ラーメン圧勝
奉行所。
いつものように空き缶を納めて、いつものようにエチゴヤと雑談。そしていつものように差し入れは生八つ橋。
空き缶はそろそろオーリンの商人や工房に行き渡って需要が落ちるかな?と思っていたがそうはならなかった。
「ユキオ殿。缶がもっと必要になった。どんどん持ってきて欲しい」
「何故です?」
「うむ。先日クロマツから申し入れがあったのだ。我がオーリンが使ってる計量容器が欲しいと。クロマツからオーリンとの交易はオーリンの基準に合わせるとな」
「いいですよ。ですが今のペースでしか用意出来ませんからオーリンに使うのとクロマツに渡す分の配分はエチゴヤ様が決めてください」
「あい分かった。それとな」
「それと?」
「ラーメンを食したいのだが」
「・・・・・・」
「うちの若い衆がコユキ殿の合宿中に珍しい村料理を色々馳走になったと言っておるのだが、特にラーメンとやらが絶品だったと聞いておる。それはもう凄いと」
「あの、うどんというものも大変美味しいですよ」
「いや、うどんではない。ラーメンだ。普段は冷静な男が我を忘れたようにラーメンを語るのだ。いかに素晴らしいかどれほど感動したかをな。特にニンニクラーメンが絶品だと聞いた」
きっとニンニクのせいだ。
ニンニクを入れると人間の食欲スイッチが強制ONになるせいか!
くそっ!
俺の味方は居ないのか!
「ということでな、私も是非ともラーメンが食べたいのだが・・・・」
「いやまだ店は未完成でメニューも調整中でお客様を受け入れる訳には・・・・」
「いや、粗相など気にせぬ。金なら払う!ああそうだ、コユキ殿にお願いして次の合宿を組んでもらおう!私も行く!寝所が整ってないなら日帰り旅行でもよい!」
「ちょ、お奉行様、旅行って、仕事仕事!」
「仕事など、いや、これも仕事だ!そう、地方の視察だ、立派な仕事だ!部下の修行環境視察に地方の視察。立派な仕事だ!そうだ、合宿はまたでいい。視察だ視察!」
「あのう、うどんも・・・・ 」
「うむ、ラーメンが楽しみだ」
そして奉行エチゴヤの村視察は2日後に決まった。そしてその帰りににラララをエチゴヤ邸に連れていくことに決まった。まずは一週間エチゴヤ邸にホームステイ。
善は急げとばかりにエチゴヤはまだ俺が居るうちに当日の視察団人選に入ったのだけれど、既にラーメンの噂が広まっていて、志願者が相次いだのだ。村は小さいし受け入れ人数のキャパは小さいし、俺とコユキが居る村は護衛の心配もないから護衛も少なくてよい。そして日帰り。視察団の頭数はそんなに必要ないということで7人になった。馬車二台分の定員8人引く1人。(帰りにラララを乗せるため)
そして、エチゴヤ以外の6人は志願者が相次いだために、くじ引きとなった。
エチゴヤがくじ箱から次々と番号札を取る。
「25番! 次、11番!・・・・」
「うおお!あたったあー!」
「まだかあ!」
「こいいいいい!」
番号札握りしめた男達が吠える!
なんの宝くじ発表だよ。
ーーーーーーー
そしてその日はやって来た。大変良い天気。
村に二台の馬車が現れる。
中からエチゴヤ一行が降りてくる。
「ようこそおいでくださいました」
俺は一行の先頭のエチゴヤに頭を下げる。
「ユキオ殿、今日は世話になる。今日という日をどんなに楽しみにしていたか」
たった2日ですが?
「まだお昼には早いので村の視察を」
「おお、そうであった」
「お奉行様、こちらが村長のリリイさんです」
奉行エチゴヤに向かって頭を深々と下げる村長。
その脇にコユキが立つ。
そして村長が挨拶をする。だが村長の言葉は田舎訛りが強すぎてエチゴヤには理解できないので、コユキが同時通訳する。
そして、エチゴヤが返答するとコユキがまた同時通訳で村長に伝える。
めんどくせえ。
エチゴヤの家臣の中には田舎語も理解する者も居るが、エチゴヤ本人はさっぱりだ。
そうしてエチゴヤ一行は村を見て回る事になった。
質問攻めになると面倒なのでチェーンソーとウインチは片付けてある。
エチゴヤが視察してる間に料理の準備。リクエストはラーメンとだけ言われてた。今回は麻婆ラーメンとニンニクラーメンの二種類
。村の試食会では野菜載せは村料理と変わらず真新しさが無いとなって、カレーラーメンは汁跳ね被害の心配から見送られた。
そして、ニンニクラーメンを食べた後の匂いがかなりキツく、麻婆ラーメン勢に迷惑をかけると言われたが、そこに新兵器を投入して解決を図った。
それはニンニクたっぷり餃子!
