2 リッチィさん、リッチィになる
「お願いします、日本に帰らせて下さい!」
誠心誠意を込めて土下座する俺。
それを見て困ったように此方を見詰める閻魔大王。
「すまんが、わぁれにはどうする事も出来ないのだぁ」
酷い、こんなテンプレあんまりだ!
「だぁがしかし、わぁれはそれを不憫だと感じお前にチィートとなるモノを授ける為にここへ招いたのだぁ」
「あなたは神様ですか?」
やっぱりこの人、凄く好い人だ。
「わぁれがかぁみだとぉ? よかろうぉ、教えてやろうぅ! わぁれこそは、影なる地獄ぅの支配者ぁ! 閻魔大王なるぞぉ!!」
はい、ありがとうございます。
てか神様は一体何をしているのだろうか。助けて下さいよ。
「でぇは、チィートなる願いを言うがいいぃ。何でも一つ………帰りたいと言う願い以外ならば叶えてやろうぞぅ」
何でも一つではなくなった。
少し考えてチートなるものを色々模索したが、相手が首輪を持って待ち構えているのならば意味がない。
閻魔大王が言うには、王様貴族は多くの兵士に武器を持たせ待ち構えており、持っている首輪には隷属の魔法が掛かってどんな事があろうと逆らえない仕様になっているそうだ。
尚且つ、召喚された直後は一時無防備になるらしく、肉体や特殊能力をいくら附与したり強化したとしても、首輪を嵌められたならば抵抗は出来ない。
「あの、それなら召喚される場所を変更することは出来ますか?」
「変更だとぉ?」
「はい、召喚の直後に無防備になって隷属されるくらいなら何処か遠くで召喚されたいです………無理でしょうか?」
無理ならば詰んでしまう。
何が嬉しくて女になって童貞を捨てなければならないのか。
「いや、無理と言う事はなぁいが………しかし、せっかくの願いがそんな事で良いのかぁ」
「はい」
て言うかそれしか方法がないと思うんですが。
「ふぅむ。しかし、やはりそれだけでは少ぉし不憫だなぁ」
「あの、こんな事を言うのは我が儘な事だとは思うのですが……」
「なぁんだぁ、言うてみるがよい」
言うだけ無駄かもしれないが、言うだけならタダだ。
「急に異世界って言われても、俺には異世界でどう生きていけばいいのか分かりません。働かなければお金もありませんし、食べ物だって買えないので直ぐに飢え死にしたりすると思うんです」
閻魔大王は確かにと頷く。
「だから、少しだけでも、ちょっとだけでもリッチな生活を送れるようにすることは出来ますか?」
最低でも異世界のお金は多少欲しい所だ。無一文で知らない土地で生活をしていくとかハードルが高すぎる。
「よかろぉ! その願いを叶えてやろうぞぉ!!」
そんな俺の願いを聞いて閻魔大王は感涙したとばかりに声を上げた。………感涙?
「あの、いいのですか? 願いが重複する形になるのですが……」
「構わん、元々はわぁれが一つと決めただけだからなぁ」
そうだった。
この人は閻魔大王だった。
「わぁれが誰だとぉ? よかろうぉ、教えてやろうぅ! わぁれこそは、影なる地獄ぅの支配者ぁ! 閻魔大王なるぞぉ!!」
はい、ありがとうございます。
「そぉれにぃ、二つ目の願いならばわぁれの得意分野、管轄範囲内だぁ」
「そうなんですか?」
リッチな暮らしをすることが地獄の閻魔大王と何か関係があるのだろうか。いや、地獄の沙汰も金次第と言われているし、そうなんだろう。
「でぇは、時間もあまりないし手短に行うとするかぁ」
そう言って閻魔大王は手のひらから炎を浮かべる。
炎はこの真っ暗闇の空間よりも更に黒く禍々しく、閻魔大王は暗黒の炎をくるっと丸めては振りかぶり、此方にぶつけてきた。……もう少し優しくは出来なかったのだろうか。
「終わったぞぉ」
「え、これでもう終わったんですか?」
「わぁれの得意分野だからなぁ」
俺にぶつかり体内に消えいった暗黒の炎。体か魂に吸収されたのだろうか。
「………?」
「どぉしたぁ」
「いえ、何処かにお金でも入ってるのかと……」
リッチになったのなら、何処かにお金が装備してあると思ってたのだが……?
