7 リッチィってなんだろう
冒険者ギルドが凍り付くように静まりかえる。
「……あれ?」
私は何か変なことを言ったであろうか。
ギルド長までもが驚いた顔をして固まっている。
「……あの」
「お前は組織の上の者に虚偽の発言をした。よって罰則により右手を頂く」
「どういう理屈ですか! おかしいで――って痛い痛い!! 本当に噛むのは止めて下さい!」
私の右手を両手で掴み、まるでトウモロコシを持つようにして噛じるギルド長。
本気で食べるつもりはないんだろうが、地味に痛いから止めてほしい。
「うぅっ、リッチの何が悪いのですか……」
見れば歯形が右手にハッキリと残っている。
「お前は馬鹿か。リッチなどこの世にいるわけがないだろうが」
「……え?」
「リッチなど大昔のお伽噺の中の存在だ。私は数百年と生きているが、リッチなど見たことがない」
どういうことだろう。
リッチがお伽噺の中の存在? なにかとてつもない嫌な胸騒ぎがする。
「お前が珍しいアンデッドなのは認めるが、リッチなどと嘘をつくのは認めない。よって、右足を頂く」
「なんでそうなるんですか!?」
今度は本気で右足に喰らいつこうとするギルド長に抵抗をしていると、冒険者ギルド内から楽しそうな声が上がる。
皆はコントだと思っているのかも知れないが、このギルド長マジです。誰か助けてー!
◇◇
「…………」
そんな冒険者ギルドの皆が笑い声をあげる中、ただ一人だけ無言で水晶を覗き込んだまま固まる人がいた。
オバちゃんである。
「どうかしたのですか? キヌエさん」
固まるオバちゃんこと、キヌエさんに獣耳の受け付け嬢の女の子が懸念を抱く。
「……ミラちゃん?」
「はい? どうかしましたか、キヌエさん」
オバちゃんは一言呟くと、獣耳の受け付け嬢こと、ミラに水晶を覗き込むようにと小声で話す。
一瞬何故と不思議に思ったミラだが、とりあえずと水晶を覗いてみると。
名前:リッカ・エンマ
年齢:16
種族:リッチィ
レベル:1
スキル:なし
固有スキル:チラシ
加護:▲◆◇★
「……え?」
同様に固まるミラの姿を見たオバちゃんは、見間違いではなかったかと天を仰いだ。
◇◇
そんなこんなでギルド長と格闘すること数分間。
私の右手と右足は何とか無事でした。ええ、無事でした。
「なんか、すまん」
本当に悪いと思っているのか、ギルド長は頭を掻きながら言葉にする。
「まさかローブの下が裸だとは思わんかった」
そう、これは自分自身も忘れがちだったのだが、私は裸のままローブを着ていたのだ。
右手の場合は何とかギリギリで済んだが、右足の場合はそうはいかなかった。
ギルド長が右足を持ち上げて噛み付くもんだから色々とアウト。
その際、傍観に徹していた女冒険者達がローブの中の姿に気が付いて駆け寄って来てくれて事なきを得たが、その後に延々と女冒険者達から小言を貰った。ギルド長共々。
「なんか、すまん」
「いえ、別にそれほど気にしていませんから」
「そうか、ならいいか」
「はい」
元男として裸の一つくらい特に気にしない。全裸なら流石に恥ずかしいが、あれくらいなら許せる。
そう話す私とギルド長の肩に女冒険者達からの手が再度置かれ、延々と小言をまた貰うことになった。
◇◇◇
「おい、お前らそこで何してる」
女冒険者達から延々と続く小言を貰った後、色々とざわめく冒険者ギルド内の一角にて固まる受け付け嬢達をギルド長が発見した。
「食いもんあるなら寄越せ」
隠し食いは許さんと手を差し出すギルド長。
この人は本当に食べる事しか頭にないのだろうか。
ギルド長は地面にへたり込む私を脇に抱えては、ずかずかと受け付け嬢達が集まる一角に突っ込む。
「ギ、ギルド長……」
獣耳受け付け嬢が恐る恐る水晶を差し出す。
「ん、なんだこれは。食べられるのか?」
「食べちゃ駄目ですよ、ギルド長!?」
「そうか」
「あの、私も食べちゃ駄目ですからね?」
「……そうか」
「なんでそこで私を見るのですか?」
「じゅるり」
水晶を見て、獣耳を見て、何故に最後に私を見てヨダレを垂らす。
「で、これがなんだ」
「ギルド長、ちゃんと見てください。この娘のステータスを」
差し出す水晶を見て興味がないとするギルド長に、獣耳の受け付け嬢が呆れ気味に口にする。
ステータス?
もしかしてそこに私の情報が写し出されているのだろうか。
ギルド長の脇に抱えられた私も覗いて見る。
名前:リッカ・エンマ
年齢:16
種族:リッチィ
レベル:1
スキル:なし
固有スキル:チラシ
加護:▲◆◇★
テンプレ的な表示だ。
名前が『ユキ・ヒロユキ』から『リッカ・エンマ』に変わってるのは謎だが、恐らく『エンマ』の部分は閻魔大王の頭文字から取ったのだろう。『リッカ』の部分は……絶対に『六花』を『りっか』と間違えたんだな。『六花』と書いて『ユキ』と読むんだけど、前の世界では呼ばれた事はない。アダ名もずっとリッカって呼ばれてたからね。
「お前、レベルが1って弱くないか?」
「はい、自分でもそう思います。テンプレならここは皆が驚くような真実が発覚するところなのですが……」
「テンプレ? なんだ、それは旨いのか?」
「テンプラなら美味しいですよ」
「ギルド長、見るところが違います。リッカさんもギルド長の話に乗らないで下さいね?」
少し怒り気味に口にする獣耳受け付け嬢……確か、ミラさんって呼ばれてたっけ?
「あ、ギルド長、ほら見てください、私の種族ちゃんとリッチって……リッチィ?」
なんか微妙に違う。
閻魔大王、また語尾を伸ばしましたね。
「ふーん、そうか」
特に興味がないのか、つまらなさそうに呟くギルド長にミラさんが、
「ギルド長? この娘の種族がリッチなのは気にならないのですか?」
「腹へった」
「もう、ギルド長は……ちゃんとリッカさんに聞いて下さい」
本当にもうである。
頬っぺたを膨らませている獣耳のミラさんはおじさんの娘さんなんだろう。
何処か雰囲気が似ている。
「お前、歳は16歳なのか? リッチのくせに」
「そう見たいですね」
「スキルが何もないのは何故だ。リッチのくせに」
「私も知りませんでした。魔法くらい使えると思ってたのですが……」
「固有スキルがチラシってなんだ。食えるのか?」
「美味しくはないと思いますよー」
「そうか」
「はい」
そこで質問は終わった。
「もう、二人とも真面目にやってください!」
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