表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/151

全能者クラリス

「小娘が調子にのりおって!」


 宙に浮く少女が怒りを露にする。

 怒る少女の手にはいつの間にか巨大な銃。いや、あれは砲だ。砲身が1メートル以上ある。いや、2メートルか。


「佳子さん、後少し我慢して下さい」


 少しだけ振り向いたクラリスは強い微笑みを持っていた。


 少しなら我慢するよ・・・

 もうとっくに限界だけど・・・



「死ねや小娘!」


 町中に鳴り響く爆音!

 叩かれる空気!

 私達に無関心なのに耳を押さえて踞る通行人達。

 そして音が消えた。

 いや、耳がおかしくなった。


 どうなった?


 対峙するクラリスと少女。

 少女の持った砲の先端からは陽炎がのぼり、クラリスは素手で撃たれた砲弾を掴む。

 そう、掴んだのだ。

 手の前に静止する砲弾を普通に掴んだ。


 そしてデカイ砲は連射が出来ない。


「「死ねや」ですって?」


 クラリスの低い声に少女が顎を引いて少し後ずさる。


「私もずっと貴方を殺すチャンスを待ってましたわ、ずっと前から。地球で好き勝手してるだけなら構わない。だけどお前は私の佳子に手を出した。絶対に許さない!」


「この私に勝てるものか!」


「どんなに相手が強かろうと私は勝ちます」


 この言葉・・・


「黙れ小娘!」


()()()に行くから待ってなさい」


「くっ!」


 少女が反転して逃げようとした瞬間、クラリスは高く高く跳び少女の魂体を長い足で上から蹴り落とした!

 直後、少女と砲とクラリスの手にあった砲弾と地面に落ちていた黒い粒がドゴンと音を立ててひとつの黒い玉になった。

 まるでブラックホール!


「魂とて私の引力からは逃げられません」


 そして黒い玉は鋪道に落ち、じわじわと沈んでいった。まるで水に沈むがごとく。



「佳子さん!今すぐ!」


 ああ・・・クラリス、そんな綺麗な服で私に抱きついたら駄目だよ・・・血がついちゃう・・・・・・

 ・・・懐かしい・・・

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 ヒールの感触・・・

 何年ぶりだろう・・・


「お姉ちゃんが・・・」


「心配しないで下さい。貴女より軽傷です。同時に治してます。それに居残り神はまだ生きてます。あれは本体ではありません。治ったら移動しましょう。迎えを呼びます」


 二人同時にヒールするって・・・

 すごいね・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・





 ーーーーーーー



 釣竿のリールをちきちきと巻く桃神様。


「桃。過保護すぎやしないか?貴重な碧竜石だぞ?」


「なにいってる。新人は失敗をするものだ。私が失敗をしたときも先輩は助けてくれただろう。クラリスにも先輩の助けは必要だ」


「わかったから。連絡はしておいたから」


「あの子はきっと無茶をする。佳子が絡むと頭に血が上るからな。大人しそうに見えて無茶ばかりする」


「そのための予備の碧竜石か」


「ああ。無駄遣いするなと言ったがどうせ無駄遣いする筈だ」


「酷い言い様だな。クラリスは近年では最速で神の称号を得た優秀者だというのに」


「クラリスに素質は有った。力も手にいれた。だが何より佳子を救いたいという強い想いがあった。米よ、どうなると思う?」


「その未来はわからない。地球の神々の評議会はもう解散してなくなった。雑魚神もそのうち逃げ出す。最期の()()()()だけがクラリスの障害になる神だ」


「あの子は大丈夫。()()()()としての試練も絶対やり遂げる」


「最後の試練か」


「あの課題はクラリスだけでは遂げられない」


「酷い話だ」


「しかしそれしか方法はない」


 クラリスはラララのサブルーチン業を辞め、独立した神の道を選んだ。

 全ては佳子の未来を切り開くため。絶望しかない佳子の命を消さない為。

 たった一人の友達の為。

 それはクラリスの我儘だが、この計画に同乗する神も沢山いた。それは地球を故郷としている神々。



「そろそろクラリスと人間と緑豆の神との戦いが始まるな」


「あの子は勝つよ。全く、私だってあんな恐っそろしいの(クラリス)は相手にしたくない。先輩なら?」


「昔ならなんとか。今は無理だ」


 そう。

 クラリスは強い。

 元々が神の原材料とか、神を作った後の残り物とか言われる種族で魂強度も高い。

 遥か昔の遺跡から伝説の神の燃料とも言える碧竜石も手に入れて持てるだけ持った。

 神のテクノロジーを覚え、肉体も鍛えた。


 それはたったひとつの願いの為。




「先輩、どうなんだ?」


 ここでも地球の観測は出来る。


「始まった。今から46時間10分後にクラリスが勝つよ。しかも人の身体のままで碧竜石を0.4キログラムしか消費しない。まるで化け物だな」


「先輩の観測と予想は絶対外れないからな。だが油断は禁物だ」


「そうだな」


「米よ」


「なんだ?」


「クラリスに地球に行く許可を出したのは、本当は厄介払いじゃないだろな?」


「評議会に聞いてくれ。少なくとも僕は手元に置いて置きたかった。なにより本人が行くと言ったんだ」



「そうか。しかし生身で神に勝とうだなんて」




 ーーーーーーー





「えっと・・・普通の天井だ」




 目が覚めると普通の天井が見えた。

 色が普通。

 模様が普通。

 電灯が普通。

 よくある木造住宅のお部屋の天井。


 ところでここはどこだ?


