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3対3でどうでしょう?いいですよ。

 今日はサクラ姫の公務の護衛でテニスは無し。

 クラリスは午前中キリさんの護衛兼社会見学で、午後は言葉の勉強。


 そして今サクラ姫と昼食なんだが。


「食欲無い」


「食べないともたないわよ」


「でも・・・」


 平常どおりに食べるサクラ姫。よく平気で食べられるな。死刑執行後なのに。


 ウエアルが昔に比べて平和になったとはいえ犯罪は未だあるし、ギルド時代の犯罪が今になって摘発される事もある。

 死刑のことをここでは獄門と言うのだそうだ。

 殺される直前の死刑囚の様子はさまざまだ。

 泣き叫ぶ人、怒り狂う人、静かな人、無罪を訴える人。

 私にとってこの無罪を訴える人がかなりキた。

 ここの場所に来るということはそういう人物なのだが、無罪を訴えられると可能性を探そうとしてしまう。もういちど捜査をやり直してしまいたくなるのだ。

 だがサクラ姫はぴしゃりと言った。


「部下の仕事は信じなければいけません。でなければ貴方が全てをしなければならなくなる。これは何人もの部下の仕事の結果なのです。まあ、佳子さんの気持ちは分かります。でも解ってください。そして現場を見なくて良かっただけ幸せだと思いなさい」


 恐らくは担当者は既に地獄を見てきたのだ。その上で二本の足で立っている。それで事を進めてきた。

 その人たちを支える職場の人達も居る。

 彼等は苦しみ悩み迷い、判決までこぎ着けた。安易に捜査やり直しとは言えない。

 死刑囚の訴えを毎回のんでいたら終わりは来ない。


 私は間違っているだろうか?

 私はもっと過酷になる地球で生きるなら何が必要になる?非情さ?無情さ?感情的になるのは間違い?


 今月の獄門は三人。

 これは多いのか少ないのか。


 町の外側にある刑場には六人の奉行所所員と番屋総代。獄門は一般には公開されてない。つまり被害者や死刑囚家族も入れない。


 サクラ姫は汚れた黒装束に着替える。スッキリとした黒ではない、汚れがある黒。洗濯はされているが綺麗とは言えない。あの汚れは血なのかもしれない。


 死刑囚は地面に立てられた丸太に縛られている。目隠しはされていない。

 サクラ姫はガタガタと震える死刑囚の服の前側を両手で広げ胸を露出させる。三人ともだ。

 今回は三人とも男だが、女でも同じだろうか?


 そしてサクラ姫は右の男から順番に胸に掌を当てる。心臓の上だ。


 ドン!


 サクラ姫の掌から見えない何かが走った!

 あうあうと苦しみ出す死刑囚。心臓を何かの魔法で止めた?いやそれだけじゃない、呼吸も出来ないでいる。あからさまに苦しんでいる。

 それを右の人、真ん中の人、左の人と。

 そして、即死せずに少しづつ死に行く死刑囚三人の前に立ち続けるサクラ姫。



 死刑囚が最期に見たのはサクラ姫の黒装束姿。


 そして三人が息を引き取ると、漸くサクラ姫は戻ってきた。流石に死体運びはしない。


 見ていて怖かった。

 見ていて苦しかった。

 見ていて止めて欲しくなった。

 見ていて何かが私に向かわないか怖かった。



「私にもしろと言うかと思いました」


「獄門のこと?貴方にしろだなんて言わないわ。これは私の部下の仕事の集大成。私の役割。これくらいは私がしないとね。これ以上部下の心にに負担は増やせないわ。佳子さんは佳子さんの国ができたならやりなさい。ここの領主は私よ」


 人の死刑確定までには相当な職員の苦しみがある。死刑執行をサクラ姫がすることで、苦しみを共有するということだろうか。




 そして食事なのだが。

 食欲わかない。

 しかも目の前に並ぶのは普通のウエアルの食事。つまり不味いのだ。

 芋と雑穀で固めたヨウカンのようなもの。甘くもなければ辛くもない。塩すらない。それをぬるい水で流し込む。

 日本人からするとこれも地獄だわ。


 ちまちま食事をしているとサクラ姫が話し始める。


「コユキ姉様から来週来ると連絡がありました。3対3のテニスの対戦をしたいそうです」


 これはサクラ姫とコユキさん(神子経由)の通信だね。

 コユキさんとラララさんは村に居る筈。


「たった3人?」


「いえ、オーリンからはもっと来るそうですが、対戦は3人です」


「いいよー。3人って誰だろ。コユキさんとえーっと」


「聞きますか?」


「聞いて聞いて」


 サクラ姫は脳内通信をまたし始めたのだろう。黙っている。

「あら、内緒だそうです」


「えー、コユキさんは確定だよね。あと誰だろ?ガガガさん?」


「あ、追加情報が来ました。先鋒、次鋒、大将のうち、先鋒は若手から選ぶそうです」


「若手?みんな若いじゃん」


「コユキ姉様は違いますよ」


「あ」

 見た目は18歳だが中身は30(たぶん)だった。


「まあ、鬼斬りかエチゴヤの若い衆ってことでしょうね」


「じゃあ、こちらも合わせなきゃね。大将はクラリスとして、次鋒は私。あとひとりねえ」


「あら大将しないのですか?」


「止めとくわ。あれから何度やってもクラリスに勝てないんだもん。しかもじわじわと真綿で首を絞められるように敗北するのよ。コユキさんにも味会わせててやりたいわ」


「コユキ姉様負けるかしら?」


「判らない。どうなるんだろ?」


 コユキさんは恐らくは殺人サーブに殺人アタックするだろう。

 だがクラリスの返球率は異常。そしてスタミナも底無しだ。

 コユキさんも筋力とスタミナは異常だけど、クラリスのそれは遥かにコユキさんを上回る。つうか、種族が違う。


 そしてこちらにはマトモな先鋒が居ない。

 ぶっちゃけ私とクラリス以外は初級者集団。

 練習試合をしてもポイントの9割はミスで決まる。

 この間ユキオさんにも、


「これは酷い」


 と、言われたばかりだ。

 救いはユキオさんがコユキさんサイドに味方しなかったことだけ。


 しかしサクラ姫はこう言った。


「3対3と言ってきたのは、向こうも5対5をするためのメンバーが組めないからじゃない?」


「はっ!」


 そうだ!

 3対3と言ってきたのは向こうだ。

 対抗戦をしようというのは前々から決まってた。交流の意味合いなら5対5がいい。なんなら7対7でも。

 案外向こうも似たり寄ったりかもしれない!



 いける!

 これはいける!






 だが、三日後にチーム内で先鋒選抜戦をしたらあまりの酷さに絶望した。

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