求職者タカ
就職希望者の名前はタカ。
24歳の独身男性だ。面接は終わった。
ユキオとコユキは頭を抱えていた。
「断れない・・・・」
面接のあと、村の案内を村長に頼み、ユキオとコユキはテーブルに突っ伏した。
あの日、ナオト討伐のあと、救出した夫婦を見送った。きっと二人は立ち直る、そう信じていたのに。
あの時の夫婦はズタボロだった。夫は身体的に、奥さんは女としてボロボロだった。だが夫婦の絆はしっかりしているように見えたのだ、あの時は。
傷を持つもの同士で助け合い思いやりあい少しずつ前に進むと思っていた。
あの時こっそり重症の夫にヒールすることも出来たが、夫だけシャキンーンと復活したら奥さんだけが惨めになる。奥さんは体の傷より心の傷だ。心の傷は直せない。
歩けるようになったけれども動かない右腕。他にも後遺症はいくつかある。とても剣士としては働けない。それどころか町の商人にも工房にも就けない。生きては居るがタダ飯を食らうだけの存在。
奥さんは必死に夫を支えるが、それがタカには辛い。
そして、事件を知った妻の家族は二人に離婚をしろと迫った。事件が知られるのは仕方ない。あの大捕物は夫婦の家で行われたのだから、奉行所は奥さんの為に色々非公開にしたが、噂は簡単に広まる。実家に知られたのは当然だ。
そもそもあの事件もタカが悪い訳じゃない。悪いのはナオトだ。それは親御さんもよく判ってる。だがまだ若い我が娘をタカの元にはおいておけない。娘には未来がある。まだやり直しがきくのだ。タカもそう思った。
幸い、歩けるようになった。要職には就けないが細々と一人でなら生きていけるかもしれない。
妻、名前はフミだが、フミは泣いた。愛して愛されてると疑ってなかったが、話し合いの後「実家に戻りなさい」とタカに言われて全てを失った気がした。何が悪いかは解ってる。何を思ってくれたかは解ってる。タカの辛い想いもよく解ってる。
だが、言われてしまったとき、ぷつりと糸が切れてしまった。タカと生きていく、タカを支えるという強い意思の糸が切れた。
二人は離婚した。
ユキオは頭を抱えた。
「あのとき、ヒールかけとけば・・・・」
とはいっても、奉行所の剣士や岡っ引きがいる前でヒールは使えない。ああすれば、他の時にとか色々思うが後の祭りである。
一方コユキはコユキでもう何度目かという懺悔の想いに潰されそうになっている。
これも元はと言えば自分が所属してたギルドが発端。
ラララとガガガに打ち明けるだけでも身を潰されるような思いをしたのに、また・・・・
この夫婦の破局は自分のせいだと苦しんだ。
コユキは悪くないと言えなくはないが、今のコユキは自分も悪いと落ち込んでいる。
そして問題はまだある。
当初、女性店員を希望していたのだが、求人票への記載漏れで男が来た。それはまだいい。女性がいいと言ったのは単にユキオの好みだ。
そして、タカは暗い。
解る。
色々有ったし。
だが、接客業でその暗さはかなりキツイ。
そして右腕が使えない。
いくら店員でも健常な手は必要。
ヒール再生で腕生やすという手段もあるが、その為にはこちらのアレコレを全て受け入れてもらわなければいけない。それこそ、コユキの過去まで。うちのチームに入るなら情報は共有するつもりだ。
そして、不自由な体が原因で離婚したのにホイホイ腕が元通りになったのでは辛すぎる。
腕が直るなら奥さん迎えに行けばいいじゃない!
それこそ奥さんもチームユキオに引き込んで!
とはいかない。
「先日、フミは新たな夫と祝言をあげました。私は見に行きませんでしたが、無事祝言が終わったと聞きました。相手は優しい方で心の傷を負ったフミに優しくして下されているようです。私は知りませんでしたが、旧知の男性だったようで、その方はちゃんとフミの心と身体を愛しく思って下されてます。今は二人の幸せを祈っております」
もう何度目の爆弾投下。
「もう戻れねえよなあ・・」
「そうね・・」
つまり新しい夫から見れば、フミは愛する幼馴染で、フミを好きだったのにタカにかっさわられて、紆余曲折有ったけど再会して結婚出来たと。しかもフミに心の整理がつくまではセックスを強要しないくらい優しい。
ここでタカを焚き付けて復縁の行動させようものなら、新たな悲劇的修羅場幕開けになる。
「どうしよう・・・・」
「あたしに聞かれてもわかんない・・・・」
「なあ」
「なんです?」
「取りあえず村長に預かって貰おう」
「先延ばしね・・」
「そうとも言う」
そしてユキオはタカのことは村長に、暫く考えたいから泊めてくれと頼んだ。タカは雑用でも草刈りでも何でもしますと頭を下げた。そして宿泊は愛の部屋である。
そして。
今日はラララの最初のホームステイが終わる日。
コユキの師範の日。
「おお、ユキオ殿。村の番屋への職員が決まったぞ。しかも夫婦でという好条件だ。地方勤務希望という貴重な人材だぞ。どれ、紹介しよう」
嬉しそうに報告してきたエチゴヤ。
ユキオとコユキは頭を抱えた。
そこに居たのは訳ありの新婚夫婦だったから。