ラララの村
ラララの村に行くことにしたのだが、ラララの家族構成とかが気になった。
テーブルとかを左手に仕舞いながらラララに聞く。左手に吸い込まれる家具に驚くラララ。アイテムボックスのことやらこの家具とか説明してたら日がくれる。めんどくさい説明は曖昧に済ませて話を聞く。
「ラララの家族は?」
「家族は33人います」
「すごい! 兄弟は?」
「いません」
「兄弟が居ない?33人も家族がいるのに」
「血の繋がりはありません」
「じゃあ、お父さんお母さんは?」
「いません」
「?? じゃあ家族って?」
「家族は家族です。同じ家に暮らす人間です」
「ラララはどこで生まれたの?」
「わかりません。気がついたらあそこで暮らしてました」
なんだか『家族』ってのが俺の中の常識と違う。
親も兄弟もないけど、家族がいる。
ラララのいう家族は皆血の繋がりがないみたいだ。孤児院?
「他の人は親とか兄弟とかいるの?」
「色々です。私みたいなのもいれば、親が居る人もいます」
共同生活みたいなものかな・・・
「ラララは俺に貰われることになったけど、どうなるんだい?家を出るの?」
「わかりません。家は狭いのでユキオ様の場所が貰えないと困ります。うまくいくといいですが」
「まずは家主に話をしなければ」
「はい。怖いですけど一生懸命話します」
「怖い?」
「怖いです。殴られると痛いです。ああ、ユキオ様が助けてくれたのをどうやって説明しよう・・・」
そうか。
誰も証人がいない。ラララを貰うと言っても『はいあげる』とはいかないだろう。
家族はきっと労働のために囲われてるんだろう。
それこそ俺が家に入らずラララを連れ出すと労働力を奪うことになる。
前世でも『大昔は子供を沢山産んで労働力にした』なんてのも聞いたことがある。
この世界の価値観では死ぬ筈だった者を助ければ貰えるらしいが、説明するための証拠が欲しい。
証拠といえばあれだよなあ。
向こうに怪物の死骸が3体。
御誂え向きに首がハネてある。
異世界漫画なら『証明部位』を持ち帰るんだよな。この場合、この首三つか。
「なあ、ラララ。この怪物の頭を持って帰れば説明しやすいんじゃないか?」
「はい、そう思います。でも・・・重いですよ」
怪物の頭は一つ10キロ以上ある。そして汚い。
俺は強いだろうから持つことは出来るだろう。でも汚いから触りたくない。
怪物の口から変な液体出てるし、首の切り口は血まみれだし。
左手に格納するって手もあるが汚いから入れたくない。漫画だと、アイテムボックスに入れるのが常識みたいだがなんか嫌だ。中にある他の物を汚すかもしれない。汚れないという確証がああれば入れるけど。そして中で腐敗が進んだらもっと嫌だ。入れても問題ないという確証が得られるまでは入れたくない。
そうこうしてる間にラララが怪物の頭を持とうとする。
うあ、触らないで!
「待ってくれ!」
伸ばした手を止めこっちを見るラララ。
「大丈夫。俺は強いから」
そう言って俺は鉈で近くのやや細い木を切り倒した。
3メートルくらいの担ぎ天秤棒を作り、棒で怪物の頭をブスッと貫通させた。
天秤棒の前に一つ、後ろに二つぶら下げる。
落ちたら困るのでモモタロウで取り寄せた縄で縛り上げ、見たくないので麻布を被せた。
クーラーボックスとかポリ袋という手もあるが、あまり村人には文明の利器を見せたくない。見せていいのはラララだけ。
「一つくらい私が持ちます」
「いいんだよ。俺は強いから。それよりもこれ」
そう言ってラララに木のサンダルを差し出す。
ラララはずっと裸足だった。無くしたのかと思ったが、そうじゃなくて履物は持ってないようだ。そしてこれは俺が転移してきたときに履いていた物。ちょっと大きいけど。
「いいのですか?」
「いいんだよ。俺はこれがあるから」
そういう俺の足にはトレッキングブーツ。
ラララにも与えたいけど、裸足で慣れてる人にいきなりクツは無理かもしれない。でも裸足はあんまりだ。
いい物を与えてしまいたい衝動にかられるけど、これから行く村の人に嫉妬される状況を作るのは酷だ。
そうして2人で歩き始めたが、ラララは木のサンダルを脱いでしまった。
やや重くてカパカパするのは歩きにくいようだ。
そして結局裸足なのだけれど、ラララは痛そうな顔はしない。至って平静。
やはり原始人?
神様が俺にサンダルくれたのは俺がヤワだから?
「ちょっとまって」
「ああ」
ラララが止まって右を見る。
なんだろう。
ラララは右に移動して立ち木に絡みついてるツルを掴む。
それを遡るように地面に向かって追う。
根?
