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クロマツ領主堕つ

「号外!号外!クロマツ様が病死されたよ~!」



 町に響く瓦版(新聞屋)の大声!

 ばら蒔かれる一枚記事に群がる町人。



 サクラ姫は読み捨てられ風に漂った一枚の号外紙を拾う。


 瓦版にはかつての領主クロマツが潜伏先の民家で危険な疫病により死んだと書かれている。だが、無能な領主が死んだだけで、有能なギルマスが町を支えるから心配はいらない。いやもっと町は栄えると書いてある。


「お父様・・」


 既に権力を失った男の死などほおっておけばいいのに、ギルドは敢えて新聞に載せた。瓦版もギルドの支配下。

 つまりこれはクロマツ完全ギルド化計画の完成を意味する。それを知らしめたのだ。


 サクラ姫は民家の壁に寄りかかり号外を風に流し地面を見つめた。空がどんなに青くても彼女の目には美しく映らない。


 領主の死が報道されているということは、ギルドも亡き領主の隠れ家を把握していた。当然サクラ姫は迂闊に近付けない。父親の死に目にも会えない、花を添えることも出来ない。


 クロマツの町の人々はどう考えて居るのだろう。

 ギルド政治に期待をしているのか、仕方ないと受け入れてるのか、瓦版のとうり領主は無能だと思っているのか。ギルドの完全支配したこの町でどう暮らすのか。




 その時一人の特徴の無い男が通りすぎた。


「姫、5-2-11」


 ?


 不思議な言葉を残し去る男。振り向くともう分からない、人混みに紛れた。雑踏でその男がどれだったかもわからなくなった。


「なにかしら?」

「心当たりは?」


「番地・・かも」

「行ってみよう」


 敵か味方か。

 味方であることを祈る。

 支配下の町の中ならギルドは堂々と実力行使に来るはず。何しろ堂々と姫を殺したとして罰する者は居ないのだから。


 姫はわざと回り道をしながら『番地5-2-11』に向かう。俺も続く。そこは商品の無いさびれた商店街、いや廃屋街。ギルドの発展と反比例して寂れた商店街。


『ワラジ有リマス』


 そう紙の看板がある店。ワラジだけでは生きる糧を得るのは無理だ。これはもう、この店はまともに商売をできていないということ。

 見える店の奥には干した雑草で編んだワラジが吊られている。

 俺とサクラ姫はゆっくり店に入る。


『奥へ』

 店の机にメッセージが書かれた葉っぱがある。よりによって紙より安い葉っぱ。


 導かれている。

 ナビの詳細画面を見れば奥に四人居る。

 誰だ?


 葉っぱを回収して奥に。


 ワラジと材料が置かれる物置。誰もいない、その奥か。


 戸を開けて更に奥に。

 奥の部屋に立っている誰か。


「おかー」

「しっ!」


 叫びかけたサクラ姫を制する女性。

 唇を一旦閉じ、女性に抱きつくサクラ姫。

 サクラ姫の母親?

 多分そうだ、似ている。

 他に二人の男と老婆が一人。城の関係者の生き残り?


「サクラ、なるべく小声で」

 女性が小さく話す。

 頷くサクラ姫。


 中に居た一人の男が物置に出る。見張りだろう。一応俺も探知をしておく。

 暫く抱擁する二人。

 何日ぶりの再会なのだろう。相当の期間なのだろうか。


「サクラ、無事だったのですね」

「はい。この方のお陰です。オーリン最強のユキオ様です」

「そうですか。ユキオ様、サクラを連れてきていただき有り難うございました」

「いえ。大したことではありません」

 サクラ姫が俺とオーリンとの関係とか強さとかを熱く語る。サクラ姫は明るい未来を語りたいのだ。しかし、話題はもう一つの重要ごとに移る。

「お母様、お父様が」

「ええ残念です。もうずっと会えていませんでしたが、恐らくはギルドに殺されたのでしょう。疫病というのは遺骸を見せない為についた嘘ですね。このままではいずれ私もそうなります」

 そうだろう。領主クロマツの体には刀傷もあるかもしれない。ギルドは町民には見せずに処分してはいおしまいとしたのだろう。

「サクラはクロマツを捨てなさい。過去も捨てなさい。新たな人生を歩むのです。もうクロマツはお仕舞いです」

「諦めないでお母様。助けを連れてきました。このユキオ様は強いのです。オーリンのギルドをひとりで潰した凄い人なのです!お母様、クロマツを諦めてはなりません」

 再び俺のことを力説するサクラ姫。


 サクラ姫のお母様が俺を見る。俺が強いのは聞いた通りに信じてくれると思う。しかし問題は山積み。

 一人の強者だけではどうにもならない。そう考えたはず。


「サクラ、無理です。この町を出なさい」


 そういってお母様は床の隠しスペースを開けて手紙を幾つか取り出した。


「サクラを匿ってくれる者達の手紙です。彼等を頼ればサクラは町の外で生きられます。名前は捨てる事になりましょうが仕方ありません」


 手紙は三通。それぞれ違う差出人。公共の郵便のギルド便など安心して使える筈はない。何らかの伝で直接渡された物だろう。かなりの危険を犯して運ばれた手紙。それなりの力と決意があるということの表れ。


 手紙の主を見るサクラ姫。

「モリア様、べスガ様、クエイ様も・・・・」

 サクラ姫はぎゅっと手紙の束を抱き締める。


「お母様、この手紙の主はどのような?」

 相手が気になった。


「ええ、この御三方はサクラとかつて縁談が有った殿方です。縁談は消えましたが、今でもサクラの事を気にかけて下さってます。この町の中に住んでいた縁談相手は皆衰退してしまいましたが、この方々は他町の家の者です、恐らくは安全でしょう」


 サクラ姫にはかつて幾つも縁談が有ったという。

 ()()()()()()ら去ってしまった男達のこと?サクラ姫を捨てたのに求めるとか都合よくないか?


 いや、違う。

 もしかしたら、力の有る家の者でもクロマツの情勢を見て手を引かざるをえなかったのかもしれない。今でもサクラ姫を想ってくれてるのなら・・・・



 ここまで来たのだ。

 この人たちを見捨てるなんてできない。もし行動を起こすなら人手は必要だ。




 行動しよう。

「サクラ姫、助けを求めてはどうでしょう?考えが有ります」

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