ルタチ、オーリンに現る
『銀の髪の夫婦を訪ねに来た不審者がいました。みるからに怪しいです』
西街道番屋(31歳)
『銀の夫婦を探してる不審者あり』
金物屋店主(44歳)
『銀の髪の強い夫婦を探す怪しい男あり』
食器屋番頭(51歳)
『銀の髪の夫婦を知らないかと訪ねられました。知らないと言っときましたが、あの2人はやっぱり夫婦でしたか?』
瓦屋(56歳)
『銀の髪の夫婦を知らないかと言われたので知らないと言ってやりました。コユキさんは独身です!』
エチゴヤ私設兵団(21歳)
「ユキオ殿、コユキ殿、お主らを訪ねて来てる者がおるのだが」
今俺はコユキとエチゴヤに来ている。
ラララの3回目のホームステイに連れて来たところ。
ラララを女中頭に引き渡し、コユキの師範を始める前にエチゴヤにそう言われた。
「誰です?」
「ウエアルの領主の使いだと言っておるのだが、どうもおかしい。見たことがないと皆言っておる。ウエアルの領主の所の職員はそう数は居ないから覚えるのは楽なのだ。だがその者を皆見たことがないと言う」
「それは怪しいですね」
「しかもだ。職員なら直ぐ奉行所かオーリン様の所に行けばいいだろうに、あちこち聞き込みをして居たようだ。町中で『銀の髪の夫婦』のことを聞き込みしていたようだ」
『夫婦』というキーワードにコユキがこめかみを押さえる。
とても嫌そうだが心外である。
「その男は今どこに?」
「うむ、奉行所におる。お主らに会わせていいか悩んでいた所だ。そろそろウエアルかタクトウのギルドが動き出す頃だと思っておった。奴らの手先かもしれん」
「なんと言ってるのですか?」
「うむ。ウエアル領主からギルドを倒して欲しいとの親書を持って来たのだ。親書の印は本物のようなのだが」
そこでコユキが話に参加する。
「ウエアルの印は本物でしょう。ウエアルはギルドに逆らえません、印を押してくれるでしょう。いえ、ウエアルは逆らえないどころかギルドの傀儡です。しかも領主ウエアルはウエアルギルドだけでなく、タクトウギルドの配下でもあります。そもそもウエアルがギルドを排除することはありえません」
分かっていたが、エチゴヤもコユキも同じ答えにたどり着く。
「罠か」
「間違いなく」
「めんどくさい」
「ユキオ殿、使いを『希望に添えられない』といって追い返すのは容易いが、これが駄目でも、奴ら次も何か仕掛けてくるかもしれん。放っては置けないぞ」
「そうだなあ・・・・」
まいった。
こう言う日はいつか来ると思っていた。
現存するギルドからすれば俺とコユキは倒すべき敵だろうな。しかも相手はギルドだ。どんな汚い手を使って来るか。
銀の髪っていうのはこの世界ではとても少ない。金髪も少ない方だが、銀髪は更に少ない。この世界の8割は濃いブラウンの髪だ。まあコユキの髪の色は元は金髪で銀に染めた色だけれど。
放置して置けば今度は村にまで来るかもしれない。
それは困る。
そして、ギルド潰しに行くとして、既に向こうは待ち構えている。
戦うなら圧勝できるが、ゲリラ戦とかされたらこちらが不利だ。あるいはギルド員1人に1人ずつ町の人とかの人質を抱えて来られたら手も足も出ない。
卑怯者は最強なのだ。
「とりあえず顔を見て見ましょう」
「うむ、頼む」
そして俺たちは中央奉行所に行った。(稽古は休みになった)
奉行所の客間に居るというその男。
俺とコユキは静かに客間の隣の部屋に通された。こういう時の為に顔見の覗き穴がある。
そっと音を立てずにその男を見る。
暇そうにお茶を飲むむさ苦しい男。
あまり上品そうには見えない。
「あ、ウエアルギルドのパシリで来たことある。覚えてる」
はっきりコユキが答えた。
はい、黒です。
ウエアルの職員で使者だというのに、実際はギルド員。話から領主ウエアルも真っ黒だな。
「ユキオ殿、どうする?」
「ちょっと考えさせて」
さて困った。
クロマツのギルド討伐の時は討伐の後に復興する人達が僅かだったが残って居たので助かった。今回のウエアルは領主まで真っ黒、政治を任せてはおけない。
もし、ウエアルギルドとウエアル家を倒したとして、誰が政治をするの?
俺は嫌だよ。
「お奉行様、ウエアルギルド倒したらウエアルも倒さなきゃなんでしょうか?」
「ううむ。困ったな」
「取りあえずギルドだけ潰したら?あとはなるようになるわよ」
「えっ?」
「それはいくらなんでも」
「ギルドが無くなれば今までの権力者は丸裸よ。諦めて領主業をするしかないわ。領主ウエアルに逮捕したギルド員の処刑させれば両者の関係修復は無理でしょ」
コユキ、元ギルド嬢なのにギルドに容赦ねえ。
「コユキ殿、そうだろうか?」
「あら、案外領主も夜逃げするかもよ。そしたらオーリンでウエアル貰っちゃえば?」
「いやいやいやいや、コユキ殿、いくら何でも! それにそうなったらタクトウが黙ってはおらんぞ」
「じゃあ両方。両方倒して両方貰っちゃう?」
コユキ、ぶっ飛んでる!
「いや、コユキ殿。そもそも今回奴らは罠を仕掛けているであろう。安易に飛び込んではいかん」
エチゴヤの言うことは正しい。
「使者の案内通りに付いていったら、大勢から囲まれて弓を射られるとかしたら大変だぞ、コユキ」
「そしたらあの使者も死んじゃう。あ、捨てゴマか」
「そういうこと」
「でも、正式に討伐の依頼を受けたのだし、こんなチャンス使わない手はないわ」
「コユキ殿、だがな・・・・」
「あら、依頼はオーリンへではなくて私達でしょ?私達が決めていいのよね?その使者に会いましょう。大丈夫、罠にはかからないから」
おいおい、俺の立場は?
「コユキ殿、行くのか?」
「夫婦と言った奴をぶっ飛ばしてやるわ!」
奥さ~ん!