読み聞かせて貰っていたのではなかったか?」

「いえ、自分で読んでおりました。

 最初は文字がわからなかったのでランドに教えて貰っておりました。

 ランドは良き先生でございましたので、

 すぐに覚えることができ、今は自分で読んでおります」

「団長。ルーデルハイン様は既に団長の部屋の本は全て読破されております。

 記憶力もよく非常に聡明でございます。

 私など最初に10日間ほど読み聞かせて、文字の書き方を教えてただけでございます」

なぜかランドが胸を張って答える。


そうか、こやつは全部知っておったのだな。

可愛い孫の儂の知らない姿を知っているかのように、さも自慢げに喋りおって。


ふむ、しかし剣技を見たこともないのに本で読んだだけでできた?

「いや、しかし。見たこともないものをどうやってできると・・・・・」

「ねえあなた。うちの孫は天才じゃない!すごいわ!!」


儂の言葉をアデリナが興奮して遮った。

そのままルーデルハインに近寄って頭を撫でたり、抱き着いたりと忙しいことだ。


これもアデリナなりの気の使い方なのか?

いや違うな、ほれ、ルーに頬ずりまでし始めたぞ。

ひとりごとで、この子は将来凄い英雄になるわ!とか言いだしてるし。

それには同意するが。

おそらく今まで興奮を抑えていたのであろう、儂がいないことで気を使ったであろうし。

それが解放されたということか。



「何はともあれ、すぐに剣の師を探さねばならんな。

 アデリナ、興奮するのはわかるがそれぐらいにしておいてやれ。

 ルーが困っとるではないか」


「ねえ、あなたコジロウ先生にお願いしてみてはいかがでしょう?

 あの方ならこの子の秘密も守っていただけると思うわ!」


アデリナは一人で興奮し、そうよそれがいいわと言っている。

コジロウ師か、儂は苦手なんだがな。

たしかにあの御仁なら腕は間違いないが・・・苦手なんだがな。


「コジロウ殿はトーセンにおられるはずだから難しいかもしれんな。

 今は隠居の身で気楽とはいえ、王都までお出で頂くのは気が引ける。

 別のものに心当たりはないか、儂の方で当たってみるとするよ」

そうだコジロウ殿はお年を召しておらるから仕方ない。

ここからトーセンは遠いからな。

うん、仕方ない。残念だ。


「コジロウ師ならたしか今、王都の屋敷に在宅では?

 騎士団の臨時指南役として逗留されていたと思うのですが?」

ランドがはっと思い出したかのように言う。


妻がジト目で

「あなたは昔からコジロウ様が苦手だったでしたね。

 いい機会ですからあなたも、もう一度鍛え直してもらったらよろしいのでは?

 その性格も一緒によくなるかもしれませんわよ」


ランドよ。

こいつがいるのを忘れていたわ。

優秀なのはいいのだが、こいつの生真面目な性格で何度も上とやりあうことになったのを思い出す。

これは諦めるしかないか。

こうなったら頼むしかないか、たぶん断られるだろうしな。


「わかった、わかった。すまん。

 ではランドよコジロウ殿のところへはお前が行っておいてくれ。

 騎士団には顔も出しずらいだろうから、屋敷の方でいいぞ。

 コジロウ殿は忙しいと思うので、断られたら無理をせず帰ってこい。

 ルーデルハインよ。

 これからお前の師になる人に剣の鍛錬をお願いをするから、そのつもりでいるように。

 相手は国の指南役も務められている方だ、おそらく断れるかもしれん。

 その時はあらためて剣を教えて頂ける方を探すから心配するな」

「はいわかりました。お爺様」


はぁ、少々面倒なことになったな。

コジロウ殿へはランドを遣いに行かせるが、おそらく断られるだろう。

うちの孫が天才なんで指導してください!って、臨時とはいえ国の騎士団の指南役が応じるとも思えんが・・・。


もし引き受けてくれるとしたら・・・。


ちょうど遠征も入っている。

早めに出立することにするか・・・。


それぞれの後書きにその話にまつわる設定などをちょこちょこと書いていっています。

あとでまとめて設定資料にするつもりではありますが、気になる方は見返していただければ幸いです。


ブックマークありがとうございます。

見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。

更新の励みとなっております。

今後ともよろしくお願いします。


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