3 リッチィさん、異世界に。
もがく、もがく。
必死に手足を動かしてもがく。
ここは何処だろうか。
辺りは真っ黒な闇に包まれ、体が自由に動かない。
もがく、もがく。
私は必死にバタつきながらもがく。
つい先程、閻魔大王に携帯を修理に出した方がいいとアドバイスしていた途中で空間が壊れた。
もがく、もがく。
私は身体を捻ろうともがく。
閻魔大王は何処か遠くの場所に召喚させると約束してくれはしたが、ここは一体何処なのだろうか。
もがく、もがく。
全く体が思うように動かない。
あれから暫く経つのだが、まるで全身を拘束されたかのように体が動かない。
閻魔大王の話では、召喚の直後は一時的に硬直するとは言ってはいたが、もうあれから五分以上は経過している。
もがく、もがく。
なにやら少しずつだが進んでいる。
くんくん、何やら土臭い匂いがする。もしやもしや……
もがく、もがく。
少しずつではあるが、光が見えてきた。
もがく、もがく。
手足が徐々に軽くなっていく。
もがく、もがく。
光に向かって手を伸ばすと何かを突き抜いた。
◇◇◇
「こんなの死んでまうわ……」
思わず関西弁が出てしまう。
「もう死んでますけどね」
地面から突き抜けた両手を軸に体を引っ張り出す。
ズッポリと地面から頭、胸、腰、太股、足先と抜け出す。
辺りを見渡せば一面墓石だらけ。
体に着いた土を払い落としながら目の前の穴を見る。
「なんて所に召喚してるんですか、もう……」
先程まで自分が埋まっていたであろう場所。それはお墓の土の中。
「リッチじゃなかったら息が出来ずに死んでましたよ」
自分を呼び出そうとしてた王様貴族の場に比べればマシかもしれないが、これはこれで酷い。
そこでふと自分が出てきた穴の前にある墓石に目がつく。
『リッチを願うリッチィここに眠る』
「うっさいわ!」
不愉快な墓石を蹴りあげ、その辺に適当に転がす。
「さて、これからどうしましょうか」
改めて周りを見てみれば一面墓石が広がっている。
どう見ても共同墓地が何かですね。
「墓地があるって事は、近くに人の住んでる所があるんだろうけど……」
長い黒髪に付着した土を払う為に頭を振る。
「とりあえず、歩こう」
暫く、薄暗い霧がたちこめる墓地を歩いていると、遠くに門のような物が見えてきた。
「おお、なんか凄い。昔の要塞みたいです」
近くまで来て見るとよく分かる。
高さ四メートルは有ろうかという堅牢な壁と、所々に小さな覗き窓と大砲が備え付けられているのが見える。
門は固く閉ざされてはいないが、その間に鉄の牢獄のような檻が挟まって行く手を拒んでいる。この檻のような物ってなんて言うだっけ?
「おい、お前、こんな所で何をしている」
ペタペタと檻を触っていると向こう側から声が聞こえてきた。
「あ、すみません。ちょっと珍しかったので触っちゃいました。いけなかったでしょうか……?」
手に武器を持ち、頭部を守る為のヘルムを被った人物に頭を下げる。この場所の門番なんだろうか。
「いや、別に触るのは構わんが……ってお前!? 何で裸なんだよ!!」
「……あ」
これはウッカリしてた。
墓の中から這い出た際に気付いてはいたのだが、周囲に墓石しかなくて着るものがなく、どうしたらと困りながら歩いていたんだった。
「あ、じゃねぇよ! 早く服を着ろ、服を!!」
「あのぅ、私、実は服を持ってなくて……」
「持ってないって、お前ここまで裸で来たのかよ!?」
「本当にすみません。よければボロでもいいので何か貸して貰えないでしょうか」
「くそっ、ちょっと待ってろ!」
そう言って門番の人は何処かに走り去り、直ぐにローブのような布を持って帰り此方に渡してきた。
「ほら、早くこれを着ろ!」
「あ、ありがとうございます。実は先程から寒くて寒くて……」
「なら何で裸でうろついてんだよ……ったく」
頭部を守るヘルムで顔が見えないが、声からしておじさんだろうか。中々に渋い声が羨ましい。
「温かい……」
自分の口からは透き通る声が聞こえてくる。泣きたい。
「で、お前さんどうしてこんな所にいるんだ」
不審そうな顔で此方を睨む門番さん。
さて、これはどう説明したらよいのか。
やはり定番でいくしかないか。
「実は追い剥ぎにあいまして……」
