久しぶりの鬼
ユキオ邸工事。
骨組みが終わり、屋根に屋根タイルが貼られた。
これで雨が降ってもほどほど大丈夫。作業は外壁という簡単なようで時間のかかる作業にはいる。
外壁は漆喰を塗るつもりだが、漆喰を塗るための下地がいる。細い柱を作ったり組ませたり、取り付けたり。まあ今日はこの作業で終わるだろう。
ガガガ監督に釘と針金と漆喰一式を渡し、俺は今日お出掛けだ。
行く先はエチゴヤの屋敷。
今日はコユキも同行だ。
エチゴヤには剣の師範としてコユキをたまに連れてきてほしいと言われてたから、今日連れていくのだ。
ついでに土鍋もいくつか売ってくる。
先日コユキが焦がした鍋は結局村用になった。
今日はコユキが大事に片付けておいたやつ2つ。
俺が出した鍋なのに何故かコユキの所有になっていて、朝から買取価格が気になってしょうがない様子。
そして、一路町へ。
今日はコユキ号。
助手席からコユキに声をかける。
「今朝な」
「はい」
「探索で鬼の反応あったんだ。多分もうすぐ」
「ええっ!」
そう。
毎日の日課、鬼探索で反応があった。しかも道沿い。
「もうすぐ、多分、あー、そろそろ出てくるぞ」
「本当ですか!」
出た!
コユキ号の右斜め前に現れた鬼。
身長3メートルでなんか棒持ってる。筋肉ゴツいわ。
でもって、メスなんだよなあ、この鬼。おっぱいあるよ。
しかし、おっぱいにうっすら歯形や吸い痕がついてるのをみると、非処女らしい。お盛んなんだね。
魔物だとか怪獣の行為想像してもさっぱり萌えない。
そして、鬼の雄は甘咬みが出来るんだね。そうかそうか。
「コユキ倒せる?」
「むしろ斬らせて下さい!」
「じゃ、頼むわ」
座席後部から刀を掴むとコユキは鬼の前に躍り出た。
今日の鬼はこれ一体。
さて、コユキはどう戦うかな?俺は車を降り、ナタを持ってドアの辺りに立つ。コユキに手助けは要らないとは思うけど一応ね。
真っ正面に現れたコユキに鬼は敵意丸出し。逃げる気は無いようだ。それどころかコユキに近付く。食料と認識したか。
鬼はこん棒をコユキに真上から叩きつけるが、コユキがこれを食らう訳がない。
避けた。
多分この一撃で鬼の筋力や性格を観察したのだろう。むやみやたらに飛び込みはしないコユキ。
二発目を振り込んだ鬼の周りを走るコユキ。振り込んだ勢いそのままに更にコユキを追うこん棒。鬼が回りきれずに足踏みした隙に、コユキがコンッ!って鬼のこん棒を上から叩く。鬼のこん棒は地面にあっさり着く。そして鬼はよろめいたので思わず足の代わりにこん棒を地面に押し付けて踏ん張る。
斬ってくださいとばかりに地上1.5メートルの高さに鬼の首。
あとは呆気なかった。
ゆったりと腰の入った一撃が鬼の首をあっさり落とす。人間の胴よりぶっとい首が一発で切り落とされた。俺のようなチート能力もないのに凄いもんだ。
コユキ強い。ただの人間なのに。
「お見事だよコユキ」
「恐れ入ります。それに一頭ですし。数頭居ないなら楽です」
そうは言っても村長は10人がかりでもヤバいと言ってたし、やはりコユキは強い。しかも動きと戦略に無駄がない。
「さてと」
「どうしたのですか?」
「この首を持っていかないとな。村長に見せないと」
これは村長と約束した10頭の最初の1頭目。俺はポリ袋を出して鬼の頭を掴んで容れる。
袋の中はまだ出てくる血や変な液体でぐちょんぐちょん。
それをコユキ号のバックドアを開けて・・・・
「ちょ!待って!」
「何?」
「まさか!」
「持っていかないとだし」
「駄目駄目駄目駄目!」
「いいじゃない。袋に入れたし」
「無理無理無理無理!」
「まあまあまあまあ」
「やだやだやだやだ!」
土鍋は割れるといけないので左手に収納してある。だから後部スペースはがらあき。問題はない。
「いいじゃない」
「絶対イヤ!」
しまった。
コユキに運転経験つませようとコユキ号で来たのは間違いだった。
「じゃ、左手に」
「汚いからいれたくない」
「・・・・」
「・・・・」
「じゃあ、後ろにくくりつけて・・」
「それもヤ!」
「いやこれはラララの為だから」
「ねえ」
「なに?」
「捨てていかない?」
「どうして?」
「急ぐ必要もないのよね?ラララと引っ越すこともないのよね?」
「そうだけど。家も建ててるし」
「焦って首10個集めなくても・・」
おお、そうだ。
ラララを正式に貰っても村を出る気は無い。それに、贄の子を使わなくてもいいように村ごと守るつもりだ。
「じゃあ、エチゴヤにお土産に・・・・」
「いやいやいやいや!」
「エチゴヤに見せれば金くれるかなって」
「鬼退治してもお金は出ないのよ?」
「嘘?」
「本当」
知らなかった。
魔物とか討伐して報酬を得るのがなーろっぱの常識だと思ってた。
まさか無報酬だとは!
