4 リッチィさん、幼女に助けられる
親切な獣耳なおじさんから紹介の手紙を頂き、墓地を出て路地を真っ直ぐに進む。
「いやぁ、助かった。ローブだけじゃなくお金も少し貸してくれるなんて」
なんて好い人何だろうか。
低くて太い渋い声だけでも好感が持てるのに、性格までもいいなんて――思わず抱き付いた私は悪くない。
悶える獣耳のおじさんにお礼を言った私は、手紙に書かれた場所へと向かっていた。
薄暗い霧の立ち込める墓地を抜け、少し狭い路地を歩いていると一人の男性を発見。
「あの、すみません」
「ん、どうし……た……」
「ここに書いてある場所に行きたいのですが、どうやって進んだらいいでしょうか」
おじさんから頂いた紹介の手紙には、目的地までの道程も書かれているようなのだが……如何せん、異世界に来たばかりの私が異世界の文字を読める訳がないのだ。言葉が通じるなら読み書きも出来ると勘違いしていただけに、これには参った。
途中、おじさんの元に戻って道を聞き直そうとも思ったが、何となくこれ以上迷惑をかけるのは色々な意味で可哀想だと思って止めた。
なので、通りすがる人に道を尋ねているのだが……
「あのぅ……」
「…………」
一体何故なのだろうか。目の前には此方を黙視して固まる男性がいた。
「大丈夫ですか?」
「……え? あ、うん。大丈夫大丈夫、ちょっと驚いて……」
ローブ姿の私を足先から頭の先まで見直す男性。
「ここまで行きたいのですが、道程を教えてくれませんか」
「あ、ああ、知ってる知ってる。ここね、ここ。いいよ、俺が案内してあげる」
「い、いえ、道程だけでいいので……」
「なになに、遠慮してるの? いいよ、いいよ、遠慮しなくても。あ、そうだ、途中で一緒にお茶でもしない?」
そういう展開かと肩を落とす。道程を聞きたいだけなのに何故ここまで脱線するのだろうか。
まぁ、私も元は男なので分かりはするが、ここまであからさまなのはどうなのか。
ため息を吐きそうになる私は、男に断りを入れて別の人へと道程を聞き直そうとするが、
「いいじゃん、いいじゃん。ちょっとだけ、ちょっとだけだから……ね」
そう言って私の腰に手を廻そうとする男性。
なにがちょっとだけなのだろうか、男に触られても寒気しかしない。
「あ、いえ、他を当たりますので……」
「いいじゃん、いいじゃん、ほら行こうよ」
これはヤバい、道を尋ねる相手を間違えた。
明らかに私の手を掴み暗がりの路地へと連れ込もうと進んでいる。
無理矢理に男の手を振りほどこうにもビクともしない私の細腕。
あれ? これ明らかに腕力弱くないですか?
女の子だからとかってレベルの弱さじゃないんですけど。
「あー、ちょっと放してくれませんか?」
「いいじゃん、いいじゃん」
よくねぇじゃん!
折角閻魔大王から助けて貰ったのに早速貞操のピンチだ。
いいじゃん、いいじゃんと連呼する男に、いよいよ暗がりへと連れ込まれようとしたその時、
「なにをしているのじゃ!」
背後から助けの声が聞こえた。
「す、すみません。ちょっとこの人が無理……矢理……」
助かったと振り返るとそこには、
「貴様、そこの娘をどこにつれて行くきじゃ!」
「えぇぇ……」
幼女が佇んでいた。
「安心するのじゃ、ワシが来たからにはもう大丈夫じゃからな!」
「お嬢ちゃん、ここは危ないから近付いちゃ駄目だよ。後、出来れば悪いんだけど大人の人を呼んできてくれないかな?」
「まかせるのじゃ……ってなんでじゃ!?」
私と同じ黒髪をした幼女は、少し走りそうになった所で此方につっこみを入れてきた。
「……って、あれ?」
ふと突然、腕が自由になる。
振り返ってみれば既に男は走り去っており、暗い路地を駆け抜けていた。
「馬鹿者が、ワシから逃げられると思うとるのかや?」
そう言って幼女は側に落ちていた小石を拾い―――ぶん投げた!
