環境保護団体の優しさ ハチドリ放鳥
地球のとあるイベント会場。最近増えた温室効果ガス削減セミナー。
温室効果ガス削減をいつもと同じような壇上でいつもと同じような内容で訴えいつもと同じような拍手を貰う少女。
彼女の活動の甲斐も有って31年後の人類生存率は1%まで落ちた。
それを当の本人は知らない。
本来なら原始生活に近付くか使用率を落とせばいいだけ。車なら台数か車重を落とせばいい。
だが、人類は電化を推し進めた。
電気はどこであろうと流れれば磁界を発生させる。
それが地球の地磁気を邪魔するのだ。
磁気と磁気はすれ違わない。すれ違えない。
人間の作った磁気によって邪魔され地球を大きく覆う筈だった地磁気はどんどん弱くなる。
もし、人間の作った磁気が大気圏の遥か外、地球の直径の数倍の外軌道だったならば、危機の時に助けになるだろう。
しかし実際は全て大気圏の内側。
大規模太陽フレアから大磁気嵐が起きれば当然電子機器は全滅。それだけじゃない。火星のように大気と水蒸気を剥がされる。地磁気を失った火星は今も太陽風に僅かな大気を剥がされ続けている。毎日だ。
水と大気は宇宙空間には薄く存在する。
恒星から離れたハレー彗星が旅をするうちに氷だらけになって帰って来るのもそのせいだ。だが太陽に近付くと太陽風で剥がされる。
事が起これば太陽風で地球の大気と水は剥がされ、海の水位は下がる。しかも電子機器はダウンしている。
その時増設して稼働中の原子力発電所がどうなるかは想像に容易い。
少女の演説をモニター越しで眺めるマネージャーの男。世界の終わりを知る男。
彼の計画は完璧だった。
全人類で無理心中。
だが彼は知っていた。
地球を離れて生きている人間が居ることを。
地球が死滅しても生き延びる存在が居ることを。
彼には許せる訳がなかった。
ーーーーーーー
これは友弥には絶対見せられない。
私の頭にはほかほか桃色パンツ。こんのやろう!
今日はハチドリの放鳥の日。
野鳥の放鳥って最近は鳥さんに刺激を与えない為に、カゴからじわじわソフトリリースするのが主流のはずだけど、桃神様はいきなり百羽全てを『お前ら出ろ!』と、空にほおった。
でも、流石は桃神様でハチドリとは全て意志疎通が出来ているようで、桃神様の少し後を飛びながらついてくる。
で、桃神様は?
私の頭の上だよ!
しかもパンツの状態で!
そうだよ!
パンツ被ってるんだよ私!
しかも私の体は桃神様が支配していて歩かされている。つまり、自分の意思で頭のパンツ脱げない!
ぐぬぬ。
桃神様パンツを頭に被った私が歩くとハチドリの群れもついてくる。
今日はこのまま山まで移動して、ハチドリ達は現地解散する予定。
私が町を歩くと驚く町の人たち。
みんなハチドリの群れに唖然としてる。
ハチドリ1羽なら可愛いけれど群れになると異様だわ。
ねえ今度は鳥を操る女とか言われるの?私。
もうこれ以上変なアダ名つけないで!
そして、頭に被っているのがパンツだとばれませんように!
「あ、ぱんつ被ってる!」
ちょ、そこの子!
「あ」
「あ、ああ」
「見ちゃいけません!」
「パンツ・・・」
「魔王スレイヤーがパンツを・・・」
「桃のパンツ・・・」
ぐぬぬ。
死にたい。
この間、桃パンツを鳥小屋に放り込んだの根に持ってやがるな。ちくしょう。
股関、スースーするし。
「佳子、どうだ鳥に好かれる気分は」
『好かれてない!』
「かっこいいぞ、佳子」
『恥ずかしい!』
桃神様のセンスはおかしい。桃色ならいいと思ってるだろ!
『せめてハチドリで頭を隠してくれれば・・・』
「おお、思い付かなかった。でっかい鳥アフロみたいでいいな!」
『全部載せるな!』
なんだかんだと羞恥プレイをしながら歩いて、漸く目的地にやってきた。
おおう、この間のツルキウイ!
立派になったなあ。帰りにもぎっていこう。
ここで漸く桃神様は私の頭からひらりと離れ人化した。
それでもってやっと体が自由になった。
「佳子よ、馬役ご苦労」
「馬かよ」
「では始めるぞ」
「何を?」
「佳子手を出せ」
「はい」
ざらー。
桃神様は広げた私の掌になんかの種を大量に載せた。
「おーい!お前ら、ひとり1個なー!」
「なに?ちょ!」
上空のハチドリが一斉に私の掌に突撃してくる!
息できねえ!
数秒経つと掌にあった種は無くなりハチドリも居なくなった。
ラピ◯タでシー◯の手に鳩が集まるシーン有ったけど、あれは実際にはかなり怖いな。見方変わったわ。
「よし行ったな」
「なに?」
「うむ。ハチドリにこの世界用にアレンジしたカボチャの種を運ばせたのじゃ。エネルギー与えてあるから一世代目はかなりの速度で成長するぞ」
「ほうほう。カボチャの種まきですな。
でもあれって私の掌でなくても地面に置けば良かったんじゃない?」
「いや、私のエネルギー与えてあるから地面を感じ取ると急速に発芽するからな。佳子の掌に土つけておけば面白い事になったのだがな。このカボチャもあやつらの飯の種だ。実のほうじゃなくて花の蜜のほうな」
「あっぶねえ!」
手に泥ついてなくて良かったわ。
チーチー
チーチー
チーチー
あら、ハチドリがポツポツ戻ってきた。お使いが終わったのね。
「よし、佳子手を出せ」
「またあ?」
ざー。
「なにこれ」
「葡萄の種じゃ」
「おおう、葡萄!」
私の掌には大量の葡萄の種。葡萄の種ってこんなんだったな。
「ところで種類は?」
「デラウェア改だ」
「デラウェアってなんだっけ?」
「小粒で種無しのやつだが、種有りに直した」
「おおう!」
これは楽しみだ。
今度は帰って来たハチドリが順番に一個づつ種を掴んでまた飛び立つ。何処に植えられるかはわからないがまあそんなに遠くはないだろう。今回はポツポツ来るからさっきのように鳥まみれということはない。
うん、一羽づつなら可愛いわ。さっきはカオスだったな。
そして時間はかかったけれど葡萄の種もみんな運び出された。
「よし、解散!」
桃神様が号令を出すとハチドリはみんな何処かに居なくなった。
なんか淋しい。
そして、キウイを何個かもぎってお土産にした。
なんだかんだで今日は楽しかったかな。
ーーーーーーー
ラララとククリ(神子)の通信。
『碧竜石の磁化は諦めよう』
『はい』
『出力がやはりクラリス1人では小さすぎる』
『はい』
碧竜石をクラリスを使って磁界にするという計画は中止となった。
31年後にクラリスを地球に送り込み、弱った地球の磁界とクラリスの磁界を連結して太陽風から地球を守るのは無理と判断された。クラリスだけでは弱すぎる。いくら優れた種族とはいえ、やはり人間1人。そんな強力な磁界は作れない。碧竜石にはそれだけのエネルギーが有るがクラリスの肉体がもたない。命と引き換えにしても成し遂げられはしない。
現在の人類の生存率予想1%。