教祖サクラ誕生
「いやいやいやいや、待って待って!」
サクラ姫が教祖になると言い出したよ!
昼寝してたら『サクラ姫が呼んでるから手伝ってやって』と神様に言いつけられた。
ラララ、コユキ、サクラ姫は神様と頭の中で会話を自由に出来るらしいが、俺の場合は寝てるとか気絶してるときしか神様と会話出来ないのよ。なんか不便じゃない?
んでもって、車走らせてサクラ姫の勤務地のウエアル城まで行ってみれば、サクラ姫にとんでもないことを言われたのよ。
「教祖になるから教祖っぽい服を出してください」
よりによって教祖!
つまり宗教!
祖国日本での経験で宗教はろくなもんじゃないと思ってた俺は猛反対。金集めたり、変な儀式したり、洗脳したり、最悪武装蜂起したりというイメージしか湧かない。
日本に居た間の新聞ニュースで見たりした宗教のイメージは最悪だ。地下鉄で(略)したり、飛行機で(略)したり、勧誘のために(略)したり、(略)のために家族全員田舎に呼び出されたり。
大体神様なんて居ないだろ!
あ、居たわ。
そういや、居たわ。
スゲー近くに居たわ。
さっきもラララの乳吸ってたわ。(見せてもらえません)
「ユキオ様。神子には既に許可をとってあります」
「嘘!」
「本当ですわ。好きにしろと言われました。あの方らしいです」
「まさか神子が神様として行動を開始するのか・・」
「違います」
「違うって?」
「私が教祖になるのです」
「巫女ではなくて?」
「私です」
「・・・・」
駄目な奴だ。
一番駄目な奴だ。
これはいけません。
執務室にひとりの少年が入ってきた。地味だが小綺麗な服装で手には紙の束。
少年はその紙の束をサクラ姫に恭しく差し出し、それを受けとるサクラ姫。
サクラ姫は一枚一枚読む。
そして。
「頑張りましたね、大変良くできました。次もお願い」
そう言ってサクラ姫は別の紙の束を差し出す。それを嬉しそうに受けとる少年。
「直ぐに取りかかります」
「お願いね」
そして丁寧な挨拶をして少年は退室していった。
「ユキオ様。彼をどう思います?」
「ええっと、別に何とも。でも、サクラ姫に惚れてますね」
「そうですね。半分正解です。彼は孤児です。しかもギルド直営の孤児院の孤児です」
「そうなんですか」
だからなんだと言うのだろう。
「彼がどうしようもないワルガキだったと言うことはご存知ではないですよね」
「そりゃまあ。まあ、多少の事は・・・・若いんだから・・・・」
「それがレイプや強盗でも?」
「え?」
「ギルドに揉み消されてあまり記録は残って居ませんが、ギルドの孤児院内で孤児の少女を何人も強姦しています。しかも相手に重度の怪我をさせる強姦です。外でもしていたらしいですわ。強盗もね。それはそもそも大人のギルド員の真似をして覚えたの。つまり、ギルド員は彼の目の前で同じ事を日常的にしていたのでしょう。性欲を晴らすためにちょくちょく孤児を食い物にしていたギルド員の姿を見て、たまにギルド員に町についていけば恐喝を見せられて、強盗を当たり前に手伝わせられていたようです。そしてそれは(当時は)罪に問われないし罪ではない。彼は心の底からそう認識していました」
さっきの少年が?
強姦魔で強盗?
言われなくてもギルド直営孤児院内でその行動をしていたのが彼だけでないのは想像がつく。孤児院の中はカオスだったに違いない。
「最初、彼を普通の孤児院に連れて行ったときは大変だったらしいです。彼は他の孤児の少女を次々に襲い、物と金を強奪しました。周囲は一生懸命彼にそれはいけないこと、してはならないこと、罪であることだと必死に教えました。でも、彼は変わりませんでした。
『何がいけないの?』
『それはおかしい』
『こうするのは普通』
『楽しいから』
『欲しいから』
『気持ち良いから』
彼は物心ついた時からギルド員を見て育ったせいで価値観が私達とは違うのです。ですから私は神子から貰った力で洗脳したのです」
「洗脳は駄目だ!」
洗脳という響きが脳を揺らす! 神の力を洗脳に使ったのか!
「いえ、これが最適解です。
こういう問題は昔から有りました。本来なら悪人な心を持つ人を悪行させないように色々してきました。罪を犯したら罰則を課したり、道徳を説いたり、被害者の悲しい姿を説明したり。でもね、根本的解決をしなかったんですよ。彼等は仕方なく更生した姿を演じるだけです。我慢して演じるんです。そして我慢の限界がきて今まで以上に悪くなったり、突然キレたり、闇に紛れて悪行したり。彼等にとっては善行は苦痛、悪行は快楽なんです」
「でも、洗脳なんて!」
「彼等は無理に普通の生活をしてもそれは生き地獄なんです。ゴリゴリ心を削りながら生きてるだけなんです。私達とは違うんです。
ユキオ様。私が神子から貰った力をご存知ですか?」
神様から貰った力?
神子の出生に関わった三人には謝礼として能力が与えられたというが。さっき、洗脳と言っていたが。
「人の感情を読む力と感情を操る力です。使い込めばもっと細かい情報や設定も出来ます。彼の喜びと苦痛をコントロールしたのもその力です。殿方の快楽をコントロール出来た私には適性も有ったのでしょう」
それの力が洗脳に使われたのか。
「私はこの力を与えられたときに考えました。この力を使ってギルド直営孤児院の子供達の更生が出来ないだろうかと。可能ですがとても大変な事です。一つ一つの行動項目にイエス・ノーをつけ、その少年の感情の動きを決める。可能ですがとてつもない仕事量になります。それを人数分となると流石に無理ですね」
それはそうだ。
そもそも洗脳は駄目なことだが、それ以前に無理すぎる。犯罪の種類も一杯あれば、善行の種類も一杯ある。しかもそれのレベル分けとかいったらとてつもない量の取り決めが要る。
「そこでです、私はもっとシンプルにすることにしたのです。彼等に私を崇拝するようにしたのです。至ってシンプル。強盗、窃盗、強姦、恐喝の事をを私が嫌いだと言えば皆私に嫌われたくないのでやらなくなります。善行を好きだと言えば、彼等は私に好かれたくてやります。彼等の行動原理を自身の欲求から私の欲求に変えるのです。いまでは彼等は悪行をやっていないことに心から快感を覚えています」
「それは・・」
何かモヤモヤする。
サクラ姫の言うことは分かるが何かモヤモヤする。
「知ってますか? ユキオ様は洗脳を否定してますが、彼は本来なら更生の余地無しで処分する予定だったのです。今、生きて喜びながら仕事を普通にしていますが、本来なら生きていない人間なのです。どちらが幸せでしょう」
絶句した。
言い返せない。
本来なら処刑されていた。
だが、洗脳されたが故に生きている。しかも偽物とはいえ喜びの中で。
そしてサクラ姫はこれをもっとやるに違いない・・・・
「さあ、衣装を決めましょう。神子から好きなのを選べと言われてますわ」