ウエアルギルドの底辺ルタチ
僕ははウエアルのCクラスギルド員、ルタチ。もう40歳手前なのに万年Cクラスな底辺ギルド員。
なんの特技も才能もない僕が一攫千金で成り上がるにはギルドでランクを上げるしかないが、気が付けばもう40歳手前。
今日も底辺らしく薬草採取だ。
いつものようにギルドに行き、薬草採取依頼を受け、いつものように森に入る。
いつものように薬草採取して、森を巡回する。
「今日は何もないか」
そして僕は町に戻るために歩き出す。
薬草採取依頼。
それは薬草を採り、薬草採取の山を他者から守る仕事。
薬草にも色々ある。
簡単に採れて価値が低いもの、本数が少なくて価値が高いもの。それらの価値を上げ、維持し、独占する方法はひとつ。薬草採取に来た他者を殺すことだ。ギルドはそうやって価値を維持してきた。
初めて先輩ギルド員と薬草をに来たときは震えた。
人殺し。
半分脅されながら、いや、脅されながら殺した。
初めて手に掛けたのは町の主婦。夫の病気の為の薬草を採りに来た、彼女は悲痛な面持ちでお願いだから見逃して下さいと言っていた。貧乏で医者にもかかれないし、薬も買えない。このままでは夫が死んでしまう。どうか後生ですと地べたに頭を下げて擦り付けていた。
そんな憐れな女に先輩は身体を差し出させた。
命と薬草と引き換えならと主婦は歯を食い縛っていた。
「お前もしろ」
その先輩の言葉に従い・・・・
じつは僕の初めてはその時だ。
終わった後に服を着て、地面に散らばった薬草を丁寧に拾い集める女。辛かったがこれで帰れる。夫に薬草を持っていける。そう思っていたであろう女を先輩は後ろから剣で切りつけた!
女の両足ふくらはぎから吹き出る血!
悲鳴を上げながら倒れ、悶絶し、絶望の表情と憎しみの表情を繰り返す女。
どうして!
ひとり見逃したってギルドにとっては大した損じゃない! 憐れな夫婦のために目をつぶってもいいのに!
先輩は冷たく言った。
「ここはギルドのナワバリだ。他の奴が入るのは許さん。例外は認めない。これは創業者のボーケンシャの作った掟だ」
足元では血の海でもがきながら、痛い助けてと懇願する女。
「もう助からん。殺せ」
失血が酷く顔色の悪くなった女。さっき被さり触ったときの明るい肌はもうない。
「出来ない・・です」
「苦しみが長くなるだけだ。とっととやれ」
この手で人を殺す。
殺したことなんてない。
皆を見返して見下してやると、夢を持って田舎から出て来た結果がこれか。
「・・殺してやる・・殺してやる・・・・殺してやる・・・・・・殺してやる・・・・・・・・殺してやる・・・・・・・・・・ころ・・」
もう死にそうなのに僕らを睨む女。血が無くて動けなくなってきてるのに殺すという女。
「うわあああああああ!」
ザクザクザクザク!
ガツガツガツガツ!
グチャグチャグチャ!
女を剣で斬りまくる!肉の感触、骨の感触、ミンチの感触!
死ね死ね死ね!
消えてなくなれ!
僕は息が切れる程切り続けた。
吸い込むように僕の本能を誘ったあの身体はもう跡形もなかった。あるのは血の滲む肉塊。
許しをこう姿も、肉欲を満たした体も、悲しみの後ろ姿も、全て消え去った。今はただの肉。
「ボーズ。お前もこれで立派なギルド員だ。心配するな。ギルド員は罪に問われない」
あれからどんどん人の心を失った。
そして何人殺そうとも罪には問われない。殺した証拠があろうと罪に問われない。ギルドは国を越える力を持っている。
僕は日々薬草採取をきっちり遂行した。
ーーーーーー
「お帰りなさいルタチさん」
そう言うのはウエアルギルドのギルド嬢。美しく魅惑的なボディを持つ彼女はギルマスの愛人だ。この町の良い女はギルマスのものになる。飽きると幹部や腕利きに下げ渡されるが、僕のところまで来ることはない。
「今晩お食事でもどうです?」
甘い表情をを僕に向けるギルド嬢。僕を誘っている。
食事というがそれだけの訳がない。そのくらい僕にだって解る。
これは噂に聞く重要任務の依頼。
ギルマスの女、ギルド嬢を一晩差し出されるということは、僕が何を犠牲にしても完遂しなければならない仕事を言い渡されるという意味。ギルマスの女を抱いてしまったなら失敗は許されない。
だが終われば高額報酬とランクアップが約束されてるようなものだ。
40歳ももうすぐなのにまだ底辺な僕にやって来た大きなチャンス。
どうする?
「た・・」
「た?」
「楽しみにしてます」
上ずりながらそう答えた。
そしてその夜、言葉で言い表せないような熱い時間を過ごした後、ギルド嬢は言った。
「オーリンに行って、ギルド潰しの銀の夫婦を見つけてウエアルまで連れて来て頂戴。ルタチさんには今回の任務では、ウエアル城職員として振る舞ってもらいます。既に役職は本物を用意しました」
「銀の夫婦・・・・」
オーリンに潜伏すると噂されるギルド潰しの仮称。
たった二人でオーリンギルドとクロマツギルドを潰した夫婦。それもそれぞれ一晩でだ。強いのは間違い無い。伝説のボーケンシャほど強いのだろうか?
「ルタチさんは連れて来るだけでいい。手柄を焦って戦わないで。貴方一人で勝てるなんて思わないで。強いのだから騙し討ちも不意打ちもそうそう通用しないでしょう。だけれども、銀の夫婦は私達の敵だから倒さなければならない」
「具体的に僕はいったいなにをすれば」
「銀の夫婦討伐作戦の準備は進んでるわ。明日説明します。今は夜を楽しみましょう」
また誘われた僕はギルド嬢の身体を隅々まで記憶に刻みつけようと決意した。
一方、ギルド嬢は再びベッドに登ってくるルタチを見て心の中で呟いた。
『キモッ。早く死ねよ』