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お婆様

「いいじゃないか いいじゃないか 夢があれば~

 いいじゃないか いいじゃないか 明日があれば~」

「なんですかその歌は?」

「気にしないで。ふと思い出しただけの歌だよ」

ルー様が拗ねた様子で、あさっての方向を向いたまま歌っている。


しかしまぁ盛大にやらかしてくれたもんだ。

最近は物分かりもよくなって大人しくなってきたかと思ったのに、ちょっと目を離したらこれだ。

やはりまだ俺はこの人から離れるわけにはいかないな。


二人で重い足取りを引きずるように、俺たちは死刑台に向かう囚人の気持ちでアデリナ様の部屋に歩いていた。

「で、どうするんです?ルー様」

「え、どうするって、何が?」

「いや、とぼけないで下さい。アデリナ様への言い訳ですよ。もう隠せないのはわかってるでしょうに」

「ぼく、まだごちゃいだからわかんない。らんどくんがなんとかして~」


はぁ~、勘弁してくれ。俺、やっぱりクビになるのかな。

騎士団辞めたのやっぱり失敗だったか。

今からでも再就職とかできないだろうか?

「あ、騎士団に戻りたいとか思っただろ?」

「そうですよ!いや、本当に戻りたいわけではないんですけど、なんともどうすればいいかと」

ルー様はアデリナ様の部屋に近づくにつれ不安げな顔をやめ、飄々としているように俺には見えた。


「心配いらないんじゃないかな?たぶん前からお婆様は気づいていたと思うし」

「えっそうなんですか?私はそうは思わなかったんですが」

「こうなったらもう当たって砕けろだ。開き直って謝るしかない!」

この人にはいつも驚かされるが、この肝の太さはどうなってるんだ?


こんなとこだけ団長そっくりじゃないか。


アデリナ様の部屋の前に着く。部屋のドアをノックして声をかける。

「アデリナ様。ランドでございます。お召しにより参上いたしました」

「ルーデルハインです」

「どうぞ、入ってください」


--------------


俺は前世での営業時代のこと思い出していた。

わかっている。こんな時は隠し事したり、不貞腐れてはだめだ。

相手は全部知っていると思って対処しないと余計に悪いほうに行くだけだ。

あの腐れ上司の嫌らしさに比べればお婆様なんて、優しい風がほほを撫でるようなもんじゃないか。


「よく来ましたね。そこに座ってちょうだい。お話を聞かせてくれるんでしょう」

お婆様は少し目を細めて俺を見る。

こんな時は目を伏せたり背けたりしてはダメなんだ。

睨まないように相手の眉間のあたりを見て、ゆっくりと喋るんだ。


「ルー。あなたは遊んでいたのよね?」

「はい、剣術ごっこの遊びをしていました」

「剣はどこから手に入れたの?」

「剣ではなく落ちていた枝を使って真似事をしていただけです」

「そうなの?枝で?」


ここですかさず謝る!謝るのは早いほうがいい!

「ごめんなさい。壁を壊してしまって」

「そうね。あれはよくないわね。私もびっくりしたもの」

「奥様。申し訳ありません。私が悪いんです。罰は私にお願いします」

ランドさんがいたたまれず口をはさむ。


「ということは、あの剣技はランド。あなたが教えたということなのね?」

「それは違いますお婆様!私は誰にも剣技を習ってはおりません!」

やばいほうに矛先が向きそうになったので、俺は慌てて訂正する。


しばし考え込むお婆様。

「ということはルーは一人であの技を生み出したというわけなの?」

「あ、いやー。生み出したというか。本で読んだ技を試してみたらできちゃったという事なんですけど」


そこでお婆様は切り込んできた。

「そうなの?ところであなたそんな口調だったかしら?もっと子供っぽかったと思うんだけど」

うげ、そうだった。お婆様の前ではまだ子供のふりしてたんだ。


「ごめんなさい。この話し方が私の素になります。

 奇妙な子だと嫌われるのが怖くて子供の口調を意識してしておりました」

深くため息をついて眉間を抑えるお婆様。


「ルーデルハイン。今後は子供の口調を私たちの前で無理して使うことは許しません」

厳しい口調で叱ってくるお婆様。

そうだよな気持ち悪いよなこんな子供。

また失敗しちゃったな俺。


「まったく。口調ごときで孫を嫌いになる人がどこにいますか。

 舐めないでちょうだい!

