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三十三年後に向けて。

 地球の生物が滅びる。





「そう、僕が地球を捨てたのも、それを知っていたからだ」


「教えてくれ!」

 ユキオさんが怒鳴る。

 私も知りたい!

 向こうに居る家族は、彼はどうなっちゃうの!


「33年後に太陽がちょっとくしゃみをするんだ。それで終わり。大規模太陽風に曝された地球はあっけなく終わる」


「そんな・・・・」

「太陽風・・・・」

「太陽風って何?」

「平井君は詳しくはユキオに教えて貰うといい。まあ、放射能、電磁波、粒子が全て地球にぶつかると思って欲しい。それは太陽にとって、よくあるくしゃみ。だが地球の生物には致命的な死の津波だ」


「母さん!」

 ユキオさんが叫ぶ!


「ユキオの母親はその前に病気で死ぬよ。あえて言うけれど、彼女はわりと幸せな人生を送る。そして彼女には33年後に何が起こるかを教えてある。そしてユキオに伝言を預かって居る。それは『生きていてくれて嬉しいわ。大好きよユキオ』だよ。そして彼女はユキオを地球から引き剥がしてくれた僕に感謝している。あ、そうそう、地球からの物資獲得能力も33年後に消えるから」


「母さんに会ったの!?」


「ああ、運良く接触出来たよ。偶然にも彼女は取り壊し中の僕の神社を眺めに来たんだ。その時彼女に語りかけたんだ。産廃箱に放り込まれた僕の『御神体』も回収してもらった。今は彼女が大切に持っている。あれが存在する限りこの世界とあの世界を繋ぐ糸は残る。そしてその糸を使えば平井君を送り返すのも不可能じゃない。なんとかなるんじゃないかと思う。だが行ったらもう帰ってはこれない。恐らくは一回するのが精一杯だ」


 私は、葛藤する。

 たった余命33年の地球に戻るか、ここに残るか。

 そしてあるかないか判らない可能性を神様に問う。


「神様、地球を救うことは出来ないの?」

 方法が有って欲しい。


「助かる道は有ったよ。だが人類はその道を自ら手離したんだ。まあ、助かったとしても地球上の全生物の4パーセントだけだったんだけどね」


「その方法って?」

 それが知りたい!

 地球に帰るならその方法が知りたい!

 例え僅かな生存率だとしても希望が残るならその方法に賭けてみたい!


「やはり平井君の魂は優秀だな。鬼化しなかったのも頷ける。平井君、さっき太陽風と言っただろう。ならば答えは導かれる。ユキオはわかるかい?」


「地球に巨大な盾をかける・・・・とか?」


「半分正解。だが人類が30年で作れる盾は薄すぎるし小さい。太陽風には物質を通過するもの、反射して回り込むもの、迂回するものもある。とても全ては避けられない。答えはそもそもある地磁気を消耗させないこと」


「地磁気ってえーっと・・」

「平井さん、地磁気とは地球が一個の巨大な磁石だということだよ。確かスーパーフレアでなくても日常的な太陽風を遮ってるのが地磁気だよな」


「ユキオ、正解。そしてその地磁気を曲げたり覆いかぶしながら無効化しているのが人類が産み出した電気だ。電気は走る度に磁界を作る。地磁気とは無関係な方向の磁界をね」


 天文学に興味がない私でも解ってきた。

 子供雑誌てオーロラの謎とか読んだことがある。地磁気、電磁力を必死に考える。

 そうか、人間の使う電気が乱磁気を大量発生させてるのか!


