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ユキオの回想


 いやあ、疲れた疲れた。

 俺は神から授かった肉体で疲れ知らずの筈なんだが、それでも疲れた。

 なんてったって、1日でギルド400人相手したんだから。

 帰り道、車運転して寝そうになったわ。


 助手席でコユキ爆睡してたし。





 まあ、今回の敵のタクトウギルドの殆どはコユキが倒したと言っていい。

 ウエアルギルドは俺がタクトウギルドに忍び込んで金盗んでウエアルギルドのあっちこっちに置いといたら、見つけた奴全員金をネコババしやがった。隠れて見てたけど、1人も申し出る奴いねえ。

 いやね、自分の手で人殺しするのが嫌だから、ギルド同士が潰し合うように仕組んだわけ。盗むのも手がかり置いて置いたり、偽の噂流すくらいはチートの俺には楽勝。

 しっかし、ウエアルギルド員が全員殺されるとは思わなかった。

 やっぱギルドってこええ。

 ひょっとしたら、前からタクトウギルドはウエアルギルドを潰したがっていたのかも。ギルドの支配力なら人員半分になっても町二つ征服し続けるのは容易いし、一人当たりの収入増えるし。



 今日は正式にタクトウギルドがウエアルギルドを『兼任』することになったので、堂々とタクトウギルドを襲撃した。

 無関係の町のギルドを襲撃する口実が欲しかったから、『タクトウギルドが正式にウエアルギルドをします』というお達し出たのは、うまくいきすぎて笑った。領主ウエアルの依頼書を最大限都合よく解釈させてもらったわ。


 タクトウギルドの襲撃は大変だった。

 ギルドって、みんな一つの建物に集まって寝泊まりしてるのね。

 いつも町の人を殺したり強姦したり強盗したり脅したりしてるから、町にマイホーム立ててゆっくり寝れないわけ。いつ、死を覚悟した町民に寝てるところを襲撃されるかもしれないしね。

 だからあいつらみんなギルドで共同生活してる。

 お陰で奇襲は楽。

 まあ、多少は取りこぼしはあったろうけど大丈夫でしょ。


 最初のタクトウギルド襲撃は、


「人殺ししたくないんだけど」

 って言ったら、


「じゃあ、私が適当に倒すからユキオは拘束係ね。切りすぎてたらなんとかして(ちょい、ヒール)ね」

「分かった」


 正直、その時は人に剣を向けなくてよくて気楽だったのよ。

 だが間違いだった。


 どかどかどかどか。

 ざくざくざくざく。

 どかどかどかどか。

 ざくざくざくざく。


 ギルド突入後、とんでもないスピードでギルド員を倒すコユキ。

 数秒に1人のペース。絶好調なのかなんなのかコユキの斬る速度が早い、早すぎる!


 結束バンドや手錠でどんどん縛り上げるもコユキのペースの方が早い!

 最初こそ切りすぎな怪我にヒールをライトバージョンで掛けていたが、置いていかれるのでやめた。

 死なれたら気分が悪いが、多分あとで死刑だろうし、そもそもこいつら1人で何人殺しているか。情けをかける必要なんてない。ていうかコユキ早すぎ!


 転がってる奴を縛りながらちらちら見てたけど、コユキ強すぎ! ギルド弱すぎ!

 名人級とか俺様級とか色々居たけど、コユキ相手に10秒もった奴は居なかった。

 てか、なにこの女。

 なんでこんなに元気なの?

 3桁のギルド員相手にしてるのに!


 ああ!

 拘束係頼んでおけば良かった!

 クロマツの時は楽だった!


 次は、ウエアルまで車で移動してウエアルギルド襲撃!

 襲撃し始めたところでウエアルギルドは一階を捨てて二階から上で籠城し始めた。


「誰も通さないでね」

 そう言ってコユキは消えた。

 まさか壁を登った?

 暫くすると上の方から悲鳴と怒号が聞こえる。

 やっぱりか。

 どうやらコユキは最上階から突入したらしい。

 あいつほんとに人間か?


