ウエアルギルド罠に落ちる (タケオ視点)
「二億か」
「二億だ」
ウエアルギルドのギルマスが領主ウエアルから聞いた話をしてくれたが、なんてがめつい夫婦だ。
オーリンに向かわせた下っ端ルタチの活動と報告は色々興味深い。
ルタチの相手をしたのは銀の夫婦の妻の方で名前をミユキというらしい。
コユキではなくミユキ?
やはりあの女は獄門になったか。
コユキが生きていれば30歳前後だがミユキは20歳くらいだという。髪は金でなく銀、背はやや高いという。コユキも背は高かったか? いや、そんなでもなかったぞ。女のスタイルはすらりとしていて、コユキの象徴ともいえる爆乳はないらしい。
「別人か」
だが、圧倒的な美人だという。そんな美人が『殺していいのよね』と言ってきて驚いたという。
ルタチはオーリンに向かって2度目の旅立ちをした。追加の1億の報酬を書きたし、合計2億の依頼書を持ってだ。
予定ではルタチは銀の夫婦を連れて郊外の中野通りを通って、城下町の二番通りを通りウエアル城に向かう筈だ。歩きで。
銀の夫婦がどんな装備で来るかは知らないが、40人のギルド員で迎え撃つ。ルタチには悪いが3人に40人で弓で集中攻撃。一気にカタをつけさせて貰う。剣で勝負なんてバカな真似はしない。既に街道に見張りを立てている。万全だ。
女だけ生け捕りに出来れば最高だが、そうもいかないだろう。
強い女で美人か。
勿体ないが仕方ない。
ー ー ー ー ー ー
さて、ウエアルにルタチが戻って来るまで4日は掛かるだろう。いや、相手の都合でそれ以上かもしれない。酒が飲みてえ。
呑めるうちに呑んでおくか。
俺はギルドを出る。
俺を見た門番が緊張した面持ちで俺を見るが、いつもの事だ。だが怯えすぎだろう。
ギルドの近くの『居酒屋 金の蛇』に入る。
中では昼間だというのに他の中堅ギルド員数人が酒を飲んで大騒ぎしている。だが、俺の入ってきた姿を見るなり大人しくなる。どいつもこいつも俺を見てビビりやがって。まあ、今までそういうことをしてきたからな。
俺はそいつらを無視して奥の小部屋に向かう。この店で俺がいつも使ってる部屋だ。俺専用となってる部屋。
部屋に入ると店の親父が少し遅れて顔を出す。
「タケオさん、いらっしゃい」
「親父、酒とつまみをいつものように頼む」
「へい。女は呼びますか?」
この金の蛇亭は女の斡旋もしている。
「誰が居る?」
「へい。今はカラ、ククスがいます」
「二人だけか」
「へい。その他の6人は別のお客様に既に・・・・」
「あいつらか。やけに羽振りがいいな」
「へい。なにやら臨時収入が有ったようでご機嫌で」
「ほう」
ギルマスは作戦前に臨時報酬出したのか?
いや、作戦とは関係ないだろう。
あとでギルマスに聞いてみるか。もし臨時報酬出してるなら俺も貰わんとな。
「じゃあ、ククスを寄越してくれ」
「それではククスに酒と料理を運ばせます」
「いや、先にククスだ。酒と料理は後でいい」
「では、ククスを直ぐに寄越します」
「ああ」
女は素面で味わって、呑んだ後にもう一度楽しむのが、最近の俺の抱き方だ。
「ククスです」
来たか。
この女は三度目だ。元は商家の娘だが、ギルドに嵌められ売られた女。
健康ならそろそろ孕んで店から一度消える頃だ。そしてまた孤児院の子供が増える。そしてククスはまた店で抱かれて僅かな小銭を貰って孤児院に贈るのだろう。
孤児は不孝か?
不孝だ。
だが、幸せになることも出来る。俺もそうだったからな。
ーーーーーーーーー
今日もギルドの様子がおかしい。
他のギルド員がこそこそしている。
そして、金の蛇亭は今日も満席。
そして銀の夫婦はまだ来ない。中野通りの見張りからの連絡が無い。ルタチがオーリンに向けて歩いてる姿は報告されたがそれきりだ。そしてギルド員が浮わついている。まるで祭りのようだ。こそこそしてるかと思えばギルド員同士で笑い合ったり、妙だ。
「タケオ来てくれ!」
慌てたような、それでいて不安そうなギルマスの声。
「どうした」
一体なんだ。
銀の夫婦が来たのか?
予想外の道から来たか?
