怪物狩り、村の悲劇
困った、怪物が居ない。
暗視モードとライトを使い分けながらあちこちウロついた。
でも、怪物が居ない。
昼間、ラララを助けるために怪物3頭をサクッと倒したから、10頭くらい余裕だろうと思ったのだけれど、怪物が居ない。
よく考えれば当たり前で、あんなのがウジャウジャいたら、あの村なんてとっくに全滅してるし、ラララも森に入るなんてしないはず。
あの3頭に当たったのは相当なレアケースだったようだ。
ひょっとして、体良く村に飼われるの俺?
10頭のノルマをこなさなければ村に居続ける事になる。
なかなかノルマこなせずに村に居続けたら愛着湧いて定住コース?
チートの俺を村でゲット?
ちっ、あの婆さんやるのう。
村人のヒソヒソ話で聞こえたけど、怪物は『鬼』と呼ばれてるみたいだ。
頭にツノは無かったけどなあ。
怪物、魔物の知識は漫画アニメしかないけど、その記憶で当てはめれば『オーク』が近いかも。
デカくて筋肉質で毛皮がなくてツノはないけど肉食。
人型で歩くフォームはやや猫背。
狼ほど口は飛び出してないけど、チンパンジーくらいは口が前に出てる。そして牙あり。
そしてアソコがデカかった。
ナビ画面に鬼の反応なし。
地図拡大しても無し。
うう〜む、今夜中に鬼の首10個ぶら下げて凱旋してドヤ顔したかったんだがなあ。
アイツらひょっとして夜は巣でスヤスヤ寝てるのか?
だったら、巣を見つければ数頭まとめてゲットできそう。昼間のやつも群れてたし、そういう習性かも。寝ててくれたら更に楽だし。
って、ことで地図画面を更に拡大。
現れるマークは粒みたいなのばかりで対象外しかない。拡大させすぎると生命反応表示が消え、単なる地形地図になる。それは困るので反応してくれるまで縮小する。
お、映った。
そのまま周りをゆっくり見回すと赤い点が一杯ある場所がある。ラララの村だな。
そういやラララはどうしてるんだろうなあと見てた。
赤い点はチロチロ移動する。止まったり進んだり。
みんなまだ起きてるんだな。もう夜なのに。
暇なので画面を見ていると、赤い点が黒くなった。
更にもう一つ。
黒い点は移動しない。
まさか!
昼間、怪物を倒したらオレンジ表示が黒表示に変わった。
今、赤二つが黒に。
つまり・・・
「まずい!」
何かが村で起きてる。それは人が死ぬような事!
村を目的地に設定!
『そのまま真っ直ぐです』
わかってる!
大急ぎで走る!
くそう、夜は見難い!
暗視モードが自動で働くがそういう画面を見るのは初めてで勝手が違う。
村はどうなった?
ナビ画面でさっきの詳細モードにすると視界が邪魔されて走れない。透過表示とはいえ見づらくて走れない。
仕方なく一旦停止。
赤い点の中に黒い点が二つ。それは動かない。
どれが誰だか判断つけば便利なのに誰も彼も赤い点。
そして、赤い点5つが遠い方に移動し始める。
なんだ?
これじゃあ情報が足りない!
一旦詳細モードを辞めてまた走り出す。
案内はラインと音声案内のみに。
見えた!村だ!
畑を抜け、家の間を抜け、人気のある方に走る。
人だかりが見えた!
「おい! どうした!」
俺の声に一斉に村人が向く。
表情が暗い。
更に走って村人の輪に体をねじ込む。
横たわる人間。
赤い血。
遺体が2体。両方とも成人男性。黒い点はこれか。
横たわる男に寄り添って泣く女性と子供達。
「何があった!」
近くの男の体を掴み揺さぶる。
頼む、教えてくれ!
「強盗・・・・殺された・・・・食い物と・・・・・・」
そう言って男は顔を俺から背ける。
まさか!
「ラララは!ラララは?おい、出てこい!」
「ラララが攫われた・・・・」
頭が真っ白になる。
可愛いラララ。
やせっぽちのラララ。
俺のラララ!
「すまん、ユキオ」
そう言ったのは村長だ。
すまなそうに俺に頭を下げ続ける村長。
「何があったんだ!ラララは?」
「ラララは人質にされた。わしらは見てるしかない。この村で強いこの2人でさえ簡単に殺された。追ったところで何もできはしない。仕方がないんだよ」
「・・・剣を・・・持ってたんだ、あいつら」
男がボソリと言う。
冷静に見回せば、誰も剣を持って居ない。木の棒しかない。
この人たちは無力だ。
追って追いついても返り討ちになるだけだ。
諦めたんだ。
この村は奪われるだけの村なんだ・・・・
「ヒールは可能か・・・?」
『対象を選んでください』
可能なのか!
結構時間が経っているのに。
マーカーが二つ映る。
両方選択す・・・・・
が、一瞬止まる。
ラララを追う?
それよりラララを追うべきじゃないか?
あの子は弱い。そして女だ。
優先するべきことは?
フッ!
マーカーが一つ消えた。
!
しまった!
「ヒール!」
やはりマーカーがつくのは1人だけ。
迷ってる間に1人失った。蘇生不可能になってしまった。
すまない・・・・俺がもたもたしたせいで・・・・・
マーカーを選択した。
『ヒールを開始しました。残り時間2039秒』
横たわる男のうち1人が青い光に包まれる。
驚き騒ぎ出す村人。
2039秒か。
随分長いじゃないか・・・・
そして赤いマーカー5つは観測範囲外に消えた。