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地球への転送試験

 交流戦から二日経ち、ウエアルの郊外で神三人がある試験をしていた。


 いわゆる物を異世界に送るという試験である。

 この世界と地球は異世界同士。

 しかし時空の関係で地球から物を送るのは簡単だが、こちらから地球に送るのは大変だ。

 まるで高い高層建築の屋上と道路との関係のよう。或いは激しい滝の上流と下流。

 つまりはこちらから地球に物を送るには膨大なエネルギーと技術と制御が必要になる。


 ここに三人の神がいるのだが、一人は新人神ラララ。

 今回の異世界転送の実行者。そしてその動力源のクラリス。クラリスは神ではなくあくまでラララの部下。

 その二人の前には神子ことククリ。ククリはラララを後継者としての教育をしている。

 ククリが時間をかけてエネルギーを貯めれば自身で物を送る事はできるが、ラララが出来るようにならなければ意味がない。

 しかしこの世界で生まれてまだ間もないラララには魔力も神力も他の呼び方の力も少ない。それを補うのは異世界人のクラリス。クラリスには生まれついての魔力持ち。この魔力をラララが制御する。


 そしてそれをダルそうに見つめるのは傍観者の桃神様。桃神様は暇だから見に来ただけである。そして佳子はキリの助手として今日は出掛けているからここには居ない。なので佳子は桃パンツでなく普通のパンツを履いている。

 そんな暇そうな桃神様の相手をするのはユキオ。


「ユキオよ、特等席から見た佳子はどうだった?」


 ユキオは試合中は主審をしていた。一番近くでエチゴヤと佳子の試合を見ていた人物。試合自体はエチゴヤの勝ちだった。


「佳子さんは完全に()()()()()()()()


 佳子の試合には異質なものがあった。

 余程のアクシデントが無い限りエチゴヤのサービスボールをほぼ読みきっていた。まるで心を読めるのか未来を読めるかのごとく。

 そしてそれを佳子自身は認識していない。不思議とは思っていない。本人はそれが当たり前だと思って、異質だと気付いていない。

 だが、読めたといっても打ち返せるとは限らない。エチゴヤの玉は速い。

 そしてユキオはかつて練習中に佳子の勘の良さを一度見ている。クイックフォームやインパクトの瞬間までコースを読ませないのは上級者の技術だが、それでも佳子は食らいつこうとする。殆んど採れなかったが反応は全て当たっている。


「読みきってるか。ユキオにはそう見えたか」


「ええ」


「佳子がそう打たせてるとは考えないか?」


「流石にそれは」


「いや、あの子はもうその域に入っている。対戦者のエチゴヤも無意識のうちに打たされた。右と佳子が思えばエチゴヤも右に。左と佳子が思えば左に。勿論あの子は自覚してない」


「確かなのですか?」


「確かだ。本来なら佳子はエチゴヤの相手にはならん」


「エチゴヤ様も想定よりも苦戦したと言ってましたが、佳子さんの能力は私のせいですか?進化ヒールのせいですか?」


「いや、進化ヒールの影響は1割もない。あれは魂の力だ。神でもない人間が神にもなれそうな程の魂を持っている。これは滅多に有ることじゃない。ユキオは人間は精神と肉体で出来ていると思っていただろう。魂は精神と同じか呼び方が違う程度のものと。だが実際は魂と精神と肉体の三つで出来ている」


「同じものでは?」


「違う。魂と精神は別だ。そして良い魂は善人にも悪人にも関係なく付く。魂の良し悪しは思想とは関係しない。ユキオに解りやすく言い換えよう。魂は考えようによっては一種の武器だ。高性能の武器を善人が持つか悪人が持つか。これの影響は大きい」


 日本人のユキオは魂と精神はほぼ同じものと思っていた。だが桃神様の説明では違う。


「ユキオよ、これはまだ佳子に言うには早い。言えばあの子は迷う。魂の力を知れば人は狂う。突然宝くじが当たったようなものだ。力があるなら必死に使うことばかりに囚われる。他の事は目に入らなくなる。そしてうまく使えないと己を怨みまた狂う。魂こそ素晴らしいがあの子は普通の子だ。とても耐えられん」


「宝くじ・・・」


「米とラララは口には出さないが、佳子を送り返さない事も選択肢に入っている。地球はだめかもしれん。それ以上に佳子が危険にさらされる。地球にも佳子の魂の力に気付く者が居るかもしれん。それが敵ならば佳子は命を狙われる毎日を送ることになる。いくら力が有っても所詮は一人だ。強大な敵には無力だろう」


「なんで・・・」


「それは人間のユキオの方が良くわかっているだろう。人は他人をコントロールすることに快感を持つ生き物だ。自分の事をそっちのけで他人を引いたり押したりあげたり落としたり。それにしても、不幸だから死ねよなんて考えは思い上がりも甚だしい」



 向かい合うラララとクラリスの間には丸い大理石のテーブル。

 テーブルにはニ重丸をベースにした模様が描かれている。一見魔方陣のように見えるが、これは単なる座標表示らしい。そもそも法術は頭の中に構築されている。法術はラララの脳の20番目から31番目までびっしりと書き込まれるほど膨大だ。テーブルや床に書ける程度の量の訳がない。


「初弾装填」

「初弾装填」


 クラリスがテーブルの中心にに100ccにも満たない小瓶を置く。中には小さな生命体、種麦が入っている。これが生きたまま届けば成功だ。


「弾道確立」


 ラララが合図すると黄色い霧が現れ霧のなかに時空の穴が現れる。

 穴は出来た。

 あとは地球まで届くかどうか。


「発射」

「発射」


 抑揚のないクラリスの復唱の後、小瓶はすっと消える。



「初弾ロスト。更に次弾装填」

「装填」


「発射」

「発射」


「中間点を突破。誘導限界越えます」

「観測限界を越えます」


 どうやらあるところから先はコントロールが出来ないらしい。投げたボールが届くのを祈るかのようだ。


「地球からの報告は無い。ロストだ。失敗だラララ。今日はここまでだ」


 地球ではユキオの母親麻生が待ち構えていて居たが、何も受け取れなかったらしい。




「駄目だったようだな」

 桃神様がわかっていたように言う。


「難しいのですね」


「初めてだからこんなもんだろう」


 残念な結果なのに余裕の桃神様。初めてで上手く行くとは思って居ない。

 桃神様自身はこちらの穴から矢を撃って地球側のチンピラ神を仕留める腕前だ。

 だが最初からそんな腕前だった訳ではない。

 それに、あれは佳子の魂の力も使っている。自身でやらず佳子の身体を使って弓を引いたのはそのためだ。

 いわば、クラリスの代わりに佳子を使ったのだ。佳子のは魔力ではないが。とはいえ佳子は自身の力の使い方を知らない。


「ラララよ、どうする?」

 神子はラララに問う。

 これは課題。


「17段点火に増やします」

「違う。それでは不安定さは消えない。一旦下階に下ろして助走距離を長くしなさい。消費は増えるが制御時間は長くなる、狙いはつけやすくなる。クラリスにはまだ余裕がある」


 見た目は少年なのに言葉はまるで違う神子。


「次は来月だ」

「はい」


 師と弟子の会話が終わり、今日の試験は終わった。



最近、桃神様がパンツ業をサボってます。

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