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村の新たな試み

 久し振りに村に帰って来たよ。


 帰りのオーリン行きの馬車に相乗りしようとするサクラ姫をあーだこーだと説得して諦めさせて置いてきた。

 復興の大事なときに次期領主が町を空けるとはいかんでしょ。


 サクラ姫の目的は俺・・・・と言いたいところだけれど、それはあくまで表の理由で、真の目的はコユキの寝込みを襲うことに違いない。


 以前『コユキは俺に忠誠を誓った者』と言ったら、『ならばサクラの全ての穴をユキオ様に捧げますから、コユキ姉様の穴を全て下さい!』などとワケわからんことを言ってきた。


『あ、それとサクラはユキオ様の物です!だからサクラが領主になった暁にはクロマツはユキオ様の物です!』

 ちょっと、待て!

 話が重すぎる!

 俺はのんびり生きていたいだけで、偉くなりたいとか権力が欲しいとか考えてないから!

 もうマイホームもオーリンの田舎の村にあるし!


『ユキオ様。難しい話は取りあえず置いておいて、一回ヤりましょう!』


 おおっ、魅惑的なサクラ姫の体にフラフラと・・・・

 と、思ったけど思い止まった。協力者三人の言葉を思い出したのだ。この世の天国と引き換えにきっと魂をサクラ姫に奪われる!

 最後にはサクラ姫に支配される!サクラ姫の母上は恐ろしい戦略家かもしれない!


 アブねえ!


 そして後ろ髪引かれるけど、サクラ姫を振り切って帰って来た。



 ああ、懐かしき我が家。

 

「帰ったよー」


 久し振りの我が家の中はあんまり変わって居ないけど生活感がでてきている。


 ギィー


 奥の部屋のドアが少し開いて、コユキが細ーい隙間からこっちを伺ってる。心配事は分かってる。


「はあ大丈夫。サクラ姫は居ないから」

「良かったあ」


 安堵の溜め息をつくコユキ。もしサクラ姫が俺の後ろに居たならばドアを閉めて閉じ籠ったに違いない。


「ラララは?」


「今そこで字の練習中」


 そこと言ったのはラララとコユキの部屋のこと。コユキが籠城したらラララも一緒に籠城する羽目になったに違いない。


 どうやらラララは文字が書けない読めない、計算出来ないと、かなりアレなようだ。村に籠ってるならそれでも生きていけるが、多分これからはそうもいかない。今でもラララと村の皆の間に心の壁はある。前よりは良くなったとはいえ、ラララは村では生きづらい。

 なら、ラララはある程度町に行き、そちらでも糧を得ながら生きなければならない。ならば読み書き計算は出来ないといけない。

 幸いここにはコユキが居る。戦いで強いだけでなく、事務職経験者のコユキ。しかも、田舎言葉、貴族言葉、武家の言葉を話せるスーパーマルチウーマンだ。

 俺は神の依怙贔屓能力で全ての言葉を聞き取れるが、ラララやガガガとは領主オーリンとは会話が成り立たないだろう。訛りどころじゃなく、単語や接続詞すら違って言葉の雰囲気すら伝えられない。元は同じ言語なのにね。サクラ姫も逃亡生活の期間に庶民の話が少し解るようになった程度。


 改めてコユキは有能なのである。剣士、事務職、交渉術、通訳なのだから。だが料理はからっきし駄目だ。



「ラララどんな感じ?」

「頑張ってるわ。少なくとも町のお店で説明文読めてお金の計算出来るくらいは覚えないとね」

 うむ。

 ラララがひとりでお使い行けるようになったら新たにラララ号も要るのかな。


「じゃ、ラララを頼む。ちょっと村長のとこ行ってくる。お昼ご飯は要らないから」




 さてと。



 村に行くとなにやら小屋が建築中で現在は放置。今日は建築でなくて畑仕事の日なのかも。

 木を斬り倒し、そこに平屋のアパートのようなものを作っているのだけど、以前言ってたガガガ邸?


 村長発見。


 村長はひとりで落ち枝を拾って纏めている。薪にするのだろう。他の者は皆畑らしい。


「村長、只今戻りました」

「ユキオか。コユキから聞いたがお前さんは物凄い事をしたようだのう。まさかギルドをまた倒すとか。わしには想像もつかんわい」

「成り行きですよ」

「成り行きでギルドを倒すとか、簡単に言うがそう出来ることではない」


 まあ、成り行きなんだけどね。そしてそのせいで色々この村にも迷惑をかける。


「村長。そのことでお話があります」

「そうか。なら昼飯にしよう。食べながら話そうじゃないか」


「それについてもご相談が」


 今日はこのためにここに来た。





 ーーーーーーー




 ことん。

「どうぞ」


「これは?」


 ざるの上に乗った不思議な白い長い食べ物。

 それと付属品の黒い汁。


「私の真似をして食べてください」

 俺は箸でそれを掴むと黒い汁のなかに浸けた。それを汁から上げて食べる。


 俺の好物ざるうどんだ。


「ほほう」


 村長は俺と同じようにうどんを箸で掴みめんつゆに浸けて食べてみる。意外にも村長は箸を使える。日本人程器用ではないがちゃんと二本の棒を使っている。そうか、箸は山とかでその場で手に入るので、即興で食器として使う事も考えられる。

 個人的にはざるうどんも温かいうどんも両方好きだ。あの食感、醤油ベースの汁。天ぷらなんか横にあったらもっといい。生卵もいいし、キツネもいいな。

 果たして村長の感想は?