「逃げろー!」

 向こうから折角作ったバリケードを破壊する音がする。

 怖いオネーちゃんから逃げる気か。

 もう、相手も処理もぜんぶしたくなかったから、出入り口を奴らに開けられる前に、左手から大量の砂利を出して出入り口封鎖した。

 ナビ反応みれば、封鎖した出入り口の向こうで生き残りが横に移動してるのが分かる。

「窓から出る気か」

 俺はそっちに移動して、出てくる奴を鉈を持って待ち構える。

 窓から出ようとした奴が、俺を発見するなり『げ!』な顔をしてまた奥に引っ込む。そしてまた別の奴が顔を出して『げ!』な顔をしてまた引っ込んで、また別の奴がの繰り返し。たまに意を決して飛び降り他奴もいたけど、どいつもこいつもその後立てずに芋虫のように転がってた。そりゃ、サンダルよりうっすいソールの靴で石畳の地面に跳びおりればそうなるわ。後は芋虫を鉈でどついて拘束すれば終わり。


 下から見ててもこの建物、二階の窓が少ないし小さい。最上階は窓はでかいのに。

 脱走防止とか防衛の為なんだろうな。お陰で楽できたけど。


 そして暫くして、ナビの生体反応を見ると、動き回っているのは1人だけになった。


 そして、砂利で開かなくなったドアの向こうからガンガン音がする。

「ちょっとー! 開けなさいよー!」

 コユキが怒鳴ってる。


 やっぱり圧勝だったか。

 多分強い奴も居たんだろうが、全部数秒で仕留められたに違いない。


「はいはい、開けるって」

 俺は砂利をザクザクどかしてドアを無理やり開けた。そしたらドアが壊れた。まあいいや。

 中からコユキが顔を出す。汗だくだ。


「後お願い。ウエアル城に行ってくるわ」

「へいへい」

 コユキがウエアル領主に報告に行くらしい。

 ウエアル領主もギルドに味方したりしないだろう。

 今までギルドの言うことには従ってきたが、もう聞く必要はない。忖度したら元の木阿弥だ。

 それに一応オーリン様に、あとでオーリン剣士団寄越すようにお願いしてある。たぶんそろそろくる。

 ウエアルがギルドに甘くならないように見張る為だ。

 なんてったって『銀の夫婦』がオーリンの味方と分かれば逆らいはしないだろう。


 コユキと入れ替わりで建物の二階に入る。


 フロアいっぱいに横たわる芋虫。

 その上の階も、またその上の最上階も・・・



 俺は半泣きで拘束作業をし続けた。

 単純作業やライン工ってこんな気分なんだろうか・・・

 そうだ、こっちくらいは役割交代すれば良かったんだ・・・

 思いっきり後悔した。


 そして半泣きで拘束作業を終わらせた頃、コユキと一緒にウエアル兵士団が来た。オーリンの剣士団もいる。これで一安心。


 う〜ん、ウエアルの兵士弱そう。

 事務方のおっさんに剣持たせただけじゃねーか。



「あ! そういえば、タクトウギルドほったらかしだった!」

「忘れてた!」


 俺とコユキは大急ぎで車に乗ってタクトウギルドに向かった。

 そこで見たのは地獄だった。

 あの光景は忘れようにも忘れられないわ。


 騒動を聞きつけた地域住民が大勢ギルドに入り込んで居たのよ。

 ゆらゆらと歩く刃物を持った血まみれの住民。




 そしてタクトウギルド員は全員死んでいた。

 200以上の死体。

 生かしておいた意味が無かった・・・


 その後到着したオーリンの兵団に後を任せ、俺とコユキは車でオーリンに向かった。

 俺も直接ではないが人殺しか。

 相手がギルドとはいえ。



 助手席のコユキに話しかける。

「なあ、コユキ。コユキもギルド時代に殺しをしたことがあるのか?」


「ないわ。でも見えないところで誰か死んでいたかも」

「そうか」

「殺さずに済ませる方が大変なのよ。代償は()()来るから」


 それ以上は聞けなかった。

 人としても女としても辛かったに違いない。

 そしてオーリンギルドはまだマシだったのか。


 人は殺したくは無かった。

 だが、これでギルドが人を殺したりすることはもうない。

 今回ウエアルギルド180人位にタクトウギルド400人くらい死ぬことになった。

 俺が殺したようなものだ。

 日本に居て引きこもりしている時には想像すらして居なかった。

 異世界転生転移といえば、倒すのはもっぱら魔族や魔物。殺すことに罪悪感なんてない。好きなだけ剣を振って好きなだけ魔法をぶっ放せばいい。


 だが、ここで殺したのは人間だ。


 エチゴヤは出発前に教えてくれた。

 ウエアルギルド、タクトウギルドの人間は1人で5〜20人の殺しをする。ギルド員は殺人に罪悪感を持たない。殺してしまっても病むな。それでこれから救われる命がある。


 その通りだろう。

 舞い戻ったタクトウギルドのその後がそれを物語っている。

 彼らがどれほどの憎しみと恨みを住民にかっていたか。


 生かして置いてはならない人種がいる。


 だけど俺は日本人だ。

 戦争の経験も死刑執行の経験もないし、ナイフで刺したことすらない。

 この想いはなんだろう。



「なあ、コユキは平気だったか?」





 だけど、返事はない。コユキは既に寝息を立てていた。



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