その根を手で掘り出すラララ。
邪魔をしないように見ていると、ラララは芋らしき物を掘り出した。
地上部の蔓はそのままで切らない。ああ、蔓も必要なのか。食べるのか、或いは乾燥させて紐にするのか。
「ラララ、それは何?」
「芋。お土産」
家族へのお土産なんだろう。
多分、森に来てたのも食料採取だろうし。
そしてラララが別の場所を見る。その先には同じ植物。
そして俺をじっと見る。
「いいよ」
「やった」
ラララはすぐさま次の芋掘りに取り掛かる。
手ぶらで帰ったのではバツが悪いだろう。
「手伝おうか?」
「いい」
好きにさせよう。
結果、ラララは3本の芋とちょっと種類の違う芋一本をぶら下げて帰って来た。
4本の芋の蔓をまとめてくるくると巻いて背中に担ぐ。小さいラララの背中に芋がふりふり。
見た感じ1人1日分の食量かな?昔の俺だったら2日保ちそうな量だけど、原始人なら大食いそうだし。
「もうすぐです」
見えて来た。
村だ、集落だ。夕焼けに照らされた田舎っぽい景色。
木造の建物が中心にあり、その周囲に小屋とか竪穴式住居みたいなのがいくつか取り囲んでいる。粗末だが木造建築があるというのは、ソコソコの文明はあるらしい。ここは『寂れた村』ってところか。
ラララはその中の一番大きな竪穴式住居に向かって歩く。
そしてその入り口で立ち止まり、
「ばあばー」
と、呼び声を上げた。
すると中から初老の女性が現れる。
見た感じ50〜60歳、服はラララの着てるものより服っぽい。そう、彼女の服は身頃と袖が別パーツで縫われているし、重ね着をしている。
足には木靴。
これは身分の差か。多分この人が村で一番偉い。
「森から帰りました」
そう言って、芋を差し出すと初老の女性は受け取った。
食料は皆の共有財産として扱われるのかな?多分そうだろう。
「それから・・・・」
ラララは何かを言い出そうとしているが話せないでいる。
「なんだい。その男に関係ある話かい?それからその服どうしたんだい?」
ラララの服の肩のところは穴だらけで血まみれ。だけどちゃんと健康そうにしてるのは不思議だろう。
「あの・・・」
どうもこの女性が怖いらしい。うまく喋れないでいる。
助け舟を出そう。
「初めまして。俺はユキオ。ラララが森で怪物に食われそうになってる所を助けた。それがこれだ」
そう言って肩の天秤棒を地面におろし、怪物の頭を覆ってた麻布を剥いだ。
露わになる怪物の頭三つ。
これから俺がラララを貰ったことを説明しなければいけないがどうしたものか。強気に出る?優しくいく?
黙り込むばあばと言われた女性。
「ラララを貰いたい」
簡単に言った。
さあ、どうくる?
「話を聞こうじゃないか」
俺は怪物を倒してラララを助けたと説明した。
服が破れてるのは襲われた時の被害で、血は怪物の血ということにした。
正直『ヒール』のことは隠した。
「いまいち飲み込めない話だねえ。襲われてないんじゃないかい?」
やはりラララの体が無傷なのは疑問なんだろう。
助けた相手を貰うのはこの世界ではよくあることらしい。それはいいと。
つまりはラララが襲われてないと思われてて、勝手に俺が怪物を倒しただけ。偽装工作を疑われているわけだ。
俺が強いというのは認めてくれたらしい。
本当のことをバラすか?
顔を青くして俯くラララ。相当この人が怖いらしい。
そうこうしているうちに、人が集まって着た。
ひそひそ話で状況が伝わる。
遠巻きに見てくる村人。20人以上いるけど、それ以上は増えない。手を離せなくて見にこれない人もいるだろう。するとラララが言った33人の家族というのは村人のことを表すのではないだろうか。
村人のこそこそ話で俺が倒した怪物が相当強いのが伝わってくる。
凄いとか、10人かかりでも負けるとか、もっと倒して欲しいとか。
もっと倒して欲しい?
これだ!
「ラララの代償に、もっと怪物を倒してやろう。この辺にはあと何匹いるんだい?」
三匹くらいだといいなあ。
「分かった。十匹とラララを交換だ。ふっかけてると思わないでくれ。ラララだって大事な働き手なんだからな。それと交換なんだ」
ちと、多かった。
「分かった。ラララもそれでいいか?」
「その・・・あの・・・はい」
何か言いたそうだったが、最後は飲み込んでオッケーした。多分、俺はふっかけられてるんだろうな。
「そもそも10頭が居ないとかないだろうな?」
「何言ってんだい。倒したって他所からくるんだから」
そういうことか。それはラララも頷いた。
「分かった。じゃあ、今夜は俺たちは森で寝る。うまくいけば早々に怪物捕まえられるしな」
「いけません、ユキオ様! あなたは家の中に!私は外でいいですから!」
どうやら家は狭いらしい。
「ラララは置いていきな」
持ち逃げされると思われたか。
「分かった。ただ、ラララを丁重に扱ってくれ。俺の大事な人だからな」
途端にラララが驚いて手で口を塞ぐ。いや、プロポーズじゃないぞ?
そして、
「ラララは何も食べてないんだ。少しでいいから何か食わせてやってくれ」
驚くラララ。
昼はたらふく食べたのを食べてないと言われたら驚く。
「あれは全部秘密だよ」
俺はラララの耳に小さく囁いた。
「あっ、うん」
と頷くラララ。解ってもらえたようだ。
じゃあ、また明日。
俺は村と村人を背にして森に向かった。
十匹か。できれば今夜中に済まそう。