「追い剥ぎって……お前絶対に嘘をついてるだろ。何処のどいつが墓地で追い剥ぎなんかするような馬鹿な真似をするんだよ。ていうか、この墓地はここんところ誰も訪れた記録はないんだが……お前一体何処から入った」
「…………」
どうやらこの墓地は訪れた人の履歴を記録しているようだ。てか何でバレた。なんというか、全くの予想外だ。
「……寒い」
リッチーな体の筈なのに何故寒さを体感できるのだろうか。微妙にローブからはみ出る足の部分がとても冷たい。
「ったく、中に入りな。このままだと風邪を引いちまうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ブルブルと震えていると、檻のような扉を上にスライドさせて中に入れてくれた。
やだ、優しい。
門番のおじさんに案内されると、そこは小さな休憩所のような場所であった。
中央には四人は着席出来そうなテーブルと、奥には仮眠の為のベットが備え付けられている。
「あれ、もしかして私、結構ピンチ?」
「急に変なことを言うんじゃねぇよ。俺は妻子持ちだっての……全く」
苦笑いを隠せないおじさんは何処からか、温かい湯気の立つ飲み物を目の前に置いてくれた。
「ほら、飲め。少しは体が温まるぞ」
何処か懐かしい香りのする匂い。一口飲んでみれば生姜に似た味が口に広がり、思わず頬が緩む。
「はぁ、温まる」
「……うぐっ」
何故だろうか、急に目の前にいたおじさんが悶えている。
「お前、本当に無防備だぞ。今日ここにいたのが俺で良かったな。他の奴等だったらどうなってたか知らんぞ」
「………?」
元アラサーのおじさんとしては普通に生姜湯を飲んでいただけなのですが……。
「分からんてか。お前、裸の美少女がこんな所でそんな格好をしながら、目の前で微笑みを浮かべて茶を無防備で啜っていたら誰でも少しはグラつくぞ」
「……納得」
確かに、言葉にして言われてみれば理解した。
次からは気を付けよう。
「温かい飲み物と洋服をありがとうございます。出来ればお礼をしたいところなのですが、何分今はこの身しか持ち合わせはなくて……」
「だから自然に人を惑わすように誘うのは止せって言ってるだろうが!」
「………?」
「お、お前、素でやっているのかよ……」
急にテーブルに頭を突っ伏し、またまた悶えだすおじさん。
少し前の事をおじさんと自分を入れ替えてシミュレートしてみる。
「……納得」
危うく貞操の危機だった。
少し恐ろしくなり自分の体を自分で抱き締めてしまう。
それと同時におじさんがテーブルに頭を打ち出した。
「俺には妻と子が、今年成人した娘が……!!」
自分でシミュレート。
納得。ごめんない。
「あの、私そろそろ……」
これ以上はお互いに危険な気がするので、お暇させて貰おうと席を立つ事にする。
それにしても恐ろしい。
チラッとしか地獄で自分の顔を見たことしかないが、一体全体像はどんな風に作り替えられているのか。
リッチ化の影響もあり、最初見たときよりも肌が白くなっている気がする。
流石は閻魔大王渾身の自信作ボディ。
「ちょっ、ちょっと待て、お前さんその格好で外に出るきか?」
「はい、これしかありませんから」
なにしろ埋葬されてましたから。
「近くに家はあるのか?」
「ありませんけど……」
「近くに知り合いは?」
「いえ、いません」
「金は、宿はあるのか?」
「お金はありませんし、職もありません。最悪は何処かで野宿でも……どうかしましたか?」
またまた頭を抱えだすおじさん。
うん、言いたい事は分かるけど、何分この身一つで召喚されたのだから仕方ないと思うし、呼び出そうとしていた王様貴族の所に行けと言われるよりはよっぽどマシだ。
「これを持ってここに訪ねてみろ」
暫く頭を抱えていたおじさんは、手紙を書くから少し待てと急いで紙に文字を走らせ、頭のヘルムを脱いでから此方に手紙を渡して来た。
「今の時間帯なら俺の娘が勤めている筈だから力になってくれるだろう」
「お、おじさん……」
「よ、よせ、礼なんか言われる事は……」
気恥ずかしそうに頭を掻くおじさんに思わず感涙してしまう。
まさかまさか、こんな所で会えるとは……!
「おじさん、まさかの獣耳だったのですか!?」
「……なんの話だよ」
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