 私はこれでもジルベルトの妻なんですからね!」

びっくりした。

それと同時に安堵感が頭から足まで包むように溢れていった。


俺はその場でへたり込むように座って、べそべそと泣きだしてしまった。


「はい、わかりました。ありがとうございます」

やっと絞り出した言葉だった。


「ごめんなさいルー。

 あなたが賢いのは知っているわ、

 でもなぜかよそよそしさが残っていて気にはなっていたのよ。

 ランドさんが来てからそれも薄れていったので、

 父親が欲しかったのかと思っていたのだけど、違ったのね。

 ごめんなさいね気付いてあげられなくて。

 わたしもまだまだですね。

 ・・・

 ランドさんは知っていたの?このことは」


「申し訳ありません奥様。存じておりました。

 ルー様は非常に聡明で大人のような思考の仕方をすでにされております。

 団長の書斎の本もほぼすべて読破されており、理解されております」


「まあ、すごいじゃない!

 やっぱり私の孫は天才だわね。

 それで他家の子供とは合わなかったのね。

 納得いたしました」

よかった。何とか乗り切れたみたいだ。

ジジバカというのは聞いたことがあるが、バババカというのもあるのだろうか?


「ルー。何にやついているのかしら?まだ話は終わっておりませんよ」

「はい、申し訳ありません」怖えよお婆様。


「それで、剣技の方なんだけど。

 ランドさん。ルーの言っていることは本当なのかしら?」

「はい、私も団長も剣については触れさせた覚えもないので、

 おそらくご自身で編み出されたのだと思われます」


「それは危ないわね。

 この子の将来のためにも早めに剣を習わせ始めた方がいいわね」

「はい、私もそう思います。

 ルー様は聡明ですが。時に非常に危なっかしい時がございます。

 自身の力を見誤ることがございますので、

 ちゃんとした師が必要かと思います」


「そうね。でもあの人はだめね。

 教えるのは向いていないし、膂力に任せた剣技になるでしょうからこの子には向いていないわね」


お婆様は少し考えむ。

「わかりました。このことはジルベルトと相談して決めることにします。

 口の堅い剣の師に少しあてがありますので、こちらで考えておきましょう」

「承知いたしました。よろしくお願い申し上げます」


「それとランドさん。あなたも共犯者になるのですよ。自覚はおあり?」

「はっ。承知いたしております。いかようにも処分ください」

ちょっと待って!ランドさんは悪くないんだよお婆様。


「お婆様。

 ランドさんは私が誰にも言わないようにお願いしたせいでこうなっただけなんです。

 許してあげてください」

「ルー。これはけじめの話になります。

 このまま何もないのはランドをより責めることになるのですよ」

「そうです。ルー様。

 奥様のおっしゃる通りです。

 事実私はご恩ある団長と奥様を欺いていたわけですから、

 罰を受けさせていただけないと自分が許せないのです」

「でも・・・・」

「安心しなさいルー。ジルベルトのことだからそう悪くはならないと思うわ」

「はい・・・・・」

こうしてお婆様の裁定は下った。

いや、実際これからどうするかはお爺様が決めるのだろう。

ランドさんが追い出されるようなことはなさそうだが、どうなるのだろう?


普段おっとりした人が急に怒り出すと、現実では怒り慣れていないのでなんだか変な感じになりますね。

私もしどろもどろになるタイプです。

なのでできるだけ怒らないように気持ちが動かないようにしております。


最初の歌はシャ〇バンのOP曲の一節になります。


それぞれの後書きにその話にまつわる設定などをちょこちょこと書いていっています。

あとでまとめて設定資料にするつもりではありますが、気になる方は見返していただければ幸いです。


ブックマークありがとうございます。

見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。

更新の励みとなっております。

今後ともよろしくお願いします。


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