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冒険者リョウタとムジナ

 私はリョウタ様の側近を勤めさせて頂いておりますムジナと申します。側近と言っても何もすることがありません。リョウタ様は強く万能で側近など必要ではないのです。実質私はただの話し相手でした。

 今年90歳となりました。

 ここに居る中者の中ではでは一番旧くからリョウタ様との付き合いが御座います。


 リョウタ様は下界では魔王などと呼ばれていますが、私に言わせれば、勇者と呼ばれるジーヘイこそ魔王です。ですがリョウタ様は魔王と呼ばれることを良しとしています。それはリョウタ様が人間嫌いになってしまわれたからです。

 かつては冒険者ギルドの長として人々と共に汗水流し働いていたリョウタ様。しかし、自らのギルドはジーヘイに奪われ居られなくなりました。リョウタ様はギルドを捨てて、人との繋がりを捨てて、愛する者も捨ててしまわれました。


 今、この人も寄り付かない山奥の家にはリョウタ様と私を含めて五人の男のみ。

 国を捨てた者、愛する人に裏切られて逃げて来た者、捨て子。ああ、私はギルド時代からリョウタ様の側近です。リョウタ様が国を捨てるとき御一緒させて貰いました。その時はそれが正しいと思ったのです。多くの人はジーヘイに付きました。後に勇者と呼ばれるジーヘイ。

 ですが私はこれでよかったと思っています。あの後の冒険者ギルドは私の求めるものではありません。


『冒険者は自由だ!』


 この言葉の元に行われたギルドの悪行の数々。

 ギルドは繁栄しましたが、あれは繁栄とは言いません。

 そして民からは冒険者ギルドの創設者リョウタ様が恨まれるようになり、魔王と呼ばれるほどになりました。ジーヘイがリョウタ様を悪く言ったのもあるのでしょう。



 リョウタ様と私達は人目を避けて暮らしています。何度か引っ越しもしています。

 どの家に居たときでしたでしょうか。

 一度あの女が訪ねて来たことがあります。それは三人目の冒険者クラリス。美しく強く、かつて三つ目のギルドマスターとして君臨していた女。リョウタ様を裏切りジーヘイに股を開いた女。

 その頃にはクラリスはもうギルドマスターでは無かったのでしょうか?一人で行動をしておりました。


 この女は今更リョウタ様に近付いて来て何をしろと言うのでしょう。

 私はリョウタ様から聞いて知っています。


 かつて遠い国から不思議な現象で飛ばされてきた三人。いえ、最初は五人でした。ですが、飛ばされたときに二人は身体か壊れ鬼になってしまい、知性も失った為に凶暴化して斬り殺すしかなかったと。

 泣く泣く斬ったのはリョウタ様だったと。仕方なかったのです。

 その斬られた二人はジーヘイの恋人だったそうです。二人ともです。

 この時から運命は狂い初めて居たのでしょう。

 鬼になってしまったとはいえ、かつての仲間を殺したリョウタ様。クラリスとの心の亀裂が産まれたのはこのころかもしれません。


 詳しいいきさつは知りませんが、クラリスはジーヘイと結ばれました。リョウタ様はそれをジーヘイから直接言われたそうです。実はリョウタ様とクラリスは()()()()()。勝ち誇るジーヘイ。絶望するリョウタ様。


 この国に飛ばされてきて苦労の末最初に言葉を理解したリョウタ様が自らの生きる場所を作り、民に好かれるように仕事をして、やがてそれはギルド創設にまで至り、増設もしました。

 増設したギルドはクラリスとジーヘイに与えられ、リョウタ様は更に寝る間も惜しんで仕事に励みました。


 最初こそ三人の冒険者と民の共栄の為、国のためのギルドでした。

 しかし、リョウタ様はジーヘイに全てを奪われました。恋人もギルドも、民からの信頼も。


 あの女にどういう理由が有ったのかは解りません。

 知りたくもありません。

 ただ、あの女の顔は若かった。歳をとっていないのです。まあリョウタ様も若いままですが。冒険者とは歳をとらないようです。私はその時既に初老だっとというのに。


 あの女にリョウタ様は、ただ一言、


「帰れ」


 そういって家の扉を閉ざしました。あの女が来たのはその時だけです。あとはどうしてるやら、知るよしもありません。



 ー ー ー ー ー




「痛むか?」


「いつものやつです」


「どれ、治そう」


 リョウタ様がいつもの治癒魔法を私にかけてくれます。少し痛みが和らぎます。しかし、私の身体も限界が近いのでしょう。最近は治癒魔法が終わってからまた痛むまでの時間が短くなっています。


「リョウタ様」


「なんだ」


「次に発作が来たらそれに抗うのも辛いです、もう疲れました。眠っているうちにいっそ一息に」


「いやまだ・・・・」


「いえ、もう充分生き延びました。本来ならもう死んでいる筈です。すいません先に逝きます。一人にしてすいません」


「そうか。寂しくなるな。俺は元々一人だ。気に病むな。ムジナには感謝している。俺を一人にしないでくれた」


「死ぬのは嫌なもんですね」


「死なないのも嫌だがな」


 これはリョウタ様自身のことでしょうか。我々から見れば冒険者は不死です。魔法の使える人々は不死なのでしょうか。解りません。


 リョウタ様から『俺が死んだら・・』と昔話(過去)を託されたはずの私のほうが先に死ぬようです。


 リョウタ様は優しい方です。必要のない私達を養って守って下さりました。

 出来ることならばリョウタ様に幸せが訪れますように。




リョウタとユキオでは能力に違いがあります

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