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帰ることは決めているけれど。

「友人としてのお願いです。ここに居てください」


「ごめん」


「地球は人の住めない星になります。生存率はじきに1%を切ります。私は貴方に死んで欲しくないのです。貴方は今まで強運で苦難を切り抜けました。でもこれは訳が違います。そして運良く生き残っても地獄です。それはきっと、いや間違いなく佳子さんを苦しめる」


「わかってるわ」



 そして私達二人は黙った。

 クラリスの言いたいことはわかる。


 私だって話は聞いた。

 巨大な太陽フレア。

 太陽風が到達した時に昼間だった土地は全滅する。

 最初に光の速度で到達する電磁波や各種放射能が地球を焼く。地球上にばら蒔かれた人類の電気による電磁石は、地表を守っていた地球の磁場をねじ曲げるし数%弱める。その数%が僅かな生き残りを減らすのだ。

 その後、人類の電力は順にダウンする。そして海の水位が下がって加熱する原子炉が・・・

 非常用電源の制御系機器も太陽風の電磁波でダウンして、水もなくなるのだからどうしようもない。

 時間差で粒子状物質も地表に降り注ぐ。

 磁極は偏り傾く。強烈な一撃により地球の磁力は約一年半減る。その間地表の大気と水は普段の太陽風にすら抗えず毎日剥がされ続ける。

 最初に巨大太陽風を免れた夜だった部分も次第に砂漠化する。

 神子達は地球を仮設の磁幕を作って覆う事も検討したらしい。でもやはり無理。相手(たいよう)がでかすぎる。

 それに、無理を重ねて保護したところで人類は変わらない。また同じことが起きる。



 それは桃神様が教えてくれた。

 判っている。

 帰るのは間違い。

 でもあそこは私の故郷。

 家族も友人も恋人もあそこに居るんだよ。


 本当はみんなこっちに呼びたい。

 でも異世界転移をして無事なのは数万人に1人。

 きっと私は運が良かっただけ。

 ユキオさんの場合は上級神の神子の力で生き長らえた。ユキオさんの存在も種の保存の一環らしい。

 それに、他の人が鬼にならないで無事だとしてもこの世界に全員は入れない。

 だから神々も種の保存はするけれど種の大移動はしない。いや、出来ない。



 沈黙を私が破る。


「それでも帰りたいんだ。クラリスのことは大好きだよ。私の大事な友達だよ。心配してくれて有難う。この町やみんなに愛着もあるけれどやっぱり帰りたいんだ」


「そうですか」


 クラリスは俯く。

 クラリスにとって私は100年ぶりの友達。

 今のクラリスの状況なら彼女は彼女の故郷に帰れるのかもしれない。でも、100年過ぎた。家族も知り合いもみんな死んでいる。帰った所でひとりぼっちなのだ。まだ私は幸せだ。

 そしてそのクラリスを置いてきぼりにして私は去ろうとしている。行くと言えばクラリスは私を送ってくれるに違いない。


 なんて酷い私。



「ごめん先に帰る。また明日」


 半泣きで言い切って荷物を持って歩き出す。

 泣いてる所を見られたくない。


「また明日」


 それだけ返ってきた。










 フゴオオオオオオ!


 クラリス1人になった夕方のテニスコートに赤黒い霧が巻く。


 ベンチに座ったままのクラリス。顔は伏せたまま。

 状況の異変は感じているのに動じないクラリス。


 赤黒い霧が消えると18体の鬼がそこに立っている。

 町中に鬼が出ることは殆んどない。理由は町より町以外のほうが圧倒的に面積割合が高いから。この世界の町面積は1%もない。

 だが現れた。


 そう、ここを狙って放り込まれた。



 低く呟くクラリス。あきらかに怒りを含んだ声。


「私の大切な人に手を出すとはいい根性ね。鬼の材料(人間)にペスト菌まで御丁寧に付けて。殺してあげるから待ってなさい」


 クラリスの声は鬼にではなく霧に向けて放たれた。

 クラリスには解っている。

 この鬼は佳子を暗殺するために向けられた者だと。

 念入りにペスト菌まで付けられている。鬼が負けても菌で殺そうというのだ。あと少し早ければ佳子と遭遇したはず。恐らくは準備不足かなにかの要因で間に合わなかったのだろう。


 クラリスの怒りを買うには充分だ。

 普段怒ることがないクラリスが激怒している。


「覚えたからね」


 クラリスは()()()()()()鬼を見る。


 今、正にクラリスに襲いかかろうとしていた鬼達が()になる。


 それは一瞬。

 コートの上で中向に風が吸い込まれるように吹き、空気とそこの地面と18体の鬼がビー玉ほどの黒い点になった。


 爆縮。


 碧竜石を得て神の制御術を得たクラリス。

 地球を守れないといってもこのくらいは容易い。


 そしてクラリスはベンチから立ち上がると点に向かってゆっくり歩き、宙に浮かんだままの点を摘まむ。

 怒りは消えてはいない。








「・・・わかりました」


 クラリスが怒りを解く。

 ここに居ないとある人物が怒りに任せて行動しようとしていたクラリスを制したのだ。ここに居なくてもクラリスを御せる人物。

 そんな人物は1人しかいない。



 そしてクラリスは再びベンチに座り、静かに泣き始めた。

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