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師匠の力

急に現実感がしてきた。

体中に震えがくる。怖い、怖すぎる。

自分がまだ何の力も持ってない子供だと再認識する。

ただ怖くて体から力が抜けていくのがわかる。


「お前の憧れている冒険なんてのはこんなもんだよ。バカヤロウ」

師匠のそんな声が聞こえた気がした。


近所の森でさえ一歩入ると表情が変わる。

力のないものには容赦なく牙を向ける。そんな知らない世界に突然迷い込んだような感覚。

自分の生きている世界がこんなにも怖いと初めて思ったのはこの時だったかもしれない。


「よく見ておけよ。二度は見せられないからな」

ふいに聞こえた声に耳だけが反応できた。体は強張ったままだ。

え、師匠?さっきの声って本当に師匠の声だったのか?


そうだとしても、なにも見せるというの?神職は戦えないんじゃ?

師匠の魔法はたしかにすごいと思っている。

あんまり見せてはくれないけど、それでも戦いに使えるとは俺も思ったことはない。


「う、ひぐっ。無理だよじじょう。じじょう弱いもん。魔法は戦えないって言ってたじゃないか」

ぐちゃぐちゃになりながら声を絞り出す。声を出すことで少しだけ落ち着いた気がした。


見るとオオカミは突然現れた師匠を警戒したのか、包囲を解き距離を取って次の作戦を考えているようにこちらを見ながらうろうろしていた。


「誰が魔法なんか使うって言った。戦い方だけだ。思い出せ。魔法とはなんだ力とはなんだ?」


師匠の説だと魔法も力も同じものらしい。

曰く、人間は元々は強いらしい。限界が無いくらいに強い。

でも、限界もないが何かによってその力を使えないようにされている。

その箍を外すのが訓練などのいわゆる修行という行為だと。


強さに限らず集中力や知力なども同じ。

努力や心持ちによって上限も変わるし、実際の力も変わる。

人間の能力を押さえつけているものが何かはわからないが、師匠は人間自身だと考えている。

あらゆる生物もそうなんだそうだ。固定概念って言ってた。

そうしないと破綻するのがわかっているから。

食物連鎖や弱肉強食みたいに自然となるべくしてそうなっている。

神様というのが本当にいるのならそのシステム自体。もしくはシステムをつくったやつが神様なんだろうと言ってた。


本来は気の遠くなるような長い年月をかけて、進化の中でその姿を変えたりする。

破綻しないように、あらゆるものの関係がちょっとずつ変化していく。


「つまるところ。アホになるんだよ。自分を。世界を規定している全てを忘れろ。忘却。失念。アホだアホ。ずっと言ってただろうが、バカヤロウ」

そういって師匠は別世界にでも行ったかのように雰囲気を変えた。

「ふっ!」

空気が震えたと思った刹那、師匠はオオカミの向こう側に立っていた。

「え、なに?何が起こった?」

それから数舜後にオオカミたちが倒れこむ。


なんだこれ。すごい。強いっていうかおかしい。

ここでやっと安堵感が込み上げてきた。

すごい。助かった。よかった。さすが師匠。


そう思っていたら突然師匠が倒れこんだ

「師匠!大丈夫か?怪我したのか?」

まだ俺の全身の震えはおさまっていない。

こちらから見えなくなった師匠俺は焦る。


震える体で這うようにして師匠に近づいていく。

「あーやっちまった。これは1週間は動けんかもしれん」

「どうした師匠?怪我したのか?死ぬのか?」

「バカヤロウ。動けんって言っただけだろ。無理に力を引き出したから、ぶり返しだよ。頭は力を理解していても、体までアホになれずに限界を信じたままだったってことだ。体鍛えてるやつは、鍛錬がここまで動けるって頭も体も上の方の限界を信じ込んでるからぶり返しが少ない。俺はまだそこまでできないってだけだ」

アホだけど理解する。体で覚えてるってことか?覚えたらダメかそこが限界になっちゃうのか。

難しいな・・・。

「そっか、アホになれって師匠が言ってたのはそういう意味なのか。適当なこと言ってるわけじゃなかったんだな」

「俺はずっとそう言ってただろバカヤロウ」


そんな会話をして、師匠が動けるようになるまで待つ。

俺も震えが収まるまでもう少しかかるかな・・・。


とりあえずの危険は去ったわけだが。なんで師匠はここにいたんだろうか?

もしかしてずっと見守っていてくれてたのか?そうなのかな。

もしそうだとしたら・・・。

まずい!師匠の文句を言ってたのも、用を足しているときも見られてたってことなんじゃないか?


うん、触れないでおこう。たぶん師匠も見守ってたってのは恥ずかしいだろうし。うん、そうしよう。

「そういやお前、俺の文句ばかり言ってたな。あー、あと。近所の子だったっけ?アニスって言ったか?あいつのことが好きだっていうのは黙っていて欲しいか?」

「すいません。勘弁してください」

ニタニタしながらからかってくる師匠に肩を貸して二人で起き上がる。

そのままゆっくりとだが着実に裸の俺と師匠は村へと戻るのだった。


「そういや師匠。この裸って意味あったの?肌で感じろ的な?」

「いや、ないぞ。ただの嫌がらせだ」

「くっそ師匠が====!!」

俺の叫び声が森に響くのであった。


「で、お前魔法使ってなかっただろ?」

「え、だって教えて貰ったのって水出すとか、土を盛り上げるとかそんなんじゃん。まだ火はちっこいのしか出せないし・・・」

「それで野営しろって意味だったんだがな。見てたけど、お前は猿か?木に登って、降りてわざわざ川まで行って水飲んで、しょんべんしてまた登って。土で小屋作るとかいろいろあっただろうに。バカヤロウだなほんとに」

「ぐっ。そうだった魔法の修行って言ってた気がする」

呆れてため息をつく師匠。

くそー、リベンジさせろリベンジ!もうやりたくないけど。


ふと、師匠が思いついたようにボソッと言った。

「そうだ、お前、明日から自警団へ行け」

「へ、なんで?」

「冒険者になるんだろ?言っただろうが、魔法なんか戦闘には何の役にも立たんと。しっかり剣でも覚えてこい。使える奴が何人かいただろ。それこそ冒険者あがりのやつもいたし。修行だ修業。やっとけ」

「はい・・・。わかりました」

なんだかんだ言ってこの人なりに考えてくれているのかもしれないな。

俺の家にもしょっちゅう来て親父と飲んでるみたいだし。

メシたかりに来てるだけかもしれんが。

それと、兄貴のことも気にしてくれているみたいだ。


そんな出来事もあって、師匠からはそれからいろんなことを教わった。

10歳から15歳までだから5年間か。

かなり濃密な時間だったと思う。

その間、師匠からは本当にいろんなことを教えて貰った。

師匠自体が世情に疎いから、国とかそんなことはあまり学ばなかったが、ものの考え方や力の使い方。

それこそ異世界のことまで・・・・。

師匠が何者なのか、どうしてあんな力が使えるのとか、少しずつだが師匠が俺の一部になったような気がしていたんだ。


主人公の力は師匠に教えて貰ったものだったようですね。

「始めに力あり」

人間には無限の可能性がある、しかしその限界を決めているのも人間です。

意識を変えるだけで昨日できなかったことが、急にできるようになることがありますよね。

催眠術で苦手なものが克服できる。

そんな感じに似ているのかもしれません。

もしかしたらこの日本でも魔法が使えるのかもしれません。

使えないと思い込んでいるだけで、もしかしたら・・・・。


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