地竜との戦い
地竜が咆哮を上げる。
その声は空気を震わせ、鼓膜を突き破らんばかりの轟音だ。
全身に本能的な恐怖が走る。
足が竦みそうになるのを必死に抑え、俺は横へ飛び、迫りくる突進をなんとか躱した。
剣を抜き構える。
竜の巨大な爪が振り下ろされる。
その軌道を見極めた俺は身を翻してかわし、隙を見てその腕に剣を叩き込む。
しかし――。
「硬っ……コノヤロウ、岩かよ!」
剣が弾かれ、ほとんど傷一つつけられていない。振り下ろされた腕が地面に埋まる間に、俺はすぐさま距離を取った。
ルクスさんは・・・。
今のうちに仲間の安否を確認ですか。
地竜が俺を狙っているんだから、仕方ないとはいえちょっとショックだわ。
「ルクスさん、どうですか!」
「ああ、大丈夫そうだ!衰弱しているがみんな無事だ!」
よかった。間に合ったか。
こいつの腹の中でないことだけを確認できただけでも良しとするか。
でも早く戻ってきてよルクスさん!一人じゃきついっす。
右手で横殴りの攻撃をバックステップで躱す。
そのあとにくるっと回ってしっぽの追い打ちが来る。
それをジャンプで躱す。
「あっぶね。こいつけっこう尻尾が長い」
地竜はそのまま尻尾を振り上げて叩きつける。
サイズが大きければ地震起きてたんじゃないか?
地竜が頭を低く下げた瞬間、不吉な予感がした。
次の瞬間には、その巨体からは想像もつかない速度で突き上げてくる。
「くっそ、何だその速さ……!」
巨体での突進や攻撃が、まるで一匹の獣のようだ。でかい図体のくせに、全く侮れない。
くっそ!やられっぱなしじゃないか。
でもこっちの攻撃は入らない。力は最近使ってないから集中する時間が必要なんだよ。
そこに弓の援護が入る。
「ルクスさん!」
ルクスさんは俺と戦った時は剣だったけど本職は弓だもんな。
めちゃくちゃいい腕してる。
でも地竜の皮膚に突き刺すまでにはいかないか。
いや、刺さってるのあるぞ。
なるほど柔らかいところを狙ったのね、すごい腕だな。
さすがは本職。
俺との時も遠くから弓だったら危なかったんじゃないかな?
「ルクスさんこっちの剣は通りません!なんとか気を引くことはできませんか?」
「無茶言うなよ!
普通、前衛が気を引いて後衛が弱点狙うんがセオリーじゃないのかい?」
「そうは言ってもこのままじゃジリ貧なんですが」
「あのへんな動きで何とかできないのかい?」
「あれはしばらく使ってないから、集中する時間が必要なんですよー」
そんな会話をしながらも、地竜は右左尻尾と連続で攻撃を仕掛けてくる。
まずいな。そろそろこいつも慣れてきたみたいだ。
さっきのちょっとかすったぞ!
「仕方ない。
とどめに使うつもりの矢を放つから、その間になんとかしてくれ!」
そんなのあるんかい!だったら最初から使って欲しかった。
「1発しか持ってないから、チャンスは1回だけだから頼んだよ!」
ああ、そういうことね。
ルクスさんの予定だと俺が弱らせて、その弓で仕留めるという算段だったのかな?
「離れて!」
「えっ!」
咄嗟のことだったが、なんとかバックステップでそれなりの距離を取る。
その瞬間地竜の背中かで爆発が起きた。
炸裂弾みたいな矢だな。
こりゃ急所に入ったらさぞかし痛かったろうに。
でも今回は気を引くために使ったから、背中にそれなりの傷を負わせるくらいにとどまったみたいだ。
でもナイスですルクスさん!
意識を研ぎ澄ませる。
周囲の景色がぼやけ、揺れ、騒ぎ立てるような感覚が広がっていく。
そして――その全てが俺の中に収束し、力となる。
「はああああああ!!」
剣に全てを込め、目の前の地竜に向かって一閃を放つ。
右上から左下へ、ただひたすらに薙ぎ払った。
視界が戻ると、そこには静かに崩れ落ちる地竜の巨体があった。
左肩から右腰にかけて真っ二つに裂かれ、動く気配はない。
「……終わったか。」
全身に疲労が押し寄せる。
息を整えながら、地竜の無惨な姿を見下ろし、俺はようやく剣を下ろした。
明日は筋肉痛かもしれんなこれは。
最近さぼってたし。久しぶりにぶり返しが来るかもしれない。
「すげぇな……竜を真っ二つにするなんて、伝説の英雄みたいだぞ。」
「いやいや、伝説の竜ってもっと山みたいにデカいんじゃないですか?
