4.僕のルーナ (レイト)
僕がこの家に来たのは4年も前になる。父さんが海外に仕事に行くことになって、ついて行く選択もあったがこの国に残りたいと言う気持ちからここに来ることになった。
初めてルーナ姉さんに会ったのは、晴天の空の下薔薇に囲まれた庭だった。見た瞬間、可愛いその姿に天使かと思った。薄紫色の髪は、絹のようにさらさらで肌は白く、体は細い。全てが愛らしく守ってあげたくなる。
この人が僕のお姉様になるのか。
これは、公爵も溺愛するわけだ…
ルーナの父、公爵の親馬鹿は父さんから聞いていた。何でも娘に与え、甘やかしているんだとか。
ふと、ルーナがこちらを向いた。緑色の大きな瞳と目が合う。一瞬驚いたような反応を見せたが、ふわっと花のように微笑んだ。
…ッ!!!
可愛い!可愛い!!
とことこと僕の方へ駆け足で近づいて来る姿にもまた、胸を打たれた。今まで、女の子にこんな思いを持ったことがないのでドキドキする。もしかしたら顔が赤くなっているかもしれない。
「こんにちは。私はルーナ マルチウスです。あなたは?」
7歳とは思えない綺麗な作法でカーテンシーを行うと小首をかしげて可愛らしく聞いてきた。
反則だと正直思った。これからお姉様になるのに…!弟の僕がこんなんじゃダメなのに…!
それでも心臓はバクバクと鼓動を強める。
「…初めまして。レイト アスラントです。」
「…レイト様ってもしかしてこれから一緒に住む人ですか!?」
名前を聞き、少し考えた後瞳を輝かせてそんなふうに聞いてきた。
「は、はい…!」
「本当に!?」
何がそんなに嬉しいのかよく分からないが喜んでくれているらしい。
「お嬢ー?」
少し離れたところから声が聞こえて来た。ただ、その声が僕たちと同じ歳ぐらいの男から発せられることに驚く。だれかルーナの友達だろうか。
「あっルイスだ!おーいルイスー!」
ルイスとは誰か。それが胸をモヤモヤさせる。
「あっいたいたお嬢ー。ん?誰すか?」
現れたのは執事服をした男だった。ルイスと言うやつは僕を見るなり、警戒する。言葉では、それこそあまりだが目が据えている。ルーナを自分の方へ寄せこちらを覗う。
「ルイス!こちらは、これから一緒に住むレイト様よ!私の弟!」
ルーナの言葉を聞いた瞬間警戒を緩め、敵対するような据えた目では無くなった。
「そうでしたか。いや~すみません。お嬢を襲う不審者かと思いました。まさかこれから俺がお仕えする人とは。」
「ルイス!そんな事言ったらダメ!それに私襲われたことなんて無いでしょ!」
腰に手を当てて人差し指でメッとあいつに叱る。その姿も可愛い。僕にして欲しい。あの執事服やろうデレデレだ。
「僕は気にしてませんよルーナ姉さん。」
すると、執事服やろうからくるりとこちらを向いて目を輝かせた。
「姉さんって言ってくれた!私お姉ちゃんになるのが夢だったの!嬉しい!」
満点の笑顔に胸が打たれる。
そんな僕たちを見て執事服やろうが口をはさんだ。
「はいはい。お嬢、旦那様がお呼びでしたよ。あと、レイト様も。」
ちらっとこちらを見たがその目は冷たいものだった。そして、ルーナ姉さんの背中を押して屋敷の方へ歩いて行く。僕も二人について行った。
これが初めての出会いだ。
そして、月日はながれ僕たちは育った。ルイスやアンナとも一緒にいることが増え、僕は弟と言う理由でルーナの近くにずっといる。
僕の大好きなルーナ。
橋で怪我をしたときは気が気でなかった。自分の怪我の痛みなど忘れ、意識なく横でぐったりと顔色なく倒れるルーナを見た瞬間生きた心地がしなかった。胸にルーナを抱え、何度その名を呼んだことか。意識が戻って安堵したのもつかの間ですぐに瞳を閉じてしまった。あの時ルーナを庇えなかった自分の弱さにルーナが目を覚ますまでの数日間どうしようもなく、己を憎んだ。
やっと目を覚まして心に少し余裕が出来たところでルーナが無理していたと言う話しを聞いてルーナに怒鳴ってしまった。
けど、これでルーナは隠し事をしないと約束してくれた。僕たちを頼ると約束してくれた。
もっとたくましくなってルーナに沢山頼って貰いたい。その一心に今日も剣の鍛錬へ僕は出る。