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嫁にはなりません!

「この中で一人だけ選ぶなら?」

「選ばない!」

「え?全員?」

「ちがうー!」

「お願いします!」

「ご免なさい!」

「お友だちから!」

「怪しい!」

「先っぽだけでも!」

「駄目!」

「一晩、いや、一月だけ!」

「だーめーだー!」



 よくもまあ佳子は()()()()を当てたものだ。

 この娘の勘の良さは物凄いが、扱いきれてないから幸運と一緒に騒動も呼び寄せる。

 本来なら二日はかかるだろうに、勘のみでショートカットを繰り返し一日でこの村に辿り着いてしまった。

 ここの村人は八人の男で女が居ない。恐らくは久しぶりの女の訪問に舞い上がってしまっている。

 これだと佳子がちと危険だ。

 お人好しの佳子にはこれは裁ききれない。



『佳子よ、私に任せろ』

「たすけて~お願い~!」


 言質はとった。

 どのみち佳子の睡眠時は私が身体の主導権をとって防御するつもりだった。



「ねーちゃん!優しくするから!」

「触らないから見せて!」


「 黙 れ ! 」


 佳子の喉でもドスの利いた声は充分出せる。


「悪いがここには立ち寄っただけだ。嫁にはなる気はない。邪魔したな」


「ちょっと!」

「待って!」

「居てよ」


 引き返す素振りを見せると簡単にすがってくる。

 恐らくは女っ気を失いたく無いのだろう。そして襲って来るほど狂暴な八人では無いようだ。


「せめて今夜だけでも。嫌な事はしないから!」

「信用出来んな」

「どうか!」

「私に触ったら()()()()()からな」


 刀でちょっと型を披露する。ヒュンヒュンと重い筈の刀が踊り、剣先で拾った小石を高く打ち上げ、落ちてきた小石をまた剣の腹でハネさせず拾う。

 今まで苦労してきた人間ならこれだけで此方がいかに強いか判る筈。


「まあ、騒がせたのは悪かったな。突然現れて迷惑をかけたのは確かだ。お詫びにこれをやろう」


 そういって袋から即興で作った桃を沢山出す。


「うまいぞ」


 ひとつ私も食べる。

 なあに、完熟しているから皮を剥くのは簡単だ。

 私の真似をして食べ出す男達。恐らくはこんな林のなかに桃は生えてない。旨い果物の産地なら都会の奴らに占領されている筈。


『桃?』

『あれは見た目は普通の桃だが鎮静作用がある成分を仕込んである。薬が効けば賢者モードになるから奴等は大人しくなる』

『すげー』

『この村にちょっと気になるものがある』

『なに?』

『まあ任せておけ。寝ていてもいいぞ』

『寝れない!』

『ふふっ』


 男達は皆桃を食べ終わったようだ。さっきまで夕飯だった筈だが桃も食べた。

 つまりは食料は足りてはいないのだろう。


 とりあえずは村にお呼ばれする。

 当たり障りの無い挨拶でウエアル出身と自己紹介。

 戦歴や能力は伏せておく。

 食料事情の話をした後に核心に迫る。


「どうして町に行かない。今なら割りと平和で暮らしやすいぞ」


 そう、もう危険なギルドも無い。景気も上向きで仕事も有るだろう。都会から遠いと言ってもここの村人は町に顔を出していない訳ではない。ボロくて安そうだが服も着ている。小物の道具もある。

 たまに買い出しで行くので町の様子は知ってる筈。

 つまりは、()()()()()()()()がある。

 少しは町に行くがいつもそそくさと帰ってくるのだろう。

 予想はついている。

 大地から()()を感じるからな。

 それと心配事もあるな。


「ええとなあ」

「いやその」

「えっと」


 こいつら歯切れが悪いな。


「実は内緒なんだが温泉があるんだ。お陰で冬も暖かくて食料にも割りと困らないんだ」

「温泉ねえ」


 それは探知してある。

 狭い範囲だが温度が高い。

 ()()()()の熱源が有れば冬も快適だろう。食える動物も寄って来るだろうし、多少は冬も植物の栽培が出来るだろう。水源が有れば温泉にもなるだろう。

 だが、この一帯で暮らすには三人から四人がせいぜい。八人は無理がある。


 少し佳子を試してみよう。


『佳子、この男達が何故ここに居たがるか判るか?』

『え?温泉じゃないの?』

『そんな訳無かろう。毎日食い足りない思いをしてまで居座る程温泉は大事か?』

『え、まあ、そうだけど』


 やはり佳子はお人好しだ。

 まあこの純粋さと幼稚さがこの娘の良いところでもあるのだがな。

 だがそろそろ話を進めよう。


「君達は人を殺したね。そして身を隠している」


 男達が絶句する。

 喋る素振りすら止まった。


「なあに、君達は運がいい。私には色々有力なコネがある。それに殺めたのがギルド員ならどうとでもなる。君達もたまに行く町の情報でギルドが潰されたのは知っているだろう。気にしているのは自分達が逃げている相手のギルド員が捕まらずにまだ世間を彷徨っているかが掴めないことだ」


「何故知っている」

「そのくらい簡単に想像できる。食い物と女に飢えてまでこんな所に居るんだ。そのくらいの理由はあるだろう。繰り返し言うがお前達は運が良い。私は領主にも顔が効くしギルドを潰した銀の夫婦とも親しい。無事に暮らせるように手配しよう。ギルドの逮捕者リストも調べよう。恐らくは大丈夫だろうが、逮捕されてなかったらこちらで何とかしよう。囮くらいは頼むかもしれないが心配しなくてもいい。ギルド員ごときに負けることはない。なにせ私は勇者と魔王を討伐したのだからな」


 男達が目を丸くする。

 どうやら勇者と魔王の死は知っていたらしい。

 まさか目の前にいる女が勇者と魔王を打ち取った佳子(有名人)だとは思っていなかっただろう。


「貴方が魔王を倒した女?」

「そうだ」


「勇者も?」

「そうだ」


「本当に守ってくれるのか?」

「約束しよう」


 男達が集まって相談をしている。彼等にとっては急展開過ぎて混乱してるのだろう。いつかは町に戻りたい。そう思っていたのだろうが、もしもの事を考えると帰れなかったのだろう。ギルドが潰れていると言っても、自分達を恨んでいるギルド員が逮捕されてるとは限らない。鉢合わせしたら大変だ。

 そしてここで中途半端に食えたのが災いして留まってしまった。



 さて終わりにしよう。


「ただし条件がある」


 また男達がこちらを向く。

 私が何を言い出すのかと恐れている。



「この村を私が貰おう。それが条件だ」



『桃神様どういうこと?』


『佳子、お前は良いものを引き当てたぞ』


『たからどういうこと?』


『この村の地下には碧竜石の精製結晶が大量に埋まっている』

『あお・・・なに?』

碧竜石(あおりゅうせき)。古代の文明遺産でクラリスの扱えるエネルギーだ。お前はとんでもなく莫大な財宝を当てたんだよ』





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