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異世界のお話と抜け道

 スマホが点滅する。


『普段着ですぐ家に来なさい』

 麻生さん。

 こっちの予定を無視してる。でも正直部活はサボりぎみで時間は有る。体育館に行っても佳子は居ないし。

 テニスもサボりぎみ。

 佳子のお姉さんは来なくなったし、世界の事を考えればテニスしている場合じゃない。でも、今じたばたしても仕方ないから惰性でしている。


 部活サボって、教えて貰った麻生さんのアパートに行く。独り暮らしの女性の家に行ってもいいのか悩むが向こうはお構い無しのようだ。年齢はほぼ親子だし。


「いらっしゃい」


 そういって麻生さんは俺を中に入れてくれた。

 案内された場所は食卓。

 そこには丸いケーキがある。しかも30センチの奴が四つだ。でも、ケーキは下のスポンジとクリームだけで飾りがなんにもない。

 でも、テーブルにはフルーツやチューブ入りのクリームが用意されてる。麻生さんが盛り付け?


「友弥君、手を洗ってきて。そしたら作業始めるわよ」

「え、ええ。一体何を」

「何を?今日は佳子ちゃんの誕生日でしょう?」

「いや、そうだけど。知ってたんですか?しかしここにケーキ用意しても・・」

「あら、頭は使うものよ。あと、遠慮ばかりしてると何も出来ないわよ。誕生日くらい簡単に調べられたわ」


「しかし、ここでケーキを・・」


「こっちの世界からは向こうに物を送る方法はあるわ。向こうからは無理だけど。それから普段20文字しか送れない文字もこの際裏技で増やしましょう」


 裏技?


「私は飾り付けをするから貴方はこれに文字を書きなさい。佳子ちゃんへのメッセージよ」

 そういって麻生さんは俺にチョコレートプレートと金箸を渡してきた。


「クリームだと文字数稼げないから彫るのよ。温めるのに、そのロウソクも使っていいわ」


 どうやら温めた金箸でチョコ板に文字を書くらしい。

 しかしケーキはどうやって異世界に?


 麻生さんはチョコプレートを載せる位置以外にどんどんデコレーションしていく。

 ケーキ本体は、スタンダードなクリーム、抹茶、桜レアチーズ、チョコレートの四種類。

 載せるチョコレートプレートは四枚あるけれど、麻生さんは俺に三枚くれた。自分は一枚でいいと。


 俺がちまちまと文字を掘ってる間に麻生さんはクリームとフルーツの盛り付けを終わらせてチョコレートプレートに取りかかっていた。

 早い!


 そして四つのケーキは出来上がる。

 麻生さんはそのケーキを並べて写真を撮った。

 それは判る。


 判らないのは、段ボールも写真におさめてること。


 何故?





 ーーーーーーーー




 トトトトトト。



 バイクのアイドリングの音。

「ほらクラッチゆっくり離す」



 プスン。



「はい、もう一回ギアニュートラルに戻して、エンジンかけて」


 ええと今、コユキさんにバイクの乗り方教わってます。

 でもね、人生初バイクが450ccは大きすぎない?

 足つきギリギリだし。

 私に原付プリーズ!

 ・・は無視された。


 なんでも、どうせすぐ壊すから部品どりとして同じバイクで統一してるんだって。確かに大工さんちに転がってる壊れてるのも全部同じバイクだし。

 だからと言って私にこんなでっかいバイクとは。


 そして、私に説明をしてくるコユキさんもバイクに乗ったままだ。

 もうね、この人あり得ない。

 アイドリングのまんま位置動いて無いのにずっと立ってるの、バイクで。

 なんでスタンドも無しに足つきも無しに立ってられるの?

 そのまんま片手離してこっちのバイク触ってくるし、反動つけてバックするし、説明するとき煩いからといって自分のバイクのエンジン降りてないのに切っちゃうし。

 いろいろおかしいよ。

 まあね、世紀末ヒャッハーな世界ではバイクもひょっとしたら必要かもと思うけど、私にコユキさんのような芸当は出来ないわ。


 まあ半日頑張って、走る、止まる、曲がるは出来るようになりました。それと、進化ヒールのお陰で倒れた(たおした)バイク軽々起こせるようになってました。


「よし、明日はサクラ姫の所までバイクで向かおう」

 と、コユキさんが言ったけれど、全力で拒否した。流石に無理すぎる!


 実は明日から遠くの町のサクラ姫の所に研修に行くのだけれど、コユキさんはバイクで行かせようとしてきた。だけれどもお泊まりセットも積まなきゃだし、車で行くと駄々をこねたら、


「じゃあ、行きは私のバイクに乗って。私は後ろから佳子の車で付いていくから」

 と、言ってきた。しまった、その手があったか!