A級の人ならこれくらいやるんじゃないですか?」
「無理だって。A級はただの人間だ。こんなことできるのは、S級の化け物くらいだよ。」
「……化け物か。そんな人には会いたくないですね。」
「それよりルナたちを早く助けましょう」
「おっと、そうだった。あまりのことに気が動転してたよ」
しっかりしてくださいルクスさん。
さっきまでのキリっとした感じはどこ行ったんですか?
「よう、ルクス悪いな。迷惑かけちまった」
「なに言ってんすか隊・・ダーレス!
仲間なんだから当たり前だろ」
「坊主も迷惑かけたな。
ちょっと起き上がれねえからよくわかんねえが、他にも助けがいるんだろ。
呼んでくれないか。とりあえず礼が言いたい」
「いや、それが俺とファースト君だけだよ」
「なんだって、お前の秘蔵の炸裂弾が弾けた音が聞こえたから、人は少ないとは思ったんだが。
二人だけとはな・・・あとで、詳しく聞かせてくれや」
「はい、わかりました」
ルクスさんが興奮のあまり若干素が出ているみたいだが、今のところはスルーしとこう。
「ファースト凄かった、地竜が真っ二つ」
「ははは、偶然いいところに入ったみたいで・・・」
「しっかり見た。あれは先生の技に近い」
ダーレスさんの視線が痛いんですが、これは逃げられないかな。
「そうよ!最初から言ったじゃない!
ばびゅーんで、ずばん!って。聞いてなかったの?!キキョウ!」
「それじゃ何もわからないルナの話はいつもそう」
「もう!キキョウったら!
でもよかった」
ルナが珍しくしおらしい顔をしている。
こいつでもこんな顔するときがあるんだな。
いつも怒ってるばかりだったしな。
そういや膝枕の時にも見たか・・。
「ドルガンさんは気を失っているみたいだから心配ですね。ちょっと診てもいいですか?」
「坊主は神職なのか?
そうだったらありがたいがそうは見えなかったんだがな」
「違いますけど回復の手段はあります」
すっとドルガンさんの額に手を当て探る。
深いところまで見たが致命傷になるようなことは無いようだった。
俺は神様の名前を適当に詠唱っぽく唱える。
ドルガンさんの体の傷をある程度癒し、ダーレスさんの傷も治していく。
「坊主はいったい何者なんだ?
いや、助けてもらってこんなこと言うのはお門違いか」
ドルガンさんが気が付くのを待ち、街に戻ることにした。
帰りはやたらとルナがはしゃいでいたが、対照的にダーレスさんが考え込んでいる
ちょっと心配になる。
地竜の亡骸はひとまず置いておくことにした。
ギルドに近隣に地竜が出現したことも報告しなければいけないだろうし。
実況見分もあるだろうから、そのままにしてきた。
森の入り口に残してきた馬は地竜の咆哮でびっくりしたのか、
森からだいぶ離れたところで2頭寄り添っていたのを無事保護。
まだちょっと本調子でないダーレスさんとドルガンさんを馬に乗せ、
残りは徒歩でゆっくり帰ることにした。
「ねえ、ファースト。」
「なんですか、ルナさんや。」
「もう!そのオジイサマみたいな喋り方やめてよ!」
彼女は一瞬言葉を詰まらせ、小さな声で言った。
「ありがとう……ほんとに。正直、もうダメかと思ってたの。」
「いいよ。無事だったんだから、それでいいだろ。」
ルナの明るい表情の裏に隠れた本音に、俺は少しだけ胸が熱くなった。
「ルクスさんから報酬も貰えるって聞いてるし。
あんまり気にするなよ」
「うん、強いねあなたは。(私も一緒にいられるくらい強くならなきゃ!)」
「ん?なんて?」
「なんでもない!早く帰っておいしいもの食べたいねって言ったの!」
「そうだな。早く帰ってうまいもん食べようぜ!」
ルナの明るさに皆が救われながら街への道をゆっくりと帰るのであった。
なんとか地竜を倒すことができました。
こいつを一人で倒しちゃうような人がいるんですね。驚きです。
竜種はそのうちまた出てくることもあるかもしれませんので、ここで小型と実戦できたのはよかったかもしれませんね。
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