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考えても作戦は思い付かない

 出発だ。


 俺はサクラ姫と二人でクロマツに向かった。


 ジャンはエチゴヤ邸に居残り。

 そして、オーリンからは別動隊で潜入班が出た。

 今は公式にはオーリンの活動は無いことにする。俺の活動がうまく行くまではクロマツ内で潜伏したままにする予定。オーリンとしても危険は犯せない。


 途中まで馬車で送って貰い、そこから徒歩。

 サクラ姫はもともと金髪だったが、今回は黒く染めているし、化粧も変えた。服装も総取っ替え。特徴的な巨乳は布でぎゅうぎゅうに絞り、代わりにお腹に詰め物をした。



 クロマツの町。

 文化的にはオーリンと殆んど変わらないが、オーリンに比べれば活気がない。

 商店街は殆んど廃業して、営業していても商品も客足も殆んどなく、浮浪者が腹を空かせて寝ている。たまに餓死者もいる。


「酷いな」

「ええ。お恥ずかしいばかりです」


 だが、通りの不景気とは裏腹に景気の良さそうな大型販売店がある。とても立派で大きな店舗には商品が所狭しと並んでいる。


「これは?」

「これはギルド直営店です。この国の流通は殆んどギルドに牛耳られています。そしてギルド直営店では反ギルド派は買い物をすることが出来ません。当然私もです。ギルドの直営店で買い物をするにはギルドカードを持っていないと買えません。ギルドカード発行には審査があり、反ギルドと見なされると貰えません。しかも、ギルドへの貢献度でFからAランクまで分けられます。ランクによって買い物制限やお得ポイントが変わります」


 なんだその◯◯カードみたいなのは。

 しかし、この町ではギルドに尻尾を振らないと食い物も買えないのか。


「かつての城の関係者もギルドカードは発行されません。公務員もです。そして近年、ギルドは更に強くなり、ギルド以外では物が殆んど手にはいらなくなりました。そして公務員も生活出来ないのでどんどん辞めていきました。町を離れた者も多いです」


 つまり、奉行所も番屋も生活の補給線を絶たれ、戦わずして殲滅された。

 もしかしたらオーリンもあと少しすればこうなったかもしれない。


「まるでギルドが支配者だな」

「ええ、2年前からギルドはクロマツの『全ギルド化計画』をしましたから。既に力の無かった私達にはどうしよもありませんでした」


 俺とサクラ姫は町を巡った。これから何とかしなければならないギルドの東支所、西支所、新町支所。


 そして、


「これがギルド本社か」

「ええ」


 それは旧クロマツ城。

 今はギルド本社。


 さりげなく様子を伺うしかないが、他のギルド支所には販売直営店があるが、ここにはない。

 そして、支所はガラの悪い奴がイキッてたが、本社は違う。行き来する人間の背筋が伸びていて金持ちそう。でもどことなく黒いイメージ。ああ、ヤクザ幹部とかマフィアのイメージだ。皆、堂々として小物感がない。


「ここ本社は幹部とその補佐が集まってます。特級のSクラスも居るようです」


 なるほど。

 ここに一番悪いやつらが居るのか。

 取りあえずここにいる奴は全員逃がさん。


 しかし面倒だな。

 もし、ここを俺が襲って壊滅させたとする。

 それはいい。

 問題は他の支所が警戒するだろうということ。

 支所に籠城してくれたら助かる。だが、町中にちりじりに広まったら俺にはどうしようもない。住民とギルド員の区別なんかつかない。

 そして、一ヶ所制圧したとして、そのあと倒したギルド員を見張りしなければならない。その人員が居ないのだ。



 それの解決案。


「全員殺さないといけないのか・・」


「他に方法が・・」


 流石に俺はまだ人殺しをしたことがない。処刑は奉行所任せだ。今回オーリンから内密に応援が来るが10人程度だ。

 圧倒的人手不足。

 それは自分で処刑までしなければならないことを意味する。


「ギルド員はどんな犯罪を・・・・」


「そうですね。法令違反、殺人、恐喝、強姦、人身売買、強盗、放火、上げればきりがありません」


「殺しても・・・・構わないと・・・・」


「え、ええ」


「証明するものは?」


「その、城を奪われた時点で、僅かに残った記録も全て奪われましたので・・・・」


「つまり、悪い奴と確信出来るが証拠は無いと・・・・」


「言いにくいのですが、そういうことになります」


 わかっていたが最悪だ。

 無策でクロマツに来たが、無策だったのは策がどうやっても立たなかったからだ。まずはこの目で見ようと思ったからだ。


「全員殺すのか・・・・」

「その・・・・中には生活のためにギルド員になった者もいますので・・」


 更に悪い。

 殺したくない者もいる。

 殺していいかすらわからない。そして城の全ての記録も無いと。



 そんな時だった。

 城の横の通用口から一人の女性が出てきた。

 女性は表情が暗く、地味な汚い服を着ている。割りといい女と想像出来るが、暗い表情と身なりが台無しにしている。


 女性は一度城を振り返る。

 そして歩き出す。

 どこへ行くのだろう。



「ミズリ?」

「なんだ?」

「確か昔、教育課に勤めていたミズリです。どうして?」

「ギルドに勤めてるのか?」

「判りません。彼女は真面目だったのに!」


 歩いて遠退く女性。

 手ぶらだ。


「後をつけよう」

「え、ええ」


 俺達は後をつけた。

 ギルドのお使いだろうか?

 それとも勤めの帰り?


 ミズリという女はとてもゆっくり町を歩く。

 そしてとある民家にたどり着く。民家の戸を開けるとそこは空き家。暫く女性は空き家のなかに居たが、また出てきた。相変わらず手ぶらだ。


 そして、隣の家の老婆となにやら会話をする。

 暫くの会話のあと老婆は家に戻りピシャリと戸をしめてしまった。


 また歩くミズリ。


 辿り着いたのは共同墓地。

 誰が眠っているのだろう。

 ミズリは黙祷をする。


 そしてミズリは一番新しい墓。つまり大きな穴の前に立った。穴には死体が沢山あるはず。



「いけないミズリ!」


 咄嗟に飛び出すサクラ姫!

 振り向くミズリの目には大粒の涙。手には小さな食器の欠片。


「姫・・・・」

「死んでは駄目!」


 サクラ姫がミズリの食器の欠片を持つ手に勢いよく飛び付いた。


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