「平井君。もう解ったようだね。今地球で環境保全の為に化石燃料を抑えて電化を進めているが、全く頓珍漢なことをしているのだよ。本来地球は巨大な繭のような磁界を持っている。それを曲げて隙間を作ったり、成層圏どころか地表で堰き止めたりしている。地球は人類主導で弱体化の道を歩んでる。行く行くは地球は火星と同じになる。火星もかつては地磁気が有った。今は無い。だからかつて有った水も大気も大部分失った」


「火星に水の有った痕跡が見つかったのはそういうことか。なくなってしまったのか」


「ユキオ、その通り。地球で人類が電気を手放せば地磁気は乱れないし、遮られない。地球が保有できる大気も増える。だが、それでも助かる生物は4パーセントだ」


「4パーセント・・・・」

 ユキオさんが項垂れる。

 私も同感だ。

 もし私が地球に戻って脱電気活動を始めても全人類に認めてもらえるとは思えない。


「平井君その通り。今の人類の電化政策はほぼ宗教だ。逆らえば命すら危険に晒される。迫害は君だけではなく家族や友人にも及ぶ。諦めなさい。既に多くの神々は地球を見放した。私もだ。幼稚な神とイキり神が残ってるだけだ。私はこちらの世界に活路を求めた。本来の目的もこちらでやるつもりだ」


「神子の目的って?」

 ユキオさんが神様を神子と呼んだ。あの見た目だと神子と呼んだ方がしっくり来る。


「ああ、君達は僕の本来の目的、そもそも何を護る神なのか言ってなかったね」


「ええっと、五穀豊穣?」

 ユキオさんが自信無さそうに言った。


「ユキオ、八割正解。僕は米の神様だ。米の繁栄と発展を目的にして生きてきた。その為に人類を使った。稲は自分達の仲間を食料として差し出すことで全体として発展した。品種改良する手段も得た。だからついでに人間も護った。人間は米を支配していたと思っているが、実際は米が人類を支配したのだよ。そして僕は目的が近い麦や大豆も仲間にしている。他の大陸では麦主体の神々が多かったね」


「米の神だったのか・・」

「聞いたことがあるわ。人類を使ってるのは麦の方だとか。人間を使って麦は世界中に広まったって」

 それはとある本に書いてあった内容。アノ本では米でなく麦を題材にしてたけれど。


「平井君、あの本を読んだんだね。あれはいい線いってる。神同士でも麦派の方が米派より強かったなあ。そして僕の後継者はラララだ。ラララは夢を叶える為に僕と取引した」


 そこまで空気だったコユキさんが驚いて声をあげる。スプーンにチャーハンを載せたまま。

「まさか!」


「そう。彼女の願いはたったひとつ。愛するトムムの復活だ。トムムの魂の居所をもう突き止めてある。残念ながら記憶は消えているが間違いなくトムムの魂だ。そしてラララはトムムの体の復活の為に日々能力を鍛えている所だ。ラララの執念には感服する。実に強い女性だ」


「トムムって?」


 ユキオさんが静かに語る。

「トムムはラララの死んだ恋人だ。誘拐されたラララを助けようとして死んだ。そして、俺がもたもたしている間に蘇生のチャンスを失った。トムムの死は俺のせいだ」


「ユキオ様。自分を責めないで下さい。あの時は仕方がなかったのでしょう?ユキオ様は良くしてくださいました。私を助け出してくださいました。ここからは私の仕事です。私は諦めていません」


 この人強い。

 見た目は流され易そうなのに、野望を持って歩いている。


 私は?


 この情報を持って地球に戻ったとしても全人類を説得してコントロール出来るとは思えない。流石にそこまで自惚れ者ではない。


「平井君、帰りたいかい?」


「か、帰りたいです。でも・・・・」

 ユキオさんも私を見ている。帰れるのは私一人らしいから、私に何とかして欲しいと思っているのだろうが、どうにもならない。


「平井君はなんとか悲劇を回避出来ないか探っているのだろうが、無理だ。人類は頑固者だ。君の言葉に耳は貸さない。因みに『種の保存』は既に神々が進めているからしなくていいよ。僕も少しした。できれば優秀な平井君にここに残って欲しいが、帰りたいなら仕方ない。残りの時間を噛み締めて生きるのもひとつの道だ。どうする?」



 再びの問い。

 帰りたい。

 でも。



「お願いします。私を地球に、日本に送って下さい」



「協力するよ」

 神様ははっきり言った。

 そしてもうひとつ聞く。


「神様の予言は絶対ですか?」


「いや、多少の誤差はある。流動的なファクターも増えてる。君もそのひとつ」



「平井さん、どうするつもり?」





「サラ・コナーになるのよ」

 ユキオさんだけが驚いた。

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