ガガガの蘇生 リリイ視点
ガガガの体が青い光に包まれてる。
だが、トムムの体は光らない。
こんな光景は見たことがないし聞いたこともない。
見たこと無い光に村人全員驚き恐れているが、ガガガに寄り添って泣いていたガガガの妻が呟いた。
「怪我が動いてる・・」
怪我が動いてる?
妙なことを言う。
私は恐る恐るガガガに近寄る。ガガガが動いてるのだろうか?まだ生きてたのか?
眩しい。
近寄ったところで彼の妻の背中に手をのせ、妻越しにガガガを覗く。
怪我が動いてる!
光のなかで怪我がウゴウゴと動いてる!
気持ち悪い!
虫じゃないし、怪物でもない!怪我自体が動いてる。だがガガガの顔は死人の顔。
なんだ?
不気味な光を見に来た数人は気持ち悪がってまた下がった。
遠巻きに見る村人は、怖いとか、なにが起きてるんだとか、生きてるのか?とか言うが、私もなにがなんだか判らない。
トムムは何もなく死んだまま。
そんなざわつく村人のなかで、ただひとり地面に座って動揺せずにガガガを見つめるユキオ。
彼は何者?
何故この現象に驚かない?
悲しんでるのとは違う表情。喜んでいないのは確かだ。
「ユキオ」
「なんだっ!」
かけた声に、乱暴な返事が帰って来た。これはイラついてる声だ。ラララを失ったせいか。ラララはユキオの物だ。それを奪われたのだ。
「これは・・・・お前は何か知ってるのか?」
「もうすぐ生き返るよ。多分大丈夫」
「ユキオがやってるのか」
「だとしたら?」
まさか!
ユキオは強い。それは分かる。
この辺では見かけない履き物を履いている。見たことの無い剣を持っている。
鬼の頭ごときに貴重な布を巻いていた。
彼は凄い国の人間に違いない。我々とはレベルが違う。
神?
一瞬そう思った。
だが、神ならラララを奪われるなんて失敗をしないのでは?
いや、そもそも私達を簡単に屈服させられるのでは?
「お願いだ、ユキオ。トムムも助けてくれ!」
「すまない。間に合わなかった」
ユキオの声は低くなった。
まさかユキオは知っていたのだろうか?
それとも関係ない?
考えすぎだろうか?
「ラララはどこだ」
「判らない。盗賊から奴隷商に売られるのかも知れない」
ユキオが私を睨む。
私だって知らない。
「女を犯したいならここで犯してる。目の前でやられても私達は止められない。それこそ女と食い物が尽きるまで居座るだろう。だが去った」
「だから何処だ!」
「町か町の近くだ。盗賊の村か町の奴隷商のどちらかだと思う」
「奴隷・・・・」
「たまにあるんだよ。我々は奴等にとっては畑だ。食い物を集め、子を産んで育てる。奴等はそれをたまに奪う。村が干からびない程度に捕る」
「そんなバカな」
その後ユキオは黙った。
まさかこんなことを知らなかった?こんな当たり前のことを。
人は死ぬ。
だが村人が死ぬ原因の一番は『人間』相手だ。鬼よりも病気よりも人に殺されるのが一番多い。
奴等は人は殺しても村は殺さない。我々も村人を必死で増やす。死ぬのが自分でありませんようにと。別の人が選ばれるようにと。捨て子が居れば拾う。自分の身代わりになってもらうために。数が増えたら必死で食い物を集める。
生き残る為に数を増やす。それが村人。
我々はウサギと変わらない。ラララにはすまないと思っている。村では女が可愛いとは不幸なことだ。最初の生け贄になる。ラララもそれは知っていた。知った上で私達と暮らす。
「ああ」
不意にユキオが返事をした。
ユキオが立ち上がりガガガの横に向かう。
いつの間にかガガガを包んでいた光は消えている。
ガガガを見下ろすユキオ。
ガガガが目を開ける。
生きてる!
「ガガガ!」
思わず叫んだ。
周りの者も驚いている。
そして刀傷はない。それこそ首もとから胸にざっくりあったのに!
確かに服は破れてて血塗れだ。
そうかラララ!
ラララは助けられたと言っていた!
あの娘の服も破れてて血塗れだった。
「まさかラララも?」
「こんなに酷くはなかったがな」
やはりそうか!
ラララは本当に命を救われたんだ。鬼に追われたどころじゃない。
ラララもあの光を貰ってる!
ガガガがユキオを見る。周りを見る。手を首や肩に当てる。
そして、死んだままのトムムを見る。
目を剥いて、トムムにしがみつくガガガ。トムム、トムムと叫ぶガガガ。
そして奪われた人の名を呼ぶ。
「ラララは!」
村人が顔を背ける。
「ラララは連れていかれたよ」
「リリイ婆、奴等は!」
「もう居ない」
そしてガガガははっとする。
「お、俺は?」
「お前は死んだよ。それをユキオが生き返らせた。感謝せい。トムムは手遅れだった」
涙を流すガガガ。
その涙は何に。
そしてユキオに向きなおす。
「貴方が俺を生き返らせてくれた?」
「まあそうだ」
「トムムは!」
「その、間に合わなかった・・」
歯切れが悪いな。
一瞬ユキオの顔が曇る。
ガガガは立ち上がり、手を動かしてみる。問題ないようだ。
そしてユキオに向かう。
「ユキオ様。救って頂き有り難う御座います。このご恩は忘れません。私の命はユキオ様の物です」
まあ、そうだろう。
「ですが、今だけは自由を下さい」
いかん!
「ガガガ!」
止める!
「ラララを取り戻します!」
「止めろ!死ぬぞ!」
「もう死んでます!」
「ラララを!」
「待て」
ユキオがガガガの肩を掴む。
「俺が行く。ガガガ、案内しろ」