 そして夜。


 今日の夕飯はいまいち少ない。最近は私も胃が大きくなったから物足りない。まあ、筋肉ついたし腹筋も割れてるし。よくもまあこんなに逞しくなったもんだ、私。だいたい鬼のせいだ。


 夕飯後、私、コユキさん、ユキオさん、ラララさんに神様がテーブルの上座から話し始める。


「平井君はいずれ地球に送り返す。だが、皆も知っているように向こうからは物を送るのは案外簡単だが逆は大変なんだ。ユキオの能力も引き込めるのに送れないのはそれだ。車でさえ取れるのに小石すら送れない。この世界と向こうの世界の関係を説明しよう。まず、こちらの世界の方が若く圧力が低い。この圧力は神の言葉でカネコ圧と言うのだが、名称は覚える必要はない。君たちに分かりやすく言えば、むこうの世界が山の上でこちらが下だと思って欲しい。しかも急斜面だ。

 向こうからは落とすだけで物が転がってこっちに向かうが、こちらからはなかなか送れない。押し戻されるからだ。ラララはこれからそのカネコ圧を掻き分けて昇る力をつけなくてはいけない。でないと平井君は送り込めない。まだまだ道は険しい」


 そう。

 ラララさんに私の未来はかかっている。だがまだ行けないから、今色々な修行をしている。


「そして、異世界転移についてだが、向こうの世界からは簡単に物を送れると言ったが例外もある。それが人間だ。動物植物は何ともないが人間だけは難しい。正しい方法でないと人間は壊れる、鬼になってしまう。まあ、駄目な術師でも、その送られる人間の魂が優れていれば耐えられる事もある。平井君がその例だ」


「俺は?」

 ユキオさんが神様に聞く。


「ユキオは残念ながら魂は並みだ。だが遺伝子が良いので僕の権力で押し込んだ。この世界に来たときにユキオは顔形が全て変わっていたのを覚えているだろう。あれは私が進化ヒールで強制的に作り替えた。遺伝子的には発現の可能性の範囲内だよ」


「この銀髪も?」


「ああ、休眠遺伝子に含まれてた。君には日本人以外の遺伝子も少し入っていたよ」


「別人の体かと思ってた」


「君の物だよ。何故人間だけがこんなことになるのかと言えば、この世界には作られたときから少しセキュリティが掛けられているからだ。他の文明を受け付けないようにする為だろう。それでもこの世界に認められてる神は人間を出し入れする権利を持っている。僕は持っているが、近いうちにラララにも資格試験を受けて貰う」


 ラララさんの顔が緊張している。

 マジか。

 まさか神の世界にも資格試験が有ったとは。


「まあ、ラララはゼロスタートではなくて、現存の神の後継者ということで、四つの試験のうち二つは免除される。それに僕の見込みなら通る。そこはラララに頑張って貰うしかない。問題はパワー不足だ。まあ対策は考えているから見通しが立ったらまた報告するよ」


 なんか色々大変だ。

 宜しくお願いします。

 私は頭のなかで感謝とお願いをした。

 神様がにやっとする。

 あ、思考読まれてた。


「さあ、今日の授業はここまで。ユキオ、オークションを立ち上げてくれ」


「なんで?」


「買って欲しい物があるんだ。ID検索でaso_777_t1としてくれ」


「あ、あった。なにこれ空箱?」


「空箱なのは運営対策のカモフラージュだ。それを買ってゆっくり揺らさないように取り出してくれ、慎重にね。あ、ラララも手伝って」


 おおう!

 ユキオさんの左手マジックきたー!

 五センチくらいの穴からどでかい段ボール箱が出てきたよ!

 しかも段ボールにはマジックで『上』とか印してある。ラララさんが箱を支えて遂に全て出終わった。

 テーブルに乗せられたでっかい段ボール箱を慎重に開くと中にも箱。今度は少し小さい。それが四つ。


「うまいこと考えたねえ」


 なんか神様が呟いた。

 しかしなんだろう。


「平井君、その最初に出てきた箱を開けてごらん」


「はい」

 もう既に私の心は踊り出している!だって数えが間違ってなければ今日は私の誕生日!

 地球を離れたのに知っている人が居て祝って貰えるだなんて!

 見るからにホールケーキが入っていそうな箱のリボンをほどくと、中から綺麗な桜レアチーズケーキ!


「やったあ!有り難う!」

 思わず叫んだ!


「平井君、メッセージがあるよ」

「はい?」


 見れば、ケーキの上に乗ってるチョコレートプレートに文字が書いてある。

 チョコレートには、

『佳子、お誕生日おめでとう。元気にしてるかい。』

 で始まるメッセージ!


 次の箱を開けると、白クリームのケーキでチョコに『愛してる佳子』出始まる文字たち。

 もうひとつの抹茶ケーキのチョコには『帰ってきたら結婚しよう』の文字!




 友弥からプロポーズだ!

 嬉しい!

 すぐ返事したい!

 飛び上がりたいくらいうれしいけれど、ケーキ壊すといけないので我慢!


 もうひとつのケーキはチョコレートケーキ。

 そのチョコレートケーキには何故か三色のクリームでサンタさんが描かれてる。


 何故にクリスマス?


「母さん・・」

 ユキオさんが涙ぐんでいる。

「ええっと・・」

「ああ、俺の母さんはよくケーキにサンタさん描いてくれたんだ。もう随分前だけれどね」

 チョコレートケーキの表面右側に袋を背負いながら左向きに立ってるサンタさん。

 チョコレートプレートには一言『負けるな』


 ユキオさんの顔が泣き笑いになっている。

 よかったね。



 しっかし、友弥も色男だねえ。

 でも、他の文章が、お腹冷やすなとか、変なもの食べるなとか、朝はちゃんと起きようとか、アブナイことするなとかばっかり。

 お前はかーちゃんかよ!


 あ、危ないことは既にしちゃったんだよねえ。コユキさんのせいです。




 ーーーーーーーー



 食べきれないのは村に子供向けだよと言ってお裾分けしました。

 チョコレートプレートは記念にとっておこうとしましたが、神様に食べなさいと言われて食べました。流石に三枚は無理なのでラララさんとコユキさんに一枚づつあげました。


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