転生②
覚えている記憶の一番古いものは、母親らしき人が俺を抱えてあやしている記憶だと思う。
たぶん美しい人だったと思う。
いやそうに違いない。だって俺の親なんだから!
たぶん、近くに父親もいたんだろう。覚えてないが。
当時を覚えている人曰く、母親と同い年でそこそこイケメンだったらしい。
父親の自覚は皆無だったようだが。
そう、俺はどうやら転生したようだった。
子どもの脳には大人の記憶が理解できなかったからかわからないが、
自我はあるが記憶はところどころ欠けたままだった。
少しづ大きくなるにつれ全体を思い出してきたという感じだ。
母親のことで覚えているのは・・・
ぼんやり覚えているのは母親が俺を見て笑っていたと思う。
喋りかけていたのだろう。
何を言っているのかまではさすがに覚えていないが。
母親は体の弱い人だったようで、俺を生んでから半年ほどで亡くなってしまったらしい。
この話をするとみんな悲しい顔をするのだが、覚えていないので複雑な感情になる。
母親が亡くなってから俺は母方の祖父母に引き取られ育てられた。
父親?知らん。
誰も素性は教えてくれんし。
いい加減な奴だったようなので聞きたくもない。
ま、そんな感じで。幼少期が始まるわけだが。
「あー、うーうー」
ぼんやりと自我はあるのだが、体がついてない。
もどかしすぎる。
自分が転生したとその時はまさかも思っていなかったので、状況を聞こうとしていたのであろう。
体ももちろん思い通りに動かない。
死んだことはなぜか覚えていたので、動けないことがひどく怖かった。
たぶん植物人間だとかそんなのを想像していたのかもしれない。
「ルーデルハインや、どうした?腹でも減ったか?」
「あなた!またルーを甘やかそうとして!まだこの子は赤ん坊ですよ。お菓子は食べられません!」
男に抱きあげられた。
ゴツゴツしてるな。かなり鍛えてるみたいだ。
この人が俺の爺さんかな?
大きな家みたいだし金持ちみたいだ。やったね!
隣で笑っているのが婆さんかな?
でも、二人とも爺さん婆さんっていう年じゃない。
それこそ死んだ俺と同じくらいじゃないかな?
まだまだ俺のおじさんおばさんができそうなくらいだ。
いや欲しいわけじゃないので、勘弁してください。
この家に来て2週間くらいたってようやく事態が見えてきた。
まだ記憶は全然定かじゃないが、転生したんだなってことはわかる。
毎日爺さんに抱きあげられて、母親がいかにかわいかったかを延々聞かされていると嫌でもわかってくる。
なんで転生したのかはわからないが、記憶を残すのならもっとしっかり残しておいて欲しかったな。
死んだことは覚えているが、何か大事なものを置いてきてしまった気持ちになってしまう。
覚えていないのは仕方ない。そのうち思い出すだろう。
祖父母の顔立ちや建物から察するにここは日本ではないと思う。
こんなマッチョでホリの深い日本人はいないと思う。
服装から見ると中世のヨーロッパっぽい感じがする。
あ、あとメイドさんがいた!メイドさん!それも何人も!
大きなきれいな屋敷みたいなので、もしかしたら貴族なのかもしれない。
もちろん電化製品なんかは無いのだが、明かりは点いている。
電灯ほどの明るさはないが十分な明るさだ。どんな原理で動いているのだろう?
人生やり直したいと願っていたが、そういう意味ではなかったんだがなぁ。
ま、生まれ変わったのなら仕方ない。
メイドさんもいるし。これから楽しむしかないか。
今の俺は何歳だ?
生まれて半年ほどで母親が亡くなって、ここに来て2週間くらいか。
シームレスってわけじゃないだろうから1か月ほど足したとして、8か月くらいか?
そろそろ高速ハイハイをしてもいいかもしれん。
メイドさんに抱っこされて移動するのも好きなんだけどね。
言葉は何故かわかった。
日本語ではないのもわかる。
この体の遺伝子が優秀なのかもしれないが、頭はよくなりそうだ。やったね。
「おおルー。ジイと散歩に行かんか?」
爺さんに見つかったらすぐに抱き上げられてしまう。
「あなた、このころの赤ん坊はハイハイして体力をつけるのよ。あまり甘やかしすぎるとダメでしょ」
「あー、うーうー!」
「ほら、ルーもそう言ってるわ」
「わかった。わかった。ほれルーよハイハイして行くんじゃよ」
やっと下ろしてもらえた。
爺さんはメイドたちの方を見て言う。
「おぬしらルーが危ない目に合わんようにしっかり見ておくように!」
「はい。旦那様」
過保護すぎやしないか?