「ちょっと、こっちへ」
そういってギルマスの部屋に呼ばれる。
ギルマスは俺が部屋に入ると、廊下に誰か居ないかチェックしてからドアを閉めた。余程聞かれたくない話らしい。
「なあタケオ。最近おかしな事は無かったか?なあ?正直に言ってくれ、なあ!」
何回『なあ』と言うつもりだ。
「なんだ、何があった?」
「なあ!言ってくれ!」
「だからどうした!」
何が言いたいのかさっぱり解らん。
「誰にも言うなよ」
「早く言え」
「金が・・・・」
盗まれたか?
まさか下っ端の奴らが盗んだのか?やけに羽振りがいいと思ったら。
「金がな・・・・」
「だから金がどうした」
「増えた」
「は?」
「金が増えたんだよ、俺も何の金か覚えが無いんだ」
増えた?
入金の記録漏れか?
「いくらあったんだ?」
「さ、三億ちょい」
「はあああ!」
「こんなに有るわけが無いんだ!タケオなんか知ってないか?」
「知らん!金庫番はどうした!」
「昨日から居ない!私物も無いんだ!どこにも居ない!」
「どういう事だよ・・・・」
「なんでこんなに金があるのか聞こうとしたら居なくなってたんだ!逃げたのかも・・」
「なんで逃げる必要が?」
金が無くなったなら逃げるだろうが、増えたんだぞ?
「まさか!」
「そうか!もっとあったんだ!それを持って逃げたのか! そう言えば他の奴らもやたらこの数日羽振りがいい。奴らも金庫番から金を貰ったのか?」
「いや、あいつは立場上他のギルド員とは仲が悪い。分け与えるなんてしないだろう」
「じゃあ、金庫番は奴らに殺され金を奪われた?」
「いや、それなら下っ端どもはトンズラする」
「じゃあ、どういう事だよ!」
「知るか!」
俺に聞くな。
一体、最初はいくらあったんだ?
「タケオ、どうしよう」
「ビビるんじゃねえ。まずは落ちつけ。そして金を隠せ。絶対に曰く付きの金だ」
「曰く付きって、一体」
「だから知らねえって!直ぐ出るぞ!何処か誰も知らない場所に隠すぞ!」
「あ、ああ」
これで、ギルマスが不慮の死をしたらこの三億ちょいの金は俺の物だ。
だが、今はまだその時じゃない。何がなんだか解らんから様子見だ。それに俺はそれほど金に執着が無い。確かに金は好きだが、金が無くても欲しいものは力ずくで手に入れるからな。
まずはその金を持ってギルマスと隠しに行かなければ!
俺はギルマスと一緒に金を鞄に詰め、ギルドを後にした。ギルマスの選んだ隠し場所はとあるギルド保有の空き家の床下。
よし、覚えた。
「ギルマスよ、落ち着いたか?」
「す、少しな」
「なら、一杯やろう」
「おい、そんな余裕は」
「いいから。飲んで寝て起きれば落ち着く。兎に角全てを忘れて飲め」
「酔った所をブスリとか無しだぞ!」
「悪いが俺はギルマスより強い。酔わさなくても殺れる」
「そ、そうだな」
二人でギルドの方向に歩く。向こうに行けば飲み屋もある。ギルマスは金を体から離したら安心したらしい。背中からブスリとされる心配が無くなったからな。だが、今度は隠し場所が気になるだろう。いや、もともと無い筈の金だ。疫病神的な物かもしれん。
道を歩いていると、ギルドの方から男が何人か走ってくる。そいつらは俺達を見るとぎょっとした表情をして更に速度を上げて走ったり脇道に逃げたりする。
こいつらうちのギルド員じゃないか。何を慌てている?
なんで俺達から逃げる?
何が起きてる?
暫くすると物騒な装備で走ってくる男達が見える。既に剣を抜いて、防具までつけている。
4人?いや6人だ。
そいつらは俺達の前に来ると立ち止まる。そして俺達を犯罪者でも見つけたかのように取り囲む。俺達に向けられた6本の剣。
まずい。
俺は咄嗟に剣を抜いたが、ギルマスは出遅れて短剣すら出せなかった。ギルマスは強くない。剣を持ったところで戦力としては足りない。いや、足手まといだ。
「ギルマスとタケオか」
呼び捨てか。
「お前らは何者だ!」
戦ったら勝てるか?
この足手まといさえ居なければ勝てるかも知れなかった。だが既に囲まれてしまって分が悪い。
「我々はタクトウギルドだ盗人め」
「なんだと!」
そうか!
あれはタクトウギルドの金だったのか! あんな大金を現金で持ってるのはタクトウギルドくらいだ。
だがどうして?
「大人しくしろ、殺されたいか盗人!」
くそっ!
金を持ち逃げすれば良かった!
前の話で、『ウエアル』を『ウエマツ』と書き間違えたところが多く有りました。正しくはウエアルです。