スコーンと良い響く音と共に男が倒れ、幼女は満足そうに頷く。
「最近はああいうやからが減ってきたとは思うとったのじゃが……お主、怪我はないかや」
「あ、はい、大丈夫です」
此方を心配するように見上げる幼女に、怪我はないと手を上げてアピールする。
にしてもこの幼女、よくあれだけ離れた男に石を命中させたものだ。ここから軽く五十メートルは距離があった筈なのに……て言うか、あの男はどうして急に逃げ出したのか。
「ふむ、それにしてもお主のような娘がこんなところを一人でうろつくのは少し不用心じゃな。なにか探しものでもしておったのかや?」
「探し物と言うよりは道を尋ねていたんだけど……お嬢ちゃん、ここ知らないかな」
幼女の目線に合わせるよう屈みこみ、おじさんから頂いた手紙を拡げて見せる。
「……お嬢ちゃんとは、もしやワシのことを言うとるのかのぅ」
「そうだけど……?」
「お主、ここらで見ない顔じゃと思うとったが、他所からの者じゃったのか」
「………?」
屈んだ私の目をジッと見詰める幼女は『まぁ、いいのじゃ』と、少しため息を吐いて手紙に視線を向けた。
「なんじゃ、お主は冒険者ギルドにようがあるのかや」
「冒険者ギルド?」
「うむ、手紙には冒険者ギルドまでのみちのりと、そこの紹介状が書かれておるぞ」
「そうなの?」
幼女の持つ手紙を覗き込んみるが……やはり読めない。
それにしても冒険者ギルドへの紹介って、どうして?
「あとはそこの受付嬢への伝言と、仕事の斡旋、宿の世話をしてくれとあるのじゃが……」
おじさん、ありがとう!
金なし、宿無し、職なしで困っていた私にここまでしてくれるなんて!
思わず感涙しそうな私に幼女が声を掛けてくる。
「なんかわけありそうじゃな……まぁ、いいじゃろう。して、よければワシが案内してやるが、どうするかや?」
「是非、お願いします」
◇◇◇
幼女に連れられて歩く事、暫くして……
「いや、まさか、そんな筈は……」
墓地から続く狭い路地を抜けた私は、一般的に人通りが多い街路に出ていた。
「どうしたのじゃ? やけにキョロキョロして落ちつかんのぅ」
「え、あ、うん。何でも、ないんだけど……」
綺麗に補整された石畳の上を走る馬車。街路の周りに並ぶ様々な種類の賑わう露店。石造りの長方形な白い大きな住居の建物。
「そう言えば、お主は初めてここに来るのじゃったな。この都市は国の中心地じゃからな。他の町とはいろいろと違い、気になるものもあるじゃろう」
少し得意気に話す幼女だが、私が何よりも気になるのはここの住人。
「……鳥人間?」
「なんじゃ、お主、バードマンを見たことがないのかや?」
深い碧の羽を纏い、顔は人なのに手足は鋭い爪がついた四本の指。その側には、
「……骸骨?」
「まさか、スケルトンも見たことがないのかや?」
人通りをカチャカチャと堂々と歩く骸骨。
「どうなってるの?」
おじさんの獣耳にも驚いたが、この目の前の光景には比べものにならない。
もしかしてここはと嫌な予感が頭を過る。
そんな不安になる私を見てか、幼女が気をつかうように『あれは流石にお主も知っておるじゃろう』と、露店を開いている一人を指差した。
「……髭のおじさん」
「なんでそうなるのじゃ!? あれはドワーフにしか見えんじゃろうが!」
「ドワーフ?」
「あのイカつい顔とひげ、短い手足に腕の筋肉。おまけに金槌をもっておれば誰でも知っておるはずなのじゃが……」
一体何処の田舎からやって来たのかと頭を捻る幼女。
それにしてもドワーフか。
言われてみればそうかもしれない。
『ガハハハハハ』と笑いながら露店で金槌を持つ姿は正にドワーフだ。
暫く見ていると、角が生えた女性がお鍋を持ち込んでいる。どうやらお鍋が凹んだらしく、ドワーフの人が受け取りそれを金槌で直している。
「凄い、あっという間に直ってる」
「ドワーフならあれくらい朝飯前じゃろうな」
「そうなの?」
「あれでも元は誇り高い鉄の精霊と呼ばれておった者達じゃ。あやつらならば鍋の凹みなど屁にもならんじゃろう」
綺麗にならされたお鍋を受け取った角の女性はお金を払い去っていく。
そう言えば今思い出したのだが、先程私をナンパして来た男の頭にも小さな角のようなものが生えてたような。
「それにしてもお主は、どこの田舎からやって来たのじゃ。モノを知らんにもほどがあるぞ? こんなの遠く離れた地に住む人間種でも知っておる常識じゃろうに……」
「……え?」
今とても無視できない言葉が聞こえた気がする。
「遠く離れた地に住む人間種?」
「うむ」
「ここに人間は誰もいないの?」
「なにを言うとるのじゃ、人間がここにおるわけがなかろうに。ここは魔王が統べる城下にして、魔族だけが住まう都市の魔族領じゃぞ?」
……はい?
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