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13人いる

 世界の終わりを知る者は13人いる。


 知った方法は神からの啓示であったり直接教えられたりと様々だ。その人達に協力者も出来た。

 小さいながらかなりの勢力と言ってもいい。

 だが、彼等はクーデターを起こす訳でもなく政治に乗り出す訳ではない。


 『世界の終わりは避けられない』


 これが彼等の共通認識。

 そして、未来に起こることは証明出来ない。

 一般人に情報を広めればパニックになるかカルトを生むだけだ。

 そして当初4%だった人類生存率を1%にまで減らした団体に勝てないことも知っている。何しろ向こうは全人類を味方につけているから。

 彼等の愛する者も向こうの味方といっていい。

 こんな辛い事はない。


 理不尽な想いを心の奥に押し込めて、彼等は終末の後の為に日々備える。




 ー ー ー ー ー



 北海道のゴルフ場。

 麻生は休暇中の山岸を訪ねる。

 話をするだけだ。

 共にゴルフをして仲良くする気はない。神の世界の話をするときはテキストや通話は殆んど使わない。隠語を使って話すこともあるが面倒くさいし、説得が必要な内容だと麻生は直接山岸を訪ねる。


 二人はクラブハウス西のレストランで会って会話を始める。世間的には資産家で事業主の山岸に麻生が言い寄っているように見えるだろう。だが、周囲の人間にも山岸は恋人も妻も作らないと有名だ。性欲は金を使って晴らせばいいという人物。

 レストランには他にも数人居たが二人がテーブルで話をしていても注目している者は居なかった。


 話も終盤、山岸が麻生に疲れたように言う。


「君はいつも面倒事を持ち込む。いくら掛かると思ってるんだ」


「たまには役にたちなさい。予算が足りないなら言いなさい。なんとかしてあげるから」


 離婚してからの麻生は無職。

 だが、神のバックアップを受ける麻生には既に莫大な財産がある。そして自身が世界の終末まで生きられない事を知っている。金は残してもしょうがない。


「まったく、きっついな」


「見返りはあるんだからその分働きなさい」


「解ったから。しかし、予知能力者か」



「Luckygirlと呼んで欲しいわ」



 ーーーーーーー




「へっくし!」


 鼻がむずむずした。

 誰か私の噂した?

 現在、佳子屋社員が集まって試食会。

 ひとつ目のメニューは卵を使ったケーキ。売上げがいまいちで佳子屋傘下になったこのお菓子やさん。

 最近の売上げが伸びない理由はオーリンの女中頭が副業で作っているお菓子に負けているからだ。日本の人気和菓子はほぼ網羅している。しかも素麺、うどん、ラーメンの麺まで生産している。


 さて、負けてばかりはいられない。以前、大量に砂糖を使うように方針転換したがそれだけではまだ負ける。今回始めた鶏の卵入りケーキはお菓子やさんの売上げを上げてくれるに違いない。

 試食でも評価はなかなかいい。



 それより二つ目のメニュー、鶏のモモ肉の照り焼きに皆が驚いた。

 味付けは醤油とお酒とあとなんか。

 ふっふっふ。

 醤油は焦がした時の匂いも素晴らしいのだよ。

 そしてどでかいモモ肉は骨付き!

 この迫力が皆の心を奪った!

 この世界では鳥肉といえば、空を飛ぶ鳥の肉。

 鶏に比べるとモモ肉がちっさい。そりゃ、鳥としても足は大事だけど、空を飛ぶ鳥の足は軽量化されててちっさい。

 そんな鳥を捌いて五人前とか十人前に分けるのが当たり前だったから、豪快にかぶりつく楽しさをみんな知らなかった。

 人に飼育された鶏は運動不足で肉も柔らかい。筋っぽくない。

 これは試食した全員が絶賛!

 細かい肉や皮も焼き鳥にしたら評判いい。味付けは塩でなくてあくまで醤油タレで。

 残ったガラも煮込んで出汁にして煮物に使えると言ったら何人かが試してみたいと食いついた。

 ひょっとして鶏ガラスープで温かいうどん作れる?


 ふっふっふ。

 うまく行きそうだ。

 この鶏事業は成功する!

 なによりこの人達が食いたがっている!



 村のいくつかにお願いして鶏の飼育は始まっている。

 大規模養鶏場はまだ作れないので、農家ごとに5羽位ずつ飼ってもらっている。穀物農家には鶏の餌になるものがいっぱい。なんならたまに外に放てば雑草の種やら小虫もつついている。

 まだ飼育中だけど、農家さんには鶏と卵の買い上げ金額の高さに驚かれた。

 今はまだ金額を提示しただけだが実際に農家に支払われればもっとやる気を出してくれるに違いない。

 お隣のオーリンのユキオさんの村でも鳥の飼育はされているが、あっちは黒っぽいキジみたいなやつで、多分意識高い系の養鶏家が飼うやつだ。鶏に比べれば小さいし、村での消費で殆んど消えている。


 鶏、いける!

 ふっふっふ。



 ー ー ー ー ー



 夕方、久し振りにクラリスからテニスしようと誘われた。

 もうね、クラリスってばカタコトじゃないの。

 普通に喋ってるのよ。

 そりゃあ、副脳、孫脳あるのにいつまでもカタコトのわけないか。


 夕飯前の空いてるコートでクラリスとラリー。

 試合なんてしないよ、全然勝負にならないもん。

 てもさ、ストローク打ち合ってるだけで楽しいじゃん。

 打ってるうちに段々暗くなってテニスおしまい。

 終わって道具片付けているときに、クラリスが真面目な表情で私に言った。



「佳子さん。地球転送成功率が100%になりました」


 それは驚く内容。

 これを言うためにテニスに誘ったのだろう。

 来る日が来た。

 でも、不思議と嬉しくない。

 地球に帰ると心に決めていたけれど、既にウエアルにも愛着がある。友達も出来た。



「ここに残りませんか?」




 その言葉は私に深く突き刺さった。

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