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神職

 自分が周りの子供たちと違うと感じだしたのは8歳の頃だっただろうか。

無邪気に遊んでいる子供たちを見て、懐かしさを感じている。昔もこうして遊んでいたような感覚。

ここは知っているが知らない場所。いてもいい場所ではないのではないのだろうかと不安になる。

兄に相談しても「俺にもそんな時期があったと思う、もっと大きくなってからだったけどな。ファーストはませてるな」と軽く流されてしまった。

そんなものかと深く考えもせず、毎日を駆け回って遊んでいた。


感じた違和感が大きくなったのはそれから2年がたった10歳の時だった。

衝撃的だった。あの人が村にやってきたときだ。

「ファースト。今度、村に新しい神職の人が来るんだそうだ。子供の教育に熱心な人だそうで、村に子供向けの学び舎を作ると言っているそうだ。どうだお前も行ってみるか?」

そんな感じだったと思う。

神職の人が各地の村で子供に勉強を教える。それ自体は珍しいことでもないそうだ。

勉強と言っても読み書きと簡単な計算くらい。子供たちの中で頭の良い子がいれば大き目の街に送り役人に斡旋したり、神職に興味があれば勧誘する。

教育の中に布教を入れ、国の中に入り込める人材を作り出す。このシステムが国教を安定させるシステムとして成り立っているのであろう。

国としてもそこまで国の中枢に入り込もうとするのがあからさまでなければ、教育への投資がなくなる分使いやすいシステムとしていわゆるWIN-WINの関係というやつだったのだろう。実際、長い間このシステムは続けられているらしいし。


「お前はここに来なくてもいい。時間の無駄だ」

その神職は俺の目を見るなりそう言ってきた、勉強しても意味のないほどのバカと言われた気がして食って掛かる。

「なんだよ!なんで俺だけダメなんだよ!俺だって文字くらいかけるし、計算もできる!バカにすんな!」

「だからだよ、バカヤロウ。ここは読み書き計算を学ぶとこだぞ。お前はここで何を学ぶんだ?さっさと大きな街にでも行きやがれ!バカヤロウ」

「バカバカいうな!教えることくらい、なんかあるだろう!それを考えるのがあんたの仕事じゃないのか!?」

「10歳のガキがそんなこと言ってる時点でここにいる資格はないんだよ。悔しかったらアホになってこい。バカヤロウ」

「頼むよ。神職の兄ちゃん。ここで学んでこないと親父と兄ちゃんに怒られるんだよ・・・」

押してもだめなら引いてみろだ、泣き落としにかかる。

「ダメだダメだここで学びたかったらアホになってこい。それだけだバカヤロウ」

取り付く島もないとはこのことだった。


実際、俺は他の周囲の子供たちと違って読み書きができていたし、計算もできる。

計算が苦手な大人の代わりに税の計算の手伝いもしたこともある。

大人たちには神童扱いされていい気にもなっていた。

「クソッ!覚えてろよ。絶対なんか教えて貰うからな」

今思えば何をそんなにムキになっていたのだろうと思う。

普通の子供なら喜んで帰っていたかもしれないのに。

たぶん認めたくなかったんだろうな、自分が人とは違うということに。


それから毎日、手を変え品を変え俺は授業にもぐりこんだ。

変装もしたし。アホになったふりもした。

清掃だけするから置いてくれとごねたこともあった。

でも全部ダメだった。


「さっさと大きな街に行けって言ってるだろうが、バカヤロウ」いつもこれだ。

最初の頃は親父も母親も笑って頑張れよと言ってくれたが、おたくの子は特別だと神職に諭されでもしたのか、もう行かなくてもいいと言うようになってきた。


「あきらめるしかないのかな。俺もみんなと勉強したかったな」

俺がいろんな手を使って2か月ぐらいたってきたころ、さすがに心が折れかけてきた。

学び舎が終わった夕方ごろ。(学び舎は午前中の家の用事が終わってからの午後から始まる)

あのバカヤロウ神職が村に新しくできた、掘っ立て小屋に毛の生えたような家に戻るのが見えた。

これでダメだったら諦めよう。


なんとなくふらふらと神職のあとをついて行った。

そのまま家に入る神職に続いて家に入り込む。

「お前な。いい加減にしろよ。バカヤロウが。お前には教えることなんかないと言ってるだろ」

「俺はあんたから見ても優秀なんだろ。だったら神職になるよ。だから神職の仕事を教えてくれよ」

何気なしに言った言葉だが、神職は驚いて俺も見る。

お、反応ありだ。

「バカヤロウ!!そんなこと二度と口にするんじゃねえ。神職なんてクソだクソ。こんなもんなるならそこらで野垂れ自ぬか、冒険者にでもなりやがれ!」

「なんだよ!お前だって神職じゃないか!わけがわかんねーよ!」

俺はとうとう泣き出してしまった。

よく考えたらこんな大泣きしたのは赤ん坊のころ以来じゃないのか?

「うるせーな。わかった、わかった。もう泣くな。なんか教えてやりゃいいんだろ?」

まだべそべそ言ってる俺を背にして、ゴソゴソと荷物の中から神職は分厚い本を出してきた。

「ほら、これでも読め。三日で覚えてこい。覚えたら次だ。覚えられなかったらこれで終わりだ」

まだグズグズ言いながら本をひったくるようにして借りる。そのままダッシュで家まで帰った。


そこから3日は何も覚えていない。

いや本の中身は覚えているよ。正しく魔法の本だった。比喩では無く魔法と力について書かれた本。

それを俺はまさしく寝る間も惜しんで覚えた。

風呂には入らなかったような・・・メシはどうしたっけな?母親が無理やり口に突っ込んでいたかも。

何回か漏らしたな。漏らしながら読んだ。

とにかく読んだ。

覚えろと言われたこともうれしかったけど。

面白かった。ただ面白いと感じた。ひたすらにむさぼった。

一言一句覚えないと損だと思えるくらい。


「覚えた・・・。全部覚えてきた」

いささかげっそりした様子の俺をみてはぁーと深いため息をつく神職。

「魔法とは?力とは」

「すでに身にあるもの。鍛錬にてそれを引き出せる可能性を探すもの」

「顕現する限界は?」

「無限にて有限。自身の中に限界を規定するものなし」

「・・・・・もう使えるのか?」

「試してない。さっきまで読んでいたから」

「全部忘れろ。そうしたら弟子にしてやる」

「わかった忘れる。たぶん・・・」

「神職にはなるなよ。あいつらはクソだ」

「わかった神職にはならない」

「・・・」


「ルーデルハインだ。お前の名は?」

「ファースト」

こうして俺はルーデルハインの弟子になった。


地元の神職さん。師匠がやっと出てきました。

なかなかクセのある人のようですね。

子供は大事にするみたいですが、懐に入った人には遠慮がなくなるみたいです。


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