母屋を作り始める
2階建をやめたら色々楽になった。
なんてったって、高い所に登らなくていい。平屋の屋根の高さなんて、若い衆なら飛び降りてしまう程度だ。
簡単に強度も出る。なんてったって、平屋だぞ。2階の重さが掛かる各柱の接合部もなければ切り込み作業も少なくていい。
村人も木を組ませる、差し込みを使うと言うのは漠然と知って居たが、経験した者は居なかった。
何しろこの村はノコギリ一本無いのである。村で一件だけある木造倉庫は遠い昔に誰かが建てたのだが、工具なんて残って居なかった。金に困って売ったのだろう。
今回は違う。
チェーンソー、ノコギリ、ナタ、ノミと、金槌、大ハンマーがある。
丸太は角にはしない。
目立ちすぎるからだ。
俺はあくまで質素にしたかった、外見は。
屋内は左手でどうにでもなる。
とはいえ、この外見というか骨格だけでも重労働だ。
そして今回出した新兵器。
それは『メジャー』だ。
寸法が大事なのは皆知っている。だが、その寸法を測る手段がなく、更に寸法が情報として共有できないのだ。
メジャーを1人1個づつ与えた。この効果は大きかった。
なんせ今までは、取り付け部寸法測った本人が目印持って材木のところまで移動しなければならなかったが、数字を叫んで伝えるだけで結構かたがつく。
そして不恰好ながらも少しずつ工事は進んでいった。
さて。
一方、賄い。
俺の左手から新たに鍋や出来合い料理を出せば済むのだけれど、どうやらコユキが村長に目をつけられてしまった。
いい歳の女が料理ができないとは情けないと、村長がつきっきりでシゴいている。
「あんたも見ておきな」
と、ラララにも村長が言うと、ラララはぴしりと従った。
ラララにとって村長は恐怖の対象だ。逆らえない。
でも、今までラララには教えてなかったのを教えるんだから、贄の子として扱ってないとも見える。
居なくなる子にはものを教えるなんてしないから。
コユキは包丁はなんとか使えるようになった。なんとか。
おかしいものだ。
激しい動きの中で相手の心臓を寸分違わず狙えるコユキが均等に芋を切れない。
どこが人間の急所か、そうでないか分かり切ってるコユキが動物の内臓を分類できない。
仕上げの味の元を最初にブチ込んだり、かたい野菜の芯もそのまんまだったり、かなりの料理オンチだ。
ただの鍋なのに大苦戦。
そしてコユキは血の涙を流して居た。
料理が下手なのが悔しいのでは無い。
村長にばかあほと言われたのが悲しかった訳じゃ無い。
せっかく洗って売ろうと思ってた土鍋が焦げたり汚れたりしてしまったから。
焦がしたのはコユキだが。
村長に見えないところで、
「私の5万イセが・・・」
と焦げた鍋見て泣いていた。
そして昼食。
みんな、美味しいと言ってくれてコユキは救われた。(最後の味付けは村長がしたけど)
そして、午後、コユキは真っ先に土鍋をごしごし洗うのだった。諦めて村用にすればいいのに。
そして翌日。
工事は屋根に取り掛かる。
問題は重い丸太を載せる作業。あれは重い。
しかし、男衆はちゃんと考えてた。周りの木とウインチと滑らせ用の木でどんどん上げる。
構造は簡単でいいからと、片屋根。山型ではない。
そして中心の母屋ができれば、それを頼りにして隣の棟を付け足す。最初の建物さえできれば付け足すのは簡単だ。これで目処はたった。
さて問題は屋根板だ。
まだ貼るのは先だが、板が必要なのは間違いない。
ここは左手から出来合いの合板を出して下地を貼ることにした。
だが表面は地元のものを使わないと悪目立ちする。
「タイルを町に買いに行くしかないですね」
そう言うコユキ。
日本では瓦の役目の物を屋根タイルとして売ってるそうだ。でも値段は知らないと。
いくらするんだろう?数が揃ってれば中古でもいいんだけどな。
「よし、ラララ。手伝ってくれ」
「はい」
「私は?」
「コユキは料理番」
そしてコユキは村長に引きづられていった。
俺とラララでガソリン缶蓋切り開始!
缶を売ってお金にするのだ。
皆からは遠い場所、車のところでガソリンをひたすら車に詰めて、缶の仕上げ。
コユキ号は殆ど使ってないが、ガガガ号は少しガソリン減ってたし、俺のも減ってた。
それでも缶の数がもの足りないので、別容器の携行缶を取り寄せて、そのなかにも詰めた。
これで50缶、15万イセ分。あとは手持ちと合わせてどれだけ買えるか。
「じゃあ、行ってくるよ」
と、昼飯も食わずに俺はひとり町に向かった。
そしてまた奉行所。
エチゴヤに缶を納めて15万ゲット。
ついでに缶の蓋も買ってくれと言ったら、1万になった。溶かすのかな?
そしてエチゴヤに、
「屋根タイルが欲しいのですが。中古でも構いません」
と、言ってみた。
「うむ。中古でよければ裏にある。見てみるか?」
「ぜひ!」
そうして2人でてくてくと歩いて言った先には材木やタイル、レンガが積まれて要る。
この施設用の補修材置き場所なのだろう。
「おおう!」
そこには青い屋根タイル。
中古なので光りすぎず落ち着いてるというか地味に見えていい感じ。
「これ、おいくらですか?」
「タダで良いぞ」
「本当ですか!!」
「ああ。ただ、このタイルを貼ると奉行所の関係者と見なされるがよいか?」
「普通のください・・・・・」
「私としては是非貰って欲しいのだがな。残念だ」
結局、タイル屋で中古買って帰りました。
エチゴヤの名前を出したからぼったくられなかったけど。
お値段19万イセ。
たっけえ。
郊外まで配達して貰って、配達の姿が見えなくなったら左手に。
彼らには少しずつ運ぶと嘘ついたけどね。
そして、最近村長に食材出して貰ってばかりなので、穀物を少し買っていきました。