 どうやら寝ていたらしい。

 普通の感触の布団が上と下に。ほかほかだよ。

 右を見る。

 この布団は畳の上か。

 隣の布団に黒髪の女が寝てる。

 お姉ちゃん。


 左を見る。

 何もない。


 もう一度右を見て、私は右手をお姉ちゃんに伸ばすが届かない。

 でもお姉ちゃんを確かめないと。

 ごろんと右に身体を回転させて、ぐーっと伸ばした左手でお姉ちゃんの顔を触ってみる。

 生きてるっぽいけどよく分からない。

 左手をお姉ちゃんの布団の中に入れると温かい。


 これは生きてる。


 手を突っ込んだまま気絶する前の事を思い出す。

 デモ隊との争い。

 宙に浮く敵の少女。

 クラリスの御守り。

 デモ隊の男に襲われたお姉ちゃん。

 そしてクラリスが来たんだ。

 二度と会えないと思ってたクラリスに会えた。

 ヒール。

 そう、ヒールされた。

 クラリスはヒールを使えるんだ。

 お姉ちゃん生きてる。

 じゃあ、うまくいった?

 お姉ちゃんも撃たれてたっぽい。

 本当に治ったの?

 治し忘れたケガとかない?


 フラフラしながらも布団から起きて掛け布団を背負いながらお姉ちゃんの横にたどり着く。

 これは絶対に確かめないと。怪我があったら大変だ。

 お姉ちゃんの掛け布団をどける。あ、服着てる。

 最後に見たときはスカートとブラウスの切れ端しか無かったのに。


 顔と首。

 頭。

 腕。

 足。


 大丈夫そう。


 白いシャツを上に伸ばしてめくってお腹と胸を全部出す。

 ブラはない。残念な妹とは違うサイズのお胸が出る。

 大丈夫っぽい。


 ではパンツ。


 ずずっ。




 ええと、どうやって確かめよう。

 外傷はないっぽい。

 中は大丈夫?

 お姉ちゃんは経験者?

 臭いでわかるかな?



 すーー。



 この部屋の引き戸が開き、その入り口に現れた女性が呆然と私を見ている。


「・・・」

「あー」


 ここには寝ている女性の服をめくったり下ろしたりして、顔を股間に近付けてる女しかいない。



 まずいかな。




 すーー。



 戸が閉められた。



「麻生さん待って!誤解だから!」




  ー ー ー ー





 お姉ちゃんは睡眠薬を投与されてるとさ。

 妹の変態行為はバレなかった。




 ここは都内の神社守りのお家で、クラリスの指示で麻生さんと友弥(ダンナ)が運び込んだという。ここの家と知り合い?それともお金積んだ?


 麻生さんが現場に呼ばれた時は、地面に致死量の流血がありながらも生きてる私達姉妹をみて驚いたという。

 そして呼んだクラリス本人はまた何処かにバイクで走り去ったという。クラリスがどうやって呼んだ?

 あ、私のスマホかな?


「決着をつけるわ」


 そう言い残してクラリスは走り去ったそうだ。


 そして麻生さんは私達を車に押し込んで走って神社に行って部屋を借りたらしい。

 救急車も警察も呼ばなかったという。

 呼んだら面倒ごとになるし、あの時助けてくれなかった警察になんかねえ。


 因みに私のGSX(愛車)は蜂の巣で廃車。

 一般人に銃弾は一発も当たっていないという。

 多分クラリスの御守りとGSXで全ての弾を受け止めたのだろうと。

 GSXよ、君には感謝してるよ。鋪道で君を押したせいで友弥は筋肉痛になってくたばったけど。前後ともパンクしてる大型バイクは重かったろうな。


 そしてあの事件はテレビニュースになってない。

 人も死んでるのに。





 



 翌日。

 お姉ちゃんが起きた。

 おそるおそるお姉ちゃんに語りかけたけど、発狂はしてなくて良かった。

 そしてあの日の全てを覚えていると。

 人が消える所も見たと。

 ヒールもおぼろげに覚えていると。


 そしてとても聞きにくい事を聞いてみた。

 その答えは、


「あと五秒遅ければ手遅れだったわ。狙いつけて構えられてたし」


 あいつら!



「犯人は?」


 聞かれてばかりのお姉ちゃんが聞いてきた。

 本人にとっては大事なこと。


「クラリス・・・助けてくれた人がみんな殺したわ・・・」


 言うかどうか迷ったけど言ってしまった。





「良かった」


 はっきりそう聞こえた。






 そして。


「佳子さん。クラリスさんが戻ったわ。大切な話があるそうよ」


 私とお姉ちゃんの部屋に来た麻生さんはそう言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