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邂逅

「よく来たなランド。待っておったぞ」

団長が奥様と一緒に出迎えてくれる。後ろに執事やメイドが並び迎えてもらうと、自分が貴族にでもなった気分だ。

一応騎士団員なので準貴族という扱いは国からは受けている。

後ろ盾やパトロンがいる奴は別だが、俺みたいな孤児上りの団員の生活は別にきらびやかなものでなんでもない。

俺なんか質素に暮らしている方だと思う。


貴族の中にはもちろんいい人もそうでない人もいる。

もちろん団長と奥様はいい人に決まっている。

出自の貴賤に関係なくこうして温かく迎えてくれるのだからな。


「お久しぶりです奥様。お嬢様の件は残念でございました。すぐにご挨拶にも来ず。申し訳ありません」

「いいのですよ。そのお気持ちだけでありがたく思います。娘のことを思い出さない日はありませんが、今は新しい家族も増えたので、気も紛れておりますので」

お嬢様のことを話したからだろう、奥様は微笑んではいたが少し寂しげな表情を見せた。


「いいから早く入れ。ルーに合わせてやろう」

団長はせっかちだな。いきなり来て子供に会う客がいるか普通?

「いえ、団長。先にお嬢様の墓へご挨拶をさせてください」

「む、そうか・・・。早く会わせてやりたいのだがな。

 誰かランドを案内してやってくれ!」


お嬢様の墓は敷地内に建てたと聞いている。

一般人は共同墓地が街の中の一角にあるのだが、上級の貴族になると自分の敷地に墓を建てる家が多い。

もちろん貴族だからといってずっとその場所に住み続けなければいけないわけではないので、その時は墓ごと引っ越しするそうだ。

落ちぶれた家なんかはその限りではないのだが。


団長の家はそれなりに歴史のある家で、昔からの貴族だ。

たしか王都ができたころからこの場所に屋敷を構えていいるんじゃなかったろうか。



長年この家に仕えているという古参のメイドに案内されて庭にある墓地に向かう。

たしか、この人はお嬢様のお世話をされていた人だったな。

何度か会話したくらいだが覚えがある。

「こちらになります・・・。お嬢様はお小さい頃はランド様に懐いていらっしゃいましたね」

「ええ、そうですね。妹というにはいさかか年が離れておりましたが、私には家族がいないものですから、とてもうれしかったのを覚えております・・・・」

「奥様も今では元気になりましたが、亡くなってすぐの頃はあとを追ってしまわれるのではないかと心配しておりました。ほんとにルーデルハイン様がいらっしゃって・・・よかった・・・ううっ」

古参のメイドさんは静かに泣いているようだった。


お嬢様の墓に静かに祈りを捧げる。

「お嬢様はご病気で?」

「ええ、出産されて体力が落ちていたということもあるのでしょう。いえ、けっしてルーデルハイン様のせいというわけではなく。元々ご病気がちだったので。急にお力をなくされて・・・」

「すいません。誰のせいだとか知りたかったとかそういうのではなく。すいません」

「いえ、申し訳ありません。ここに来ると昔を思い出してしまうものですから」

「そういえば、そのルーデルハイン様はえらく優秀だと団長から聞いておりますが」

「はあ、優秀というか。変わっているというか・・・・。あっこれはご内密に」

「はは、大丈夫ですよ。私も団長にさんざんルーデルハイン様のことは嫌というほど聞かされておりますので、変わっている子だというのはわかります。で、どう変わっているのでしょうか?」

「はぁ、なんというか。見た目はかわいいのですが、なんと言いますか、観察されているような感じがしまして。最初は目で追っているだけだと思っていたのですが、なにやらブツブツ呟いているような様子で。ぎょっとして確認しに行くと無邪気な様子になるのですから。少し気になりまして。頭が良い子だとは思うのですが、なにか、その・・・・」

「不気味な感じがすると」

「いえ、そこまでは!・・・不思議なお子様だなと思っております」

「そうですか。私もこれから会うので楽しみにしておきます」

「はい、よろしくお願いします。それでは屋敷の方へご案内いたしましょう。そろそろ旦那様が痺れを切らしているかもしれませんので」

ニコリと笑いながら、古参のメイドさんはくるりと振り向いて屋敷の方へと俺を案内しだす。


「遅い!何をしとるんじゃお前は。何時間待たせるんだ。待ちくたびれたぞ!」

いや、せいぜい15分くらいだろ。

あんたのかわいい娘の墓参りなんだよ?

「この人はお墓に行ってもあっという間に帰ってきますからね。娘も寂しがってるわ。きっと」

奥様お察しします。

「なにを言っとるか。要は気持ちじゃ気持ち。気持ちならわしは誰にも負けとらんぞ!」

「そうでしたわね」

いいのか。奥様もたいがいだな。

まぁそれくらいじゃなきゃ団長と結婚なんてできんわな。


「おーい、誰かルーを連れてきてくれんか。ランドに会わせてやろう」

そうだった。団長にとってはここからが本題か。

さて、噂のルーデルハイン様ってのはどんな子なんだろうな。

まだ1歳なんだから、あまり期待しても仕方ないな。

たぶん親ならぬ祖父の身内びいきみたいなもんだろうし。


子供、ましてや幼児など接する機会なんてないんだからどうしたもんかな。

かわいいって言っておけばいいか。

聞くところによると見た目はいいみたいだしな。

それで間違いないだろう。

ま、それしかたぶん思いつかんだろうし。


そんなことをつらつら考えているうちに若いメイドが幼い子供を抱いてやってきたのが見えた。

あの子がそうか。

うん、見た目はかわいいな。

よかった、かわいい子で。ほんとによかった。

どこかしらお嬢様に似ていて作り物のようにかわいい顔をしている。

「ランド、これがルーデルハインだ、どうだかわいいだろう。お前も結婚して子供が欲しくなったか?」

いや、早いよ!まだ会って数秒だぞ。

どんだけ孫がかわいいんだ。


奥様もニコニコと優しい顔でルーデルハイン様を眺めている。

ああ、よかった。この顔を見れただけでも良かったな。安心した。

いろいろあったが、この子のおかげでこの家はまた明るい雰囲気に戻れるんだ。

そう思うと気持ちが軽くなってきた。


「確かにとてもかわいらしいお子様ですね。どことなく団長と奥様の面影も見えるような気がします。団長に似て将来は優秀な騎士になるでしょうし、騎士団長にでもなって頂ければこの国もますます発展しましょう」

その時、ルーデルハイン様が俺の方をちらりと見た気がした。

いや、気のせいかな?

俺の言葉に反応したようだったけど、気のせいだろう。

声に反応しただけで言葉に反応したわけではないはずだ。


「ほれ、少し抱いてみるか?おい、ルーを抱かせてやれ」

「いや、大丈夫ですよ。抱き方なんてわからないし、落としでもしたら大変だ」

「落としたら殺すからな。しっかり抱いておけよ」

怖いよ!じゃあ抱かせるなよ!

「あうー、うー」

無理やり抱かされるこっちの身にもなってくれよ。

ほらこの子も嫌がってるように見えるぞ。


メイドさんから受け渡された子供は少し身構えているようだった。

その瞬間。持ちどころが悪かったせいかルーデルハイン様が身じろぎした。

あっぶねえ。落としそうになった。

落としてたら俺の首が飛んでたな物理的に。


(・・・あっぶねえ。しっかり持ってよ。おじさん・・・)


「え。なんか言いました?」

「ん、なんじゃ?誰もなんも言っとらんぞ」

「いや、なんかしっかり持てとか言われた気が・・・」

確かに聞こえた気がしたんだがな。

気のせいか?

もしかしてこの子が?いや、まさかな?まだ1歳だろ?そんなばかな。


(ちっ・・驚いてつい喋っちまったじゃない。おっと、動かないでよ。ギャン泣きしてほんとに落ちちゃうよ。そうなるとお爺様に首チョンパされるかな?あ、俺は受身取れるから大丈夫だよっと・・・)


ルーデルハイン様は口の端を持ち上げて、ニヤッと俺にだけ見えるように笑った。

その瞬間ゾッとした。このままこの子を地面い放りたくなるほどの悪寒が全身に走った。


(ここまでせっかくかわいい子を演じていたのにバレちゃうじゃないか、おじさん俺の守り役決定ね。よろしく)

そこには赤ん坊のかわいらしさは無い。いや見た目がかわいいだけに余計に恐ろしいものがいるようだった。

この子はおかしい。

しかし何か抗いがたいものがある。

実際俺はルーデルハイン様をじっと見たまま動けないでいた。


「ランドもルーの可愛さにやられたらしいな。あんなにじっと見つめて目が離せんようになっておる」

「ほんとに。ランドさんにもいい人が嫁いでくれたらいいんですけどねえ」

ほんわかとした雰囲気を出しながら俺以外のものはにこやかに話を始めている。


ああ、そういえば昔聞いたことがあるな。

この世には悪魔付きって子がいるってのを。

おそらくこの子がそうだ。

しかし、聞いた話では悪魔付きの子は目が赤いって聞いたような気がするが。

この子の目は青い。

たぶん夜中にでも赤く光って夜な夜な何かを呼び出したりするんだろう。


この子は恐らくそうだ。

間違いない。

悪魔付きに違いない。

だってこんなに恐ろしいのに、この子に魅了もされている自分がいる。

ああ、俺はこの子に捕らわれてしまったんだな。

俺はいずれこの子ために死ぬのかもしれない。

それもいいと思えてしまう・・・。

恐ろしい。


(・・・・ランドさんだっけ?よろしくね。・・・ルーって呼んでいいよ・・・)

ダメだ抗えない。

「よろしくお願いします。ルー様・・・私がこれからお守りいたします。どこまでも」

「はっはっは。気の早い奴だな。まだ騎士団に入るには早いぞ!ルーがかわいいのは認めるが、それはちょっと言いすぎじゃ!」


どうすればいいか?

そうだ騎士団をやめるか。

団長の家に雇ってもらうか。

これが運命というやつか。


これが俺とルーデルハイン様との出会いだった。

ランドさんの受難が始まる予感がします。

ここから少しルー様のお話が続くことになると思います。


主人公のファースト君の活躍を楽しみにされている方には申し訳ありません。

もう少しルー様とこの世界と力について紐解いていきたいと思います。

よろしくお願いします。


それぞれの後書きにその話にまつわる設定などをちょこちょこと書いていっています。

あとでまとめて設定資料にするつもりではありますが、気になる方は見返していただければ幸いです。


ブックマークありがとうございます。

見て頂ける。評価を頂けることがこんなに嬉しいとは思ってもいませんでした。

更新の励みとなっております。

今後ともよろしくお願いします。


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