「もしかして幸運値が上がったのですか?」
「なぁにを言ってるのだお前はぁ」
あれ? 違っただろうか。
装備品がないならスターテスに関係あると思ったのだが。
「得に変化が感じられないのですが、俺はこれでリッチに暮らせるのでしょうか?」
「わぁれの加護を与えたのだぁ。間違いなくリッチィで暮らせるだろう」
「そうですか………って、おい、今なんて言いましたか?」
微妙なニュアンスな言葉が聞こえて来た気がするのだが。
「わぁれの加護を与えたのだぁ」
「そっちではなく………いえ、勿論そっちも言いたい事はあるのですが……」
閻魔大王の加護とは何だろうか。地獄の加護何だろうか。
「俺はこれでリッチに暮らせるのですよね?」
「そぉだぁ。お前はリッチィで暮らせるのだ」
やっぱり何か違う。
「リッチですよね?」
「リッチィだぁ」
「……え?」
「……ん?」
まさかまさか。
「リッチとは大金持ち、又は成功者の事を表しますよね?」
「リッチィとは不死の王、絶対者の事を表すのだぁ」
意味が違う!?
てかなんで語尾を伸ばしてんですか!?
「戻して下さい」
「それは無理だぁ」
「なんでですか!?」
「すでにわぁれの加護と共に肉体に定着しているのだぁ。死を迎えるまぁでは無理だぁ」
「そんなぁ……」
「まぁ、不死の王に死が訪れることがあるのかは疑問だがなぁ」
神様助けてーー!!
「何で俺がこんな目に――」
「私だぁ」
「え?」
「俺ではなぁく、私と言わんかぁ」
「……え?」
「お前はもう男ではなぁい、従って今度からはぁ、俺ではなぁく、私と言うがいいぃ」
「…………」
凄くどうでもいい。
だが納得はいかない。
そんな事を思って惚ける俺………私に、閻魔大王は鏡を持って目の前に掲げる。
「…………」
目の前に写しだされる自分。
歳は、16くらいだろうか。
日本人特有の黒い目。髪は黒の漆を思い出させるように黒く、闇そのものを現しているようだ。顔立ちは大和撫子と言う言葉が思い浮かぶ程に整っており、目端は少し吊り上がりながらも何処か優しく見える。そしてそのスレンダーな身体付きは、大和撫子な見た目と相まって見事に調和していると言える。
「わぁれの、自信作だぁ」
お前が造ったんかい!
て言うかこんな美少女で召喚されてたら確実に王様貴族の玩具にされてたと思うくらいに美少女だ。
そんな時、この真っ暗闇の空間に歪みが生じた。
「うぅむ。名残惜しいが時間切れのようだぁ」
「え? ちょっと待って!!」
「心配するなぁ。ちゃあんと召喚先は考えておくぅ」
「そうじゃないです! 俺の………私のリッチな暮らしはどうなるのですか!?」
「……これをやろぉ」
「……なんですか、これ」
真っ赤なスーツに似合う真っ赤なバックから取り出した一枚の紙。
「特売スゥーパァーのチラシィだぁ」
「あの、無理に語尾を伸ばすの止めてもらえませんか………てかこれの何処がリッチなんですか!?」
抗議もむなしく、閻魔大王は私の手にチラシを握らせ。
「所でぇ、確かお前は携帯を扱う仕事をしていたのだったなぁ」
なにやら真っ赤なバックからガサゴソと漁りだす。
取り出したのは今まさに新発売、売り出し中の。
「この携帯の電源が作動しなくなったのだがぁ………あと希に電波が入らないときもぉ」
「お前も買ったんかい!!」
そうして私は異世界に旅立ったのである。
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