桜餅
ラーメン屋の建築は順調だ。
俺んちや、愛の部屋、その他の小屋を作って、技術が向上したガガガ率いる男衆。その技術でラーメン屋に取りかかったものだから、完成してないのに完成度の高さがよく分かる。
そして、木が伐採された所は畑になった。因みに切り株は放置。そんなものいちいち引っこ抜いてられない。
そして、番屋の工事も始まった。場所は村に向かう道の左側。因みに道の反対側から奥に入ると俺んちだ。一応お互いに家は目視出来ない距離にある。もう少し離れてほしかったがしょうがない。道から離れすぎると番屋業務の関係上うんたらかんたらとか言ってた。
番屋の工事はすべて奉行所が手配するとのことで、材料も町から持ってくる。だからどうしても運びやすいように柱が細く短くなる。それでも結構な量だから番屋製作の最大の労力は材料運搬かもしれん。
そしてリエは修行に励んでいる。
なんの修行かというと、まず剣の修行。自主トレしたり、コユキにぶっ飛ばされたりしながら日々鍛えている。女性に習うのだから女性の身体の方が良いはずだと言ってるが、ついてるんだよなあ。
もうひとつ、料理の修行。
タカは厨房要員ではないができた方がいいに決まっている。目下の目標は番屋の大工さん達に、ラーメンを振る舞う事だ。大工さん達もなにか食わせて貰えるかなと期待してるに違いない。
それと、タカが頑張っていること。それはリエになりきること。
その練習風景がなかなかアレだから見ないことにしている。その風景を見たコユキが愚痴を言っていたが、俺のもとの世界で言ったなら『差別だ!』と言われる内容だ。
ラーメン屋のラーメンは俺が居る時なら全てをハイクオリティに作って出せるが、俺が居ない時の事も考えて、乾麺から上手に作る必要もある。タレも流石にゼロからは作れないが、保存出来る調味料から作る練習もしている。これで常温保存の材料でうまいラーメンが出来れば万々歳である。
この村に大型冷蔵庫が有れば色々解決するんだが、流石にそれはオーバーテクノロジーだろう。
ラーメンに必要になるもので鮮度が必要なモノ。それは肉。
豚、牛、鳥、何でも良いから肉は欲しい。ついでにガラも出汁にしたい。
俺の左手があればどれも解決するが、俺が居ない時の事も考えないと。
と、言うことで鳥くらいは直ぐ入手出来るようにと、村でひよこを飼うことにした。ひよこの入手ルートはヤマゾン。ところでひよこってどの位でデカくなるんだ?
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今日は二回目のラララのホームステイのお迎えの日。そして、コユキの師範の日。
俺はといえば、コユキの師範の様子を見ながらエチゴヤとお茶を飲む。いつもと一緒。
「ユキオ殿。先日頂いた菓子について話があるのだが」
菓子?
いつもの生八つ橋?
違うな。ラララを連れてきたときに女中頭にお土産で持ってきた『桜餅』のことかな?
あれは殿方でなくて、女中さん達用に持ってきたのだけど、このおっさんも食べたんかい。
「桜餅のことでしょうか」
「ああそれだ、あれは美味かった。八つ橋といい、ユキオ殿の持ってくるものはみな美味い。それでな、女中頭が作り方を知りたいというのだ。いや、解っている。あれのレシピは極秘なのであろう。だが、女中頭が聞いてみて貰えないかとな」
困った。
秘密にしている訳じゃない。八つ橋も桜餅も作り方なんて知らねーよ。
しかもこの世界で作る方法なんて知らねーわ。
披露した日本の料理とかのレシピを知りたがる現地人。異世界物語あるあるだ。そして俺もチャレンジャーは嫌いじゃない。
ここでこの世界に無いものをまた作ったら、製法を確立したら歴史が変わる? 世界が混乱する?
知ったこっちゃねーや!
「女中頭を呼んで頂けますか?」
「いいのか?」
「手掛かりだけ差し上げます」
「わかった!すぐ呼んでくる!」
そう言うとエチゴヤは部下に頼まず自分自身で女中頭を呼びに行った。すげえわ。きっと、自分が食いたいんだな。
たいして待たずにエチゴヤが女中頭を伴って戻ってきた。
エチゴヤは元の椅子に座り、女中頭は立ったまま。そして女中頭がいつになく興奮している。まるで合格発表待ちの受験生のよう。
「いつもラララの面倒を見てくださり有り難う御座います。お陰でラララも立ち振舞いが美しくなって来ました。これも貴方のお陰です」
「有り難う御座います。私は一通り教えはしましたが、出来たのなら、身に付いたのなら、それはあの子の努力です。私よりもラララを誉めてあげてください」
イイ人だなあ。
さて本題だ。
「お奉行様からお話は伺いました」
そう言いながら懐から一冊の本を取り出す。エチゴヤが席を外した隙にヤマゾンで取り寄せた本だ。(新品)
それを女中頭に差し出す。
「ユキオ様、これは!」
驚く女中頭。
エチゴヤもガタンと席を立つ!
そう、それは和菓子の作り方が書いてある料理本。内容もだが、この世界にとって本自体がテクノロジーの塊だ。ツルツルの紙にカラー写真。真四角な本に写真イラスト文字が並び、配列に綺麗な平行と直角が出ている。
だが、文字が日本語なんだよなあ。読めないよな。
「これは私の宝のひとつですが貴方に差し上げましょう。作り方を知りたいと思っているだろうと用意しておりました。(大嘘) この本を書いた作者の環境とこの町の環境、食材は違いますが、きっと参考になるでしょう。私が差し上げた生八つ橋や桜餅と同じものは出来ないかも知れませんが、読めば何か発見も有るかもしれません」
つまり、出来ようが出来まいが、俺には知ったこっちゃない。俺も作ったことねーし。
でもこの本自体は凄い価値があるだろな。
未知の情報媒体に食い入る女中頭。
どっしりと座っているべきエチゴヤが我を忘れて立って、女中頭の手にある本を横から必死に覗きこんでいる。
「こんな凄い本があるとは!なんと美しい本だ!」
衝撃で声がうわずっているエチゴヤ。だが、エチゴヤは無視。
「これは女中頭に差上げます。貴方個人にです。とても貴重なものです。誰かにあげてはいけません。たとえ上司のお奉行様でも駄目です。たとえオーリン様に言われても渡してはいけません。お奉行様、これは守ってください」
「ユキオ殿、あいわかった」
「ユキオ様、これは我家宝にいたします!」
「頑張って桜餅に挑戦してね。楽しみにしてます」
無理だよなーしらねー!
でもどうなるか楽しみだわー!
少なくともこれで女中頭もこっちに引き入れた。味方は賄賂で増やすべし!
そういや、桜餅作るとして、桜の葉が無いよな。
よし、植林しよう。木を伐るだけじゃいかんよな。葉っぱも手にはいるし、桜が咲けば観光名所になるかもしれん。
帰ったら早速桜じゃ桜!