そしてコユキの顔が暗くなった。
「御免なさい。ギルドのせいらしいの。詳しくは判らないけど」
申し訳無さそうなコユキ。
あーこれ暗くなる話だ。
「じゃ、いいか」
俺はぽいっと首の入った袋をを捨てた。
ーーーーーーー
そして町。
「いいの?いいの?」
「構わん行け」
「ほんっとうに?」
「ああ」
ブロロロロロー。
「め、面妖な!何奴!」
「やあ!」
「ユキオ殿!」
今日は遂に車で町の入り口まで来た。
車に驚く街道番の役人。この人、顔馴染みなんだけどね。
今日の二つ目の目的。
いっそ車を見せてしまおうと思ったのだ。何度か行き来してタイヤ跡も増えちゃったし、遠くに停めてそこから歩くのも面倒くさい。そして、エチゴヤの公認取れれば、左手に車を隠せないコユキやガガガでもひとりでお使いに来れる。
そろそろ車の存在バレる頃だろうし、ここはいっそ見せてしまえ。そしてエチゴヤの公認と同時に駐車場も欲しいと考えた。
街道番に向かってお願いする。
「ねえ、エチゴヤ呼んできてよ」
まさかの中央奉行所奉行呼び出し。普通、予約もなしに偉い人は呼び出せない。
「し、しかしな、ユキオ殿」
「頼むよ~」
そう言って街道番に『生八つ橋詰め合わせ』を渡す。
「今、使いを走らせます!」
「頼むよ~」
実はこの人に八つ橋渡すのは二回目。前回は見返りなしで単なるお土産として渡した。今回渡してワイロとして効果が出たということは、前回食べて美味かったということだな。
そして、街道番の番屋とか近所の人達がわらわらと集まり出す。みんな車に興味津々。どこから見ても謎の物体で素材も用途も理解出来ない。いつもなら注目されるスーパーモデルコユキが添え物扱い。
「いいんですか?騒ぎになってきましたよ!」
「いいんだ。慣れるまでの辛抱」
そうしているうちに、砂煙を上げて馬に乗ったエチゴヤが現れた。
付き人が一人しかいないというのは急いで来たな。
「ユキオ殿!」
「八つ橋があるとは本当か!」
へ?
エチゴヤ、まさかの八つ橋ダッシュ?
大急ぎで来たのは八つ橋目当て?
確か前回一箱しか渡してないけど。この役人さん、上司に報告したんた。スッゲー真面目。そしてエチゴヤは食べたのか。
「むむっ!なんだその白いのは!?」
(コユキ号は白)
人だかりの中心にあるコユキ号にエチゴヤも驚いた。そりゃそうだ。
因みにコユキはコユキ号をさわろうとする奴の手をぺしぺしと弾いている。
「コユキ、一回り走って」
「いいの?」
「いいよ」
「はい、離れて離れてー!」
俺は野次馬を遠ざける。
なんだなんだと見つめる男衆の目の前で、車に乗り込むコユキ。
中に人が入れるというところで、一同まずびっくり。
エンジン掛けたら、またびっくり。
しかも馬も付けずに走る車体に、またびっくり。
そして一回りして・・・どころか三周もしてコユキ号は戻ってきた。
車を停めてエンジン停止してコユキが降りれば、
「「「「おおおおう!」」」」
とどよめきが起こった。
「ユキオ殿、これは一体」
「お奉行様、これは私達の馬の代わりです。これに乗って移動します。これはコユキの物ですが、他にもあります」
「なんと不思議な、どうやって進んでいるのだ。一体何処からこのようなものを」
「それは秘密です。まあ、私の故郷のものとだけ」
「このような物がある国があるとは」
「まあ、関係無い国なのでご心配なさらずに。襲撃とかはありません。この国の存在を知らないでしょうし。(適当)それよりお願いが御座います」
「なんだ?」
「我々はこの『車』で来るのですが、町の中には入れる気はありません。入れば御迷惑でしょうし。それでここに車で来たときは街道の番屋の横に置かせて欲しいのです。出来れば見張りもお願いしたい」
「ほほう。これは勝手に動き出したりしないのか?」
「しません。あくまで動くのは操作した時。逆に我々でなければ動かせません」
うむ、鍵の存在は秘密だな。コユキにも念をおしとこう。
「分かった。他ならぬユキオ殿の頼みだ。奉行所が責任もって預かろう」
「宜しくお願い致します。ちょっとコユキ!」
そしてコユキをコユキ号のバックドアのほうに引っ張ってきた。皆から見えないように荷室で慌てて生八つ橋詰め合わせを数箱取り出す。こんなに人が居たんじゃ一箱じゃ足らん!
そして、コユキに渡して「色気振り撒け!」と指令。一瞬で理解するコユキ。
エレガントな立ち振舞いで車の後ろから出てくるコユキ。
両手に恭しく八つ橋を持って、男衆に向かって五割増しの笑顔を振り撒き、
「私の大事な車をどうぞ守って下さいな」
「「「「うおおおお!まかせとけ!」」」」
うむ。
これでオッケー。
コユキ号は白です。
殆んどノーマルの660cc。