全員に餃子を喰って貰えば皆ニンニク仲間!
これで解決!
因みにこの世界にはニンニクは無いのか知られていないのか、料理に使われてなかった。村ではこれからニンニクを生産する予定。うまくいけば特産品になる。
そして、遂にその時が来た。視察は普通に終わり、用意されたテーブルにつくエチゴヤ一行。
一同の前に並ぶあつあつのラーメンと餃子。
「さあさあ、おめしあがり下さい!毒味の必要はありません。熱いから口を火傷しないように。ですが待っていると味が落ちてしまいます。美味しく食べるコツは火傷しないギリギリの速度で食べきる事です。どうせここは村です!すする音も作法も気にせずどうぞ!」
「では頂こう」
エチゴヤの言葉を合図に一斉にラーメンに飛び付く男達。
最初は熱さから恐る恐る食べていたがどんどんペースが早くなる。初めてのもちもち麺に濃い味の汁。ニンニクあるいは麻婆のアクセントが刺激的。餃子も旨い!
今日は暑いくらいの日なのに熱いラーメンをノーブレーキで食べる一同。
お、エチゴヤが箸を使っている。コユキの推測だと身分の高い人は暖房で炭を使うことがあるのだそうで、そういう人は火箸を使えるんだそうだ。
「ぷはぁ、たまらん!」
空になったどんぶりを置くエチゴヤ。大満足のようだ。エチゴヤの選らんだのはニンニクラーメン。息が臭い。
他も次々と完食し、皆満足している。
いや、まだ食べたがっている。多いから無理だと思うよ。
「ユキオ殿、とても旨かった、満足だ。毎日食べたいくらいだ」
「毎日は流石に飽きますよ。それに、これはこの村の特産品で他では作れません」(嘘だらけ)
「くっ、今夜も食べたいのにっ!」
「お奉行、流石に戻らなければ!」
「わかっておる、わかっておる。だが!」
「ところでお奉行様。心配事が御座います」
「なんだ?ユキオ殿」
「このラーメンはこの村の者しか作れません(嘘)それを狙って村を襲撃したり誘拐したりする者が現れるかもしれません。私もコユキも常にこの村に居るわけではありません。つまり何が言いたいかと申しますと」
「守って欲しいと言うのだろう?」
「話が早くて助かります」
「店を開業予定と言っていたが、そうなれば人の行き来も増えるのだろう。ならば将来この村にも番屋を置こう」
「それにはひとつだけお願いが御座います。番屋に詰める者は交代制でなく、住み込み、いえ、定住していただける方が良いのですが」
「ほほう。レシピを守ろうという算段かな?」
「ふふふふふふっ」
「ふははははは!」
実際はレシピどころかこの村は秘密だらけなんだよな。定住してくれるならこちらに引き込める。交代勤務はちと困る。
「まあ、ユキオ殿の希望に沿うようにいたそう。ユキオ殿に不評をかってラーメンが食べられなくなったら取り返しがつかん」
「有難う御座います」
これで目的は達成した。
村の安全にエチゴヤも一肌脱いでくれたしよかった。
出来ればうどんの力で達成したかったなあ。
ー ー ー ー ー
そして、エチゴヤ一行が町に帰る時間が来た。
出発前のラララと向き合うコユキ。
「風邪引かないように気を付けるのよ」
「大丈夫よ」
「泣いちゃ駄目よ」
「子供じゃないったら」
「手紙書いてね」
「たった一週間よ」
「辛かったら帰って来てね」
「おいコユキ殿、うちをなんだと思っとる。安心召されい」
ああ、コユキが子離れ出来てない親状態。
コユキはしまいにゃコユキ号に乗り込もうとした。ついていく気か!それを村長と慌てて止めた。なんて駄目親。
そして、馬車はラララを乗せて去っていった。
頑張れラララ。
あ。
あの馬車の中はニンニク臭いだろうなあ。すまんラララ。