「美味いな」


「今まで食べたことは有りますか?」

「ない。初めてだ。これは美味い」


 村長の美味いという言葉にほっとしつつ、話を始める。


「これはうどんと言うもので私の故郷の食べ物です。私はオーリン、クロマツを回って来ましたが、どこにもうどんはありませんでした。これは他の人にも受け入れられると思いませんか?」


「うむ、そうだろう、皆食べたがるだろう。これは良いものだ。ユキオよ、これをどうするのだ?」


「私はこれを村を守る武器にしようと思っております」


「武器?食べ物が?」


「今から詳しく説明致します。先ずは食べてしまいましょう」


「そうだな。折角のご馳走があるのだから」


「それから」


 後ろの物陰に二人の影。

 やっぱり居たか。

 しかも、隠れているようで隠れてない。わざと俺が気付くようにしてただろ()()()。ラララも。


「ほら、出てこい」


「あの、偶然とおりかかって・・・・」

 その偶然はない。


「私は止めたんですけど・・」

 ラララがゲロった。


「はいはい、偶然ねえ。ほら食え」

 俺はラララとコユキにもざるうどんを出す。

 俺の左手をガン見する村長。ラララとコユキは見慣れてるので左手は今更なんとも思ってない。


「これはあの時のですよね」

 ラララは思い出したようだ。初めて会った日に見せたうどん。(食べてはいない)


「そう、うどんだよ。食べてみて」


 四人でうどんを食べる。

 うむ、うまい。

 皆食べてるから好評のようだ。しかしラララとコユキ大変そう。なんてったって、うどんが逃げる。おれは箸を使えるから平気だ。村長もまぁまぁ。

 だけどラララとコユキが全く箸を使えない。箸の先端に握力を伝えられないからツルツル逃げる。かといってフォークを使うにはうどんが太すぎる。コユキはしまいにはフォークでうどんをブスブス刺し始めた。


 結局、絶賛してくれたのは村長。まあまあなのがラララ。いまいちだと言ったのはコユキ。

 食べるときのストレスが多いと美味しく感じないようになるらしい。


「ううん、これはちょっとメニューを考え直さなければいけないな」


「ユキオよ、一体何をしようとしてたのだ?」


「はい、それはーーー」


 俺は計画を話し始めた。

 俺があちこちで活動すると、出身のこの村に注目が集まるようになる。この村を見る奴の中には物騒な奴らも居るかもしれないから、村の防衛はこれから大事になる。いつも俺がここに居れれば良いのだけど、留守にすることもある、それはコユキも。

 村人に武器を渡し、訓練をして自警してもらう事も必要だが、それだけでは足りない。

 ならば、オーリンの町の人々に少しでも守って貰えば、色々有利になる。

 守って貰うためにはこの村に『守るための価値』が必要だが、俺はそこでこの村に『食の都』としての価値を付けようとしたのだ。

 この村を失うと美食を失う。敢えてその食材は村の外に売らず広めず、ここに来なければ食えないようにと。そんな理由でもこの村を守る価値になると踏んだのだ。歴史を見れば人の値段は等しくない。明らかに守られる人は居る。その守られる理由は倫理的社会的理由が多いが、案外『依怙贔屓』が多い。

 そして、食の都、いや最初は食の秘境として有名になればこの村の収入にもなる。


「それでユキオはうどんをこの村の名産にしようとしたのだな」


「そうなんですが、ちょっと困りました。うどんが思ったほど好かれないかもしれない」


「うむ、ユキオの言いたいことはわかった。メニューについてはまた考えよう。いつも村の事を考えて貰ってすまない。わしらは平穏の為にユキオを追い払うことすら考えていたのが申し訳なくなる」


「いや、それは当然だし、迷惑をかけるだけなら、村を出ることを考えてもいます」


「すまん」


「いえいえ、その時はその時です。しかし、困ったなあ。あのうどんは作るのが楽なんですよ。これを煮るだけだし」


 そういって左手からうどんの乾麺を取り出す。

 そう、さっき試食したうどんは高級うどんではない。

 安い奴。乾麺を煮れば出来上がり。めんつゆだって量産品。乾麺もめんつゆも結構保存がきく。俺が居ないときでも大丈夫。

 この世界には小麦はあるが、高級品で量が少ない。パンすら高価だ。この世界の材料と技術でもうどんは作れるが今のところ作ってる人は居ないし、作り方を知ってる人も当然居ない。うどんを手打ちする作業を見せなければ、世の中にうどんは普及しない。ならばいつまでもこの村の名産扱いに出来る。

 そして、うどんの乾麺をこの村人の食料として渡す気はないのは、俺が消えた時に資金難になることがあっても、食糧難になって欲しくないから。まあ、たまに食べるのはいいけど。



「ユキオよ。外の人間を客として呼ぶのは分かった。だが、店が無いぞ」

「それは家作りに慣れたら作りましょう。私も手伝います」


「それから、町の者をもてなせる人間は居ないぞ?」

「居るじゃないですか」


 俺はコユキを見た。

 言ってる意味判るよね?コユキ。


「ちょ!え?待って!」

 コユキがあわてふためく。

 あれ飲食店は苦手?

 どのみち、店舗もないし、メニューもまだ無い。時間的猶予はある。


「だったら、ラララを鍛えるか、バイト雇ってね」


「ええ・・・・」←コユキ

「うそ・・・・」←ラララ


 うむ、二人は器量よしだからウェイトレスにぴったりだ。そして厨房に立たせると心配だ。


「ユキオよ分かった。店のほうはガガガに相談しよう」

 やはり、家関係はガガガが棟梁らしい。製作途中の家を見ても少し技術が進歩してる。化粧板が手にはいったならば、店もいけそうだ。それは俺の方でなんとかしよう。




「ところで村長、今作ってる家は誰のなんです?」



「ああ、あれは村の夫婦向けの貸部屋(ヤり部屋)だ。今までは森の奥や深夜に声を殺してするしか無かったからな」



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