桜満開
おおすげえ。
異世界初の桜の花が咲いたよ!
しかも成木で!
村を桜の名所にしたかったのと、桜餅の葉っぱが欲しがったので桜の木が欲しくなった。
ヤマゾンとか通販サイト漁ったが、苗木ばかりで成木が無い。
仕方なく三本の大苗を取り寄せた。それも大苗の中の大きい奴ばかり選んで。
俺にはひとつの仮説があった。
『ヒールをしている空間は時間の進み方が違う』
傷をヒールで治していると、まるで傷の再生動画を高速再生しているような治癒をしている。それを見て思っていたのよ。まるで時間が早く進んでるみたいだなと。そんでもって、一緒にヒールの青い光に包まれればその空間毎時間を進められないかな? ヒールは植物を選択対象にする機能はないみたいだけど、この方法で桜の木をでかくできんかな?
試してみました。
ドナーは植えたばかりの桜の木(180センチ)とコユキにズタボロにされたリエ。
ボロリエを桜の木に抱き付かせ、ヒール開始!
「ヒール、選択」
ボロリエが青い光に包まれる。そして光は桜の木の大部分をカバーする事になるのだが・・・・
「おお!でかくなってる!」
「本当に?」
「誰か高さ測って!」
「ちっと伸びてる!」
「葉っぱ増えた!」
「コユキ、もう一度リエを斬れ!」
「ちょっと!」
ボロリエの生傷の様子を見るに、あの怪我が完治するには一ヶ月は掛かったろうから、一月時間が進んだとみていい。木は少ししか高くなってないが、小枝が増え、葉っぱがわさわさ増えた。
効果あり!
「リエ!そこに座れ!コユキ切れ!」
「おっけー」
「まてまてまて!」
もう一度ボロリエ作ろうと思ってたのにリエに拒否された。
ううむリエめ。
早く満開の桜を見たいのに。
それを見ていた村長が俺に言った。
「最近目が霞んで、腰も痛いんじゃ」
その村長の言葉を聞いたリエがホッとして、コユキが物足りなそうに刀を鞘に納める。
「村長、それならお任せを」
「おお、頼む」
そういってまだ細い桜の木に抱きつく村長。輝く青い光!
村長の腰痛と目の霞で45秒使用。また木が繁った!
それからは村人片っ端から声を掛けた。喉が痛いとか小傷だとか痔だとかいろいろやって来た。これも全て桜の木の養分!
中には、「最近疲れが取れない」と言っていただけなのに15分も光った女性がいた。ひょっとして癌だった?
そして、健康そうな奴等までやって来た。筋肉増やしたいとか背を高くしたいとか。そうすると女の人も後に続く。女の人は理由を言わない。ありゃ、ラララまで並んでるし。なんか順番待ちの列すげえことになってる!
もうね、裁ききれないから、「願いはひとつまで!」って制限つけてオプション付きヒールもやりまくった。
ほぼ1日これしてた。
すげえよ。村とのラーメン屋から見える小高い丘に満開の三本の桜。
ええと、桜が咲く条件ってなんだっけ?と疑問に思ったけど咲いたものは咲いたのだ。しかも満開。
村人全員でうっとり桜を眺める。立派な成木になった桜の木はピンクの曇を纏ったように空間を支配する。そしてピンクの花びらが落ちると地面もピンク。
「綺麗」
とある村の女性が呟いた。
皆同じ事を思ったろう。
心洗われる美しい光景。
何かしたい。そんな衝動に駆られた。
「皆さん、花見をしましょう」
「花見?」
「皆さんの協力で立派な桜が咲きました。今日は特別に宴をしましょう。料理は私が出します、さあ!」
「おお!」
俺のオゴリということもあって喜ぶ村人達! 並べられるちゃぶ台。
「なら、鍋ね!」
コユキの目がギラリと輝いた。
そして男衆はどこからともなく酒を出す。酒のへそくりか!
始める前から盛り上がってきた。そうだな。鍋の〆はラーメン入れようか。
ーーーーーーーーー
ここはオーリンでもクロマツでもない町、ウエアル。
以前はマツシタという町だったが、領主が変わりウエアルと名前が変わった。
そのウエアルのウエアルギルドの豪華な一室。
「なるほど。一晩でクロマツギルドを潰したのは銀の髪の夫婦か」
「ああ、何人か他にも居たらしいが戦ったのはその夫婦だけらしい。しかもその夫婦はオーリンギルドも潰したという話だ。余程強いのか何か武器が有るのかはわからん」
豪華な部屋で座って話をしているのはギルドマスターとSクラスギルド員の剣士。
隣のクロマツでのギルド殲滅の様子はこのウエアルにも入ってきている。ただ、クロマツのギルド員が皆逮捕され本当に欲しい情報が手にはいらない。
このギルドではギルド員は個人事業主として活動をする。収入が悪いからと言ってギルドは救済はしないし、仕事が捗り収入が上がればそれはそのまま儲けになる。
ギルドマスターと話をするSクラスギルド員。彼は10年前にこのギルドに流れて来た。とてつもなく強く慈悲もない。恨みがなくても平気で人を斬り殺せる男。彼のお陰でマツシタの町はギルドの手中に落ちたといっていい。その後、領主マツシタは破産失脚しギルドに逆らえないウエアルが領主となった。どんな強い貴族の用心棒も奉行所の剣士も彼の刀の錆びとなった。
彼の名前はタケオ。
「強い夫婦か」
「ああ。やれるか?」
「俺は無敵だ」
この言葉は他の人が言うならなら制するだろうが、タケオがいうなら疑わない。それほどまでにこの男は強い。まるで伝説のボーケンシャと言われるほどだ。
一方、タケオは一人の女を思い出していた。女でありながら神童と言われた鬼斬りの元に生まれた娘。男に負ける体格の筈なのに誰もその女に敵わなかった。若くして男勝りとなり、大の男も打ち負かす少女。俺の女になれと迫ったが叩きのめされた。徹底的にカラダを鍛え腕を磨いてて、もう一度屈服させるべく足を運んだら居なくなっていた。裏の噂でオーリンのギルドに入ったと聞いた。ギルド員には手は出せない。そして良い女はギルドに入ればそういうことに使われるのは当たり前。戦わずして諦めるしかなかった、既に手垢だらけの女だろう。生きていれば30歳くらいか。
生きていればだ。
オーリンギルドは銀の髪の夫婦に潰され全員逮捕されたと聞く。あの女は金髪だ、銀の髪の夫婦とは違う。そしてギルド員は皆獄門だったと聞く。
ならば、あの女も生きては居ない。
コユキも負けたのか?
俺の物にする筈だった女。
「ギルマス、本当に仕掛けるのか?」
「ああ。大人しく待っていれば向こうは有利にギルドを潰しにかかる。奇襲を仕掛けた方が有利だ。こちらの土俵でやらせて貰う」
「まあいい。報酬は弾んで貰うからな」
「頼りにしてるぞタケオ」
「ああ」
そう返事をしながらタケオは銀の髪の女が気になっていた。勿論ゲスな理由で。