何も無い空間
「ここは?」
目が覚めると何もない空間だった。
白い空間。
奥行きもわからない。地面もない。何もない。
暗くもなく明るくもない。
俺の最後の記憶は超高速で目の前に迫るトラックの運転席の屋根を見たこと。体に一瞬走った何かの感触。あれは痛み?
「気がついたようだね」
「俺は?」
「幸男君、君は死んだよ。覚えてるかい?」
「夢じゃ?」
「夢ではない。君は走行中のトラックにぶつかり死んだよ。衝突した君の体はまるでトマトのように四散したよ。あれから何日か過ぎた。警察の捜査はDNA検査が始まるようだよ。死体は見ただけでは誰だか判らないくらいにメチャメチャだからね」
「そん・・な・・」
「因みにトラックの運転手も死んだよ」
「え!」
「運転手は君がぶつかった衝撃で頭を強く打って死んだよ。丈夫なトラックの屋根も君の攻撃には耐えられなかった」
「なんてことを」
「君は僕がやったと思ったね。正解。僕が君を上空に持ち上げて落とした。トラックにぶつけたのは君の希望を叶える為さ。ついでに運転手も死にたがってた。運転手はそれを誰にも言ってなかったようだがね」
「俺の希望?運転手が死にたがってた?」
「君は遠くに行きたい、全てをリセットしたいと言っていたじゃないか。私は神だ。君の願いを叶えてやったんだ。これから君は異世界に行く。全てをリセットして新たな人生を歩む。私は知っているよ。君がそれに何度も憧れてたこともね。だから叶える」
「本当に!」
俺は何度も全てを捨てて異世界とか別次元に行ってしまいたかった。それは逃げなのはわかっている。
声の主は自分を神だと言った。
神といえば、最後に居た神社のことだろうか?
「正解だ」
まさか神社の神とは。
無神論者の俺は存在を今まで信じていなかった。いや、否定していた。
でも、もう信じるしかない。姿は見えないがこれだけのことを体験させられれば信じるしかない。
じゃなければ、全て夢だ。
「君は酷いね。もう可哀想な運転手のことも忘れてる。家族のことも。だがいい、心配してもしょうがない。運転手は別の問題だ。君はもう元の世界には帰らないし、見ることすら出来ないからね。これから君は別世界に行くことになる。心配しても仕方がないし、その後も見れない。餞別だ、僕が君に力を与えよう。圧倒的チートだ。絶対に負けることの無い力だ。しかもモテモテになるようにしよう。物資も際限なく与えよう。あとは好きにしたまえ」
「うそ!」
「僕はあとは見てるだけだ。好きにしたまえ。どんな世界かは行ってからのお楽しみだ」
マジか・・・・
異世界転生?
異世界転移?
どっちだか判らないがこんなことがおこるなんて!
マンガやアニメでしか見たことがなくて実際にはあり得ないと思ってたのに!
今から俺の時代が始まる!
「じゃあ、あとは頑張ってくれ。楽しみに見ているからね」
その声を聞いた後、俺は再び意識を失った。