「ルーは頭がいいわね。ルーの反応を見ていると。私たちの言葉を理解しているのかもしれないと思ってしまいますわ」
「あたりまえじゃ!わしらの孫だぞ。優秀に決まっとるわい」
「ふふふ」
あぶねえ。ばれたかと思った。
俺は転生者だということは隠しておこうと思っている。
やっぱ気持ち悪いと思う。
自分と同じくらいの歳の魂を持った孫なんて。
1歳になった。
この家にいるのも4か月か。
聞こえてくる話の内容から察してだが、だいたい状況が呑み込めてきた。
この家は貴族の家らしい。
ミルデランという国の王都にある伯爵家ということだ。
家の外はまだ出窓からしか見たことがないが、かなり大きな街だと思う。
それこを10万人くらいは住んでるんじゃないのか?
がやがやと遠くの声まで聞こえてくるくらいだから、人口は多そうだった。
爺さんは軍関係の仕事に就いているようで、たまに部下っぽい人が話をしに来たりする。
庭で鍛錬して帰っていく人もいるみたいだ。
鍛錬してるってことは敵がいるってことだよな。
やっぱ戦争とかあるのかな。
嫌だな。
俺もいつか行かなきゃいけないのだろうか?
爺さんの剣は音がすごい。
ブンブンいってるし岩でも切れそうな勢いだ。
あとこの世界には魔法がある。
魔法は神職っていう、この世界の宗教に携わっている人だけが使えるみたい。
神様から力を借りて魔法を発現するみたいだ。
神様いるんだこの世界は。
でも、ほんとは神職以外でも使える人はいるみたい。
正確に言うと。
魔法が使える人は国に勝手に登録されて神職として扱われるらしい。
魔法=神の力だから、魔法が使えるのは神職だけって建前らしい。
もぐりは認められないみたい。
でもいるだろうな隠れ魔法使い?隠れ神職?みたいな人が。
ほとんどの人が子供の頃に魔法が使えるようになるから登録に漏れるような人はいないらしい。
まれに大人になってから使えるようになる人もいるみたいだけど。
登録してなくて魔法を使うのは罪になるみたいだから、隠れてると思うのね。
俺も火の矢とかぶっぱなしてみたいな。
でも神職にならなきゃいけないんだろ?あんまりいい印象はないんだよな。
爺さんは武人みたいだから遺伝的にどうなんだろ?
考えても仕方ない。
使えるんだったらそのうち使えるようになるだろう。
ちなみに癒しの魔法は僧侶が得意。みたいなくくりはない。
等しく神の御業ということらしい。
うちの国の神さんは水の神様。なんでかは知らん。
子供が聞いて調べられたのはそれくらいだった。
「ルーは大きくなったら爺のあとを継ぐんだぞ。立派な騎士にしてやるからな」
「うー、うー」
「そうね。良い娘さんと縁組しなきゃね」
気が早すぎませんか?まだ1歳になったとこですよ。
お相手はまだ生まれてないかもしれないってのに。
見も知らない国に赤ん坊として生まれなおして、ましてや剣と魔法まである世界。
ここはいったいどこなんだろう?
物理法則は地球と同じなんだろうか?
そもそも同じ宇宙にあるのだろうか?
そもそも星なのか?
異世界ってなんだ?
ぐるぐる考え出すと止まらなくなる。
頭が痛くなってくるのでほどほどでやめとこう。
ま、せっかくやり直し?ができるみたいなんだから楽しまなきゃね。
この人生では笑って死ねるような人生を送りたいもんだ。
なんと転生者はルーデルハインさんでした。師匠さんですね。
悲しい生い立ちではありますが、本人はそんなに気にしていないようです。
前世での未練のことも今はまだ忘れているようです。
父親は誰かはまだわかっていませんが、優秀な遺伝子をもっているようで
どんどん知識を吸収していっています。
ありましたよね。覚えるのが楽しい時期が。
この世界では幸せになって欲しいものです。
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