5 リッチィさん、まさかの魔族領
前回の事で一つ大事な事が判明した。
どうやらここは人間の住む領域から遠く離れた魔族の領域、魔族領であるらしい。
「ほれ、あのムダに高い天空に浮かぶ城が魔王の住む城、魔王城じゃ」
「ヘェー、スゴイナー」
その事実を教えてくれた幼女が今、私に魔王の住む城を教えてくれた。
何してくれとんのですか閻魔大王様。確かに、王侯貴族から遠く離れた場所に召喚をお願いはしたけれど、まさか魔族の領域まで飛ばすとは思いもしませんでしたよ! しかも目の前には私が召喚される原因となった討伐対象、魔王が住む城が目と鼻の先だ。
「どうしたのじゃ? 先程からやけに元気がないが……疲れたのかや? 少し休憩でもするかや?」
「いえ、大丈夫です。少し考え事をしていただけなので……」
少し心配そうに此方を覗き込む幼女が、私の手を引いて聞いてくる。
「ふむ、まぁ心配するでない。いくらお主がどんなモノを知らぬ田舎者じゃとしても、なにかあればワシが力になってやるのじゃ」
なにこの幼女。
幼いながらに凄い頼もしい。
門番のおじさんと言い、この幼女と言い、魔族って実は凄い良い人達の集まりなのか。先程のいいじゃん男は除いて。
「同じ魔族ならばあたりまえじゃろうが」
「お、同じ魔族なら、ね……」
「ん、どうかしたのかや?」
「ナ、ナンデモナイヨ?」
同じ魔族ならば人間の私はどうしたら……あ、そう言えば私はもうリッチだった。しかも今は女の子。ヤダー、解決。アンデッド。
「閻魔大王様もだからここに送ってくれたのか……」
考えて見ればリッチが人間に混じって生活するのも変な話だ。
魔族の人達の姿形には少し違和感は感じるも、考えようによってはここの人達の方がとても良い人達なのかも知れない。首輪を持って待ち構える人達に比べれば。
「どうかしたのかや?」
「なんでもないです」
安心しましたと呟いて幼女の頭を撫でる。
恥ずかしいのか、幼女は顔を背けて照れていた。
「それにしても……」
先程から手を繋いで冒険者ギルドまで案内して貰っているのだが……どうも周りからの視線が気になる。
小声ではあるのだが、周囲の人達からはヒソヒソと『おい、見ろよ、あれ』『おいおい、マジかよ』『どうしてあの方がここに……』『お姿を拝見するのは何時ぶりなのか……』
「もしかして、お嬢ちゃんて意外と有名人?」
「それを今ワシにたずねるお主は、本当にとんでもない田舎者じゃな」
呆れたとした顔で私を見詰める幼女。
そして時折こんな声も『誰だ? あの一緒にいる黒髪の可愛い娘は』『やっべ、あんな娘この辺で見たことないわ』『美しい……』
「よく見れば、お嬢ちゃん。とんでもない美少女だった」
幼女をよく見る。
私と同じ黒目黒髪の長い髪。顔はかなり整っていてまるでお人形のよう。薄い唇はピンク色でプリっとしている。
これならば周りの視線を集めるのも無理はない。
「他人事のようにいうが、お主も人のことは言えんと思うのじゃが……」
ジト目で此方を見る幼女。
ナンノコトダカ。
更によく見ればこの子。
口の片方の端から牙がはみ出ているじゃないか!
「えいっ」
「急になにをするのじゃ!?」
とりあえず押してみた。
押して戻らない事からして、本物のようだ。
「出っ歯、ただの八重歯かと思って……」
「これはワシの牙じゃ!」
割りと本気で怒った幼女に『ごめん、ごめん』と謝りながらも、お互い会話を弾ませながら先を進む。
暫く周囲の人達の目を引きつけながら歩いていると、黒く塗装された大きい建物の前に到着した。
「ここが冒険者ギルドじゃ」
「この建物が冒険者ギルド……」
何というか、禍々しい建物だ。黒い塗装の上に更にドス黒い色が飛び散ってるのは芸術ですよね? 決して血しぶきなんかじゃないですよね?
「なんじゃ、入らんのかや?」
「いえ、入りはするんですけど……」
なんだか足がすくむ。
「本来ならばワシも一緒については行きたい所なのじゃが……」
「え? ついてきてくれないの?」
「そうしたいのは山々なのじゃが……」
そう言う幼女は遠く離れた後方へと視線を向けていた。
「ちと、目立ち過ぎたようじゃな」
遠く視線の向こうからは、何やら上物の服を着た人達が迫って来ていた。
「どうやらワシはここまでみたいなのじゃ。すまんが……」
「いえ、ここまで案内してくれただけでも十分助かりました。後は私一人でも大丈夫です」
「そうか。じゃあワシはこれで――」
「あ、ちょっと待って下さい!」
「ん、なんじゃ?」
急ぎ去ろうとする幼女を引き留め、低い幼女の視線に合わせるように屈み込み、
「先程は危ない所を助けてくれてありがとうございました。本当に助かりました」
今できる精一杯の感謝の言葉を込め、笑顔で頭を優しく撫であげる。
「う、うむ。そうか。な、なに、なにか困ったことがあればいつでもワシの元、ま――」
『――見つけましたぞぉおおお!!』
「うぐっ、しつこいやつらじゃ……すまんがまたなのじゃ!」
最後に幼女が何を言いかけようとしたのかは分からない。
幼女が走り去った後に何やら書類の束を抱えた人達が『執務がまだ残っておりますぞ!』と叫びながら通り過ぎていったが、はたしてあの幼女は何者なのだろうか。
「そう言えば、あの子の名前を聞くのを忘れてました」
見た目私と同じ人間にしか見えなかったが、どんな魔族だったのだろうか。
気にはなるのだが、今はとりあえずと冒険者ギルドの